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悪魔令嬢  作者: 滝革患
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レウスルート

「さあ、なんのことかしら?」

こうなったら堂々と開き直ろう。

おどおどしたらだめよ私。


「面白い…」

レウスは聞き取れない声でつぶやいた。


「安心して、君を兄さんには渡さないよ」

ビスティエの耳元で、さりげなくレウスは囁く。


「兄さん、向こうに豚がいるよ」

「なに!?」

ネシスは目の色を変えて、黒い肉の固まり、つまり豚肉になる前の豚を追いかけた。


「さあ、逃げて魔王に見つからないように」

「魔王ってマーグス様?」

どうして今、魔王の名が出たのか、ネシスに見つからないようにするのは解るけども。


「そうだけど、理由は知らないほうがいいね」

逃がしてくれたことに感謝して、私は急いで屋敷に戻った。


ビスティエが天界に行こうとしたと知ればネシスはきっと許さない。

レウスは気がついていたが、それを言わずに、彼女を逃がす。


それを切っ掛けに、レウスはネシスに隠れてビスティエの屋敷で度々話をするようになった。


「レウスってロレウスと名前が似ているわね」

ビスティエは何気なく呟いた。

「それは誰ですか?」

レウスは他の男の名前が彼女の口から出たことが、面白くない素振りを見せた。


「そこら辺を歩いているへんなやつ」

「…ならいいです

僕の名前はエリザベスをベスにするように、縮めただけでもう少しながいですよ“ネスレウス”なんです」

「そう、一気にイメージが違う名前になったわ」

レウスはくだらない名前遊びで楽しめる彼女が、羨ましくなった。


レウスはほぼ毎日ネシスに内緒でここに来ている。


「暇なの?」

「僕がまじめに執務をする悪魔に見えますか?」

彼が真面目な悪魔かと問われれば、答えは否だ。

一見真面目そうな彼はマイペースに本を読んだり、好きなことをやる自由人だということは初めからわかっている。


「本を読むくらい家でも出来るでしょう?」

「家にいるのは公爵の座に着いている兄と、僕を伝い兄に取り入る小悪魔しょうあくまで溢れている…」

レウスは爵位がほしかったのか、それとも好かれるネシスが妬ましいのかわからない。


「すみません、貴女に八つ当たりしても仕方ないことでした」

「前から思ってたんだけど話し方、統一してよ」

「じゃあ普通に話すよ」

レウスはパタリと本を閉じた。

帰るのかと思いきや、まだ帰らないようで、ゆっくりお茶を飲みはじめた。



「魔界にある公爵の家は一つだけなんだ」

「知らなかったわ」

唯一知っていたフォルゾイの他に私が知らないだけでもっといるかと思っていた。

だけどなぜいきなりその話になったのよ。


「ネシスには黙っていろと言われたけど、言うよ

君は魔王の花嫁候補に選ばれた」

魔王の妃…そんなものに私が選ばれるなんて何故。


「は?魔王って時代の?」

「いや、現魔王マーグスだよ」

「現魔王様ってことは…何百の妾の一人ってことじゃないの?」

いくら魔王でもお断りである。


「現魔王は独身だよ」

「そうなの!?」

でも独身でも年寄りでしょう。絶対お断り。


「魔王様の妻なら侯爵家より公爵家から…」

“公爵家は一つ”つまり公爵家に令嬢がいないから、侯爵家から令嬢達を選定した。

レウスが始めにそれをいっていたのはそういう理由からだったのか。


「まさか私を魔王様のところに連れていく気?」

「連れていきたくない」

レウスは私の目を見て、はっきりそう言った。


「こんなところにいたのか」

「兄さん」

「明日には準備が済むぞ」

レウスは私の手を引いて、外まで走り出した。


そして空を飛んで、屋敷から遠いところまで逃げた。


魔王に差し出す気満々のネシスに捕らえられれば、私は超絶にまずかった。


レウスには感謝している。

しかし、彼の立場が悪くなるのではないか。


「意外だったわ…」

「何が?」

「逃避行なんて、大胆な真似するなんてね」

私を助けても、なんの見返りもない。

それは彼もわかっているはずだ。


しかし、損得勘定抜きで、真心から私を助けたとも考えにくい。


「何で私を連れて逃げてくれたの?

まさか私を単なる救済欲求なわけでもないでしょ?」

「もちろん下心はあるよ」

レウスは双子の兄ネシスと変わらず邪悪な微笑みを浮かべた。


「兄の面目を潰してやろうと思ったから」

「は?」


「君が兄の手によって魔王に献上されるのを阻害すれば…見物だよ…」

さすが悪魔の大貴族様。

私より更に上をいくほどの性格の悪さだ。


「もしかして、あんたが私を魔王に差し出すわけ?」

「別に…兄は嫌いだけど、かと言って魔王を心酔しているわけでもないよ」

どうやらレウスは兄の手柄を横取りしたいわけではなく、手柄そのものを砕いたらしい。

自分が魔王になるとか、もっと向上心はないのかしら。


「それに…惜しいから」

レウスはぼそりと呟いた。


「いま美味しいって言わなかった?」

「はあ…」

レウスは呆れている。


このまま逃げていても、仕方ないし、逃げた後はどうするんだろう。


魔王が私を諦めてから屋敷に戻ればいいか。

どうせ魔界を統治する偉い男が、私のような小娘を本気で妃にするわけないのだから。


「見つけたぞ」

「げっ」

早くもネシスに追い付かれてしまった。


「どうしてここが!?」

「双子だからな…ともかく、お前を城へ連行する」

「冗談じゃないわ!」

私は速く飛ぶ。


「逃げるのか…お前が応じなければこのままレウスを反逆罪で裁かねばならん」

レウスをダシに私を捕まえようなんて、馬鹿な男。






「だしなさいよ!!」

私はいま、城の地下にいる。


「愚か者め…出せばお前はまた逃げるだろう」

私にはほとんど無関係レウスを、自分の代わりに犠牲にさせるのはなんだか抵抗があったから。


「そんなに私を嫁にしたいなら魔王様が来ればいいのに、手下をつかうなんて最悪!」

おまけに地下に監禁なんてマジ最低、魔王だけど。


「フン…これは私の独断だ」

「は?」

「魔王様は別にお前を指名したわけではないが、この前たまたま見かけて、偶然条件に見合っただけだ」

つまりは、私はまだ逃げられるってことよね。


よし、こいつがいないときに抜け出せば…そして魔王に別の子を差し出せばいいわよね。

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