ヤミュエールend
私は神に創られ、初めから、容姿、声、思考がほとんど等しく。
まるでカミュレットそのものであるかのように、周囲から求められるのは神の言葉を聞き、助言することで神の代弁者となる立場であった。
何より規律、感情、悪を廃すこと。
誰よりも、理性や聡明さ、善を持つこと。
しかし、私には堕落した悪魔の持つ妄愛だけでなく、天使の持つ慈愛すら欠落していた。
『久しいな、天使長ヤミュエール』
『ラクエル…いや、魔王・マーグス』
『道中悪魔の少女に見られていた』
ビスティエ=コンビフス、彼女を最初に見かけたのはいつのことだろう。
上位天使であったマクエルが、魔王となり堕落した作った場所の少女。
人間界からサンプルを集め、まるで創造神のように造り上げた世界。
なぜ私は創られ、彼女がいたのか、それはわからない。
しかし、かつて人間界へ降りた時に、彼女と似た少女がいた。
たった一度見ただけなのに、懐かしい気がしたのは何故だろう。
最後に姿を視た神は私に、人や悪魔の愛を見届けることを任せた。
私には神の云う愛が欠落していた。
助けること、長として天使を纏めることは愛ではない。
愛は堕落したものである。
それは天使であっても抱く概念。
しかし、私には無かった。
なぜ神は失敗作である私を存在させるのか、愛を知らない私に見届けることなどできない。
『ヤミュエール、何か良いことでも?』
『魔界で悪魔の少女が…』
彼女が見ていたのは、私が魔界に居ない天使だから。
自分でもわかっているはずだ。
いぶかしむ部下に、何でもないと言い、詞を飲み込んだ。
――――
ビスティエ=コンビフスは走り去ってしまった。一体どうしたのだろう。
天使長の様子もなにやら変だ。
この女ただの下等悪魔相手、そう思っていたが、どうやら違うらしい。
「…天使長ヤミュエール」
妙に気になって、訪ねてみることにした。
「何か?」
「コンビフス家といえば魔界の貴族では?」
「…それがどうかしたのか?」
珍しい。天使長がこんなに負に近い感情を表に出すなんて。
「いえ、貴方が魔界の情勢を知っていることは
なんら不思議ではありません」
「そうか…」
「しかし、彼女がただの下等悪魔でないことを何故知っていらしたのです?」
「…君には関係ない」
天使長は踵を返した。
―――
「ビスティエ=コンビフス」
「ヤミュエル!?」
また魔界に訪ねてくるなんて、一体なんの用かしら。
「私は恐らく、貴女を意識しています」
「意識!?」
ヤミュエルが私を意識――――?
いつのまにか眠りについて、見ている夢ではないのか。
現実なのか、確める術はない。
一先ず自室で寝よう。
夢から覚めればこれは間違いなく本当だにヤミュエルだ。
「ちょっと一回睡眠を摂ってくるから
起きるまでそこ…じゃなくて客間に居てくれる?」
ヤミュエルを貴賓室のソファに座らせる。
私は眠りについた。
「おはよう」
「おはようございます」
「夢じゃなかった…」
貴賓室のドアを開くと、ちゃんとヤミュエルはそこにいた。
「ちょっと待って、ヤミュエルが私を意識だとか、いつ好きになったのか解らないんだけど」
流されるところだった。
ヤミュエルは天使、嘘や偽り、騙しや詐欺ではないと、彼の立場からでは解っている。
しかし、私自身ヤミュエルをただ遠くから見ていただけで、どうしていきなり意識なんて――――。
「…意識はしていますが、おそらく愛ではないです」
「ああそう…」
ちょっと先走り過ぎた。
「自分自身、何がしたいのか、判断できません」
「…私だって」
悶々と悩む前に、初心者用の恋愛マニュアル本を読んでみる。
「まずは…手でも繋ぎますか?」
「どこで!?」
私達が手を繋ぐ光景を見たら天界も魔界も滅茶苦茶になる。




