チェギスルート
リボンを取りにいってもなんだか気まずい。
家に帰ればたくさんあるのだから。
「帰りましょ」
「手を繋いでやろうか~」
「子供扱いしないで!」
「はあ…ビスティエがつめたいのはヤミュエールのせいだ」
チェギスはいじけている。
「しょうがないわね、さっさと帰るわよ」
私はチェギスの手をひく。
「ビスティエ~自分から手を繋ぎたかったなら最初からそう言えばいいのに~!」
つけあがらせてしまった。
チェギスも帰ったことだし、ビーフ缶のフタをパカり。
「俺には哀れな小羊の肉を…」
「アンタ…なに平然と屋敷に上がり込んでるの…!」
「気にするな~」
「するわよ」
さりげなく人の家の肉を食べるな。
「天使長ヤミュエール、優秀な天界の管理だと聞くが…」
「でしょうね」
チェギスはヤミュエールについて語るビスティエを悲しげな表情で見つめた。
「勘違いしてるようだけど、私は別にヤミュエルが好きなわけじゃなくて偉い肩書きと天使っていう未知の存在が気になっただけなんだから」
口では本気ではなく、彼に対し愛や恋の要素はないと言うビスティエ。
しかしその本心に、チェギスは気がついている。
「はっはっは、俺には及ばないだろう!」
「どこからそんな自身がくるの!」
ビスティエは勢いよく肉を食べる。
「口が汚れているぞ」
チェギスはテーブルに置いてある黒い布で、ビスティエの口を拭う。
「子供扱いしないで!」
「俺は缶詰の牛肉は食べないからな」
「それどういう意味よ」
ビスティエには意味のわからない事を呟いて、チェギスは屋敷を出た。
「ネシス=フォルゾイ公爵の双子の弟は馬肉を食うと聞いたんだが」
牛しか食べない私には馬も羊も関係ない話。
「馬を食べるなんて~正気の沙汰とは思えないな~」
肉の各種盛り合わせを食べている。
その中には可愛いウサギや馬もいる筈で、私は悪魔なのに動揺したのでまだまだだと反省する。
「ところでどうして今日もいるのよ肉くらい家で食べなさいよ」
わざわざ家に来なくても、チェギスだって伯爵家なのだから肉は食べ放題のはずだ。
「ははは~家にいるのが辛くて~なあ…ははは」
なんだか様子が変だ。
いやこいつのテンションはいつもおかしいか。
「縁談?それとも放蕩息子だから?」
「…母が実家に帰ってしまった」
どうやら家内がゴタゴタモメているらしい。
「子供じゃあるまいし、両親の夫婦喧嘩で幼馴染みの家に逃げないでよ!!」
「はっはっは…ここ一週間毎日、母が父に呪いの手紙を送っているんだ」
「呪いの手紙ね…」
「俺が留守にしていた60年前から、毎日“殺す”“憎い”“ハゲ”と父に対しての恨みつらみの綴られたデスレターがあったらしい…」
「へえ…」
それくらい普通よね悪魔だし。
そこまでいくとなぜ離婚しないのか、大人って不思議。
「俺は女癖の悪い父にも色々と恐ろしい母にも似なくてよかった」
「そうね」
と外見は三人とも似ている写真を見せられた。
写真からでもわかるほどニッキー夫人にはヤバイオーラがある。
「ビスティエ…ダメか?」
もうしかたないからチェギスが家に来ることを許すことにした。
「忌々しい天使め…」
悪魔の男は魔方陣を描き、怨み憎しみの言霊を紡いだ。
「あのね、肉を食べるくらいは許可したけど、私の目の前で黒魔術をしていいとは言ってないわ」
「何をいうんだ~可愛い幼馴染み(ビスティエ)の為に恋のキューピッドを演じようとしているだけなのに!!」
「ヤミュエルに東洋式の呪詛をかけるのがキューピッド?」
呪っている姿を他人に見られると逆に呪われる。
といっても悪魔が呪われても死にはしないか。
「はあ…」
「ヤミュエルのどこが気に入らないの?天使だから?」
私の問い掛けに、チェギスは顔をそらしたまま。
「…それもあるが、なんとなく~。」
煮えきらない曖昧な答えを返す。
「俺が天使長ヤミュエールを嫌って、何かお前に不都合があるのか?」
いつになく鋭い目つきで、ピシャリと言い放たれる。
普段からふざけてるやつなのに、こんな顔もできるんだと思った。
「お前が困るわけじゃないだろ~?」
私が驚いている間に、すぐにヘラヘラふざけたチェギスに戻る。
「そうね、たしかにチェギスに関係ないわ!」
つい、カッとなってしまう。
チェギスは小馬鹿にしたように、ニマニマ笑っている。
悔しいが、こいつには口では敵わないらしい。
ここ最近毎日訪れていたチェギスが、今日は来ていない。
別に取り立てて気になるわけではないが、その辺りで倒れてはいないか、ほんの少し心配だ。
空を飛んで探してみることにした。
するとわりと早くチェギスを見つけられ、着地しようかと思ったのだが、チェギスは何やら悪魔の女達に囲まれている。
集団には近づき難い、だからといって、私が引っ込んでどうする。
相手はどう見ても男爵家やらの末端魔力クラスだ。
それに彼女たちからすれば、私はチェギスよりも上なのだから堂々とすればいいのよ。
ただ私は団欒をわざと壊すほど無粋ではない。
おおらかな心で、上空から観察していよう。
「チェギス様~明日の舞踏会でどなたと踊られますの?」
「さて、どのご令嬢にしようかな」
チェギスの癖に女にチヤホヤされるなんて。
しかも余裕たっぷりモテモテじゃないの。
「ダンスパーティーの相手は私ですわよね!?」
「なにを言いますの子爵家の私ですわ!」
順番でいいじゃないのよくだらない。
「まあ、権力などこの魔界においてはあまり意味がありませんのよ?」
みんな同じことしか言ってない。
「おまえたち、なにをいっているの、チェギス様のお相手は彼と同じ伯爵家の私にきまっていてよ!」
「ははは…」
ダンスパーティーなんて興味なかったのに。
ドレス作らせなきゃじゃない。
「え!?」
ビスティエ様がダンスパーティーのドレス!?」
「なんだと!?魔界が壊れる!!」
下働き達に命じたら、これである。
なんて大袈裟なリアクションだろう。
すぐにドレスが完成した。
あとは明日のパーティーにいくだけだ。




