アデラ家
「ほら、これが私の家だよ」
鳥居からすぐの場所にある一軒の建物の前に来たとき、美しい銀色の髪の毛を風になびかせながら、航はアデラに家を紹介された。
外観を見る限り、アデラの家はキィド標準でいうとごく普通の家だった。木造でできておりもちろん平屋。そして、いちおう窓があるのだが、ガラス窓は使われておらず木製である。風雨が強い場合には少し心もとない気がするが、何とかなるのだろう。
つまり、裕福とは言わないまでも現代日本人である航からするとちょっと――な家である。日本にある一番ぼろい借家でももう少しはましなはずだ。
「さあ、中へお入り」
それから、取っ手に手をかけて扉を開け、アデラに中に入るように促された。航のこれまでの人生経験上、親族以外の女性に家に招かれたことは初めてだった。しかも、女性というだけでなくてまるで北欧神話に出てきそうな美女に招かれたのである。
少し、緊張しながら航は家に入った。家の内部もまた外観と同様に日本ではあまりお目にかかれない内装であった。まず、目についたのは部屋の中央に鎮座する石を積み上げてできた物体である。その物体の上に鍋が置かれていることから火を起こせるものだと分かる。それから、なんと床は、板でも畳でもなくて土がむき出しになっていた。土間であった。内部もキィド標準のようだ。
「何、突っ立ってんだい、椅子にでもお座りよ」
「はい」
航はアデラに言われてテーブル脇にある椅子に座る。そして、テーブルを挟んで反対側にある椅子にアデラも座った。目の前に座ったアデラと一瞬目が合うが、すぐに視線を外す。女にはなれていないのだ。
「先ほどから人の胸をちらちらと見ている割には目を見て話すこともできないのかい? ちらちらと胸を見るほうがよっぽどはずかしいと思うんだけど」
「いや、あの……」
「まさか、ばれていないと思ってたのかい。出会ったときから、ちらちら ちらっちら、隠す気がないものと思ってたよ」
「あまりにもないのが、かえって気になってしまいまして……」
「恩人に向かってなんて言いぐさだい。そんなに気になるのかい?」
「なかなかお目にかかれない小ささが逆によくて」
そんなことを口にしたとき、航はアデラに睨まれてしまった。
「そんなに小さい、小さい、言うんじゃないよ。一応、気にしてはいるんだから。それ以上言うと、この家どころか、村長に言って今すぐに村から出てってもらうよ。行くところがあるのならいいけどね。まぁ、あったとしても、何日か野宿しないと、他の村にも行けないだろうけどね」
「……。すいません」
航は、シュンと縮こまり言った。この世界のことをよく分からないような状態の今、村を追い出されたら死んでしまう。それが分かっていて脅し文句でいったのだろうが、悪いのは自分なので言い返せない。スキル不足だったかと、心の中で舌打ちをする。
「分かったらいいよ。それより、少しあんたのことを聞いておきたいのだけどね。一応、明日、村長宅にいくわけだし。何か聞かれるといけないから」