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ゴブリンであってゴブリンでない

 「な・・・・・・」

 航は、恐怖した。そして、理解した。格の違いを。

 目の前に現れたのはゴブリンであってゴブリンでなかった。

 緑色で醜悪な面はゴブリンのそれであったが、身長は3mを超え、その体躯は筋骨隆々であった。そして、その手には朱色に染まった巨大なこん棒を持っている。

 モンスター初心者の航にも分かる圧倒的な存在感。

 「ゴブリン・・・・・・ヒーロー。なんで・・・・・・・」

 アデラがそうつぶやいた。

 犠牲を出しながらも有利に戦いを進めていた村人たちの間に緊張が走る。

 ゴブリンヒーロー。

 それはゴブリンであってゴブリンでない豪のもの。

 それはゴブリンであってゴブリンでない統率者。

 それはゴブリンであってゴブリンでない化け物。

 村人たちの緊張は次第に恐怖に代わっていく。

 戦場に現れたゴブリンヒーローの異形さに恐怖しているというのもあるが、かつて、キィド村を襲った悪夢の再来故でもある。

 「忘れたころにとはこのことだね」

 そう言ったアデラを航は見た。

 恐怖にとらわれようとしていた村人の中でただ一人だけ、アデラだけが微かに笑っているように航には見えた。

 「こいつは私がやる。あんたたちはそっちのゴブリンとゴブリンシャーマンを頼むよ」

 アデラはそう叫ぶと、弓を捨て剣を引き抜いた。

 「村長、航、援護を頼むよ。わたしが前に出る。あいつにスキができた時でいいから遠隔攻撃をしておくれ」

 「分かりました」

 「分かった」

 アデラは村長と航に指示を出し、ゴブリンヒーローの攻撃範囲ぎりぎりまで近づいた。

 ゴブリンヒーローの赤く血が知った目がアデラに向けられる。

 「キシャ―。グルゥゥウァオーーーーーーーーーーーーーー」

 ゴブリンヒーローはけたたましく叫び声をあげた。

 そして、巨大なこん棒を振り上げて、アデラに向かって振り下ろした。

 「遅いね」

 死の一撃をアデラは素早くかわし、がら空きとなったゴブリンヒーローの右ひざに切り込んだ。

 カシャーン

 ゴブリンヒーローの皮膚は簡単にアデラの一撃を弾いた。

 「な・・・・・・」

 剣が弾かれた瞬間、悪寒を感じとってアデラはゴブリンヒーローの攻撃範囲外に転がり出た。

 ヒュッッ。ドガ――――ン

 土埃が盛大に巻き上げられる。アデラが先ほどまでたっていた地面にゴブリンヒーローの鉄拳が突き刺さっている。

 「これでも食らいなさい」

 村長はそう言って、何やら唱えだした。

 「火の神カグツチよ、我に力を与えたまえ。我はここに血の一滴をささげる」

 手に持っていた刀で村長は小指に切れ込みを入れ、血を地面に落とした。

 すると、地面に落ちたはずの血は空中で消え去り、その代わりに、村長の右手のひらに火の玉が姿を現した。

 「はぁーーーーーーー」

 火の玉が大きくなる。

 「はぁーーーーーーー」

 村長が気合を入れるたびに手のひらの上に浮かび上がっている火の玉は徐々に大きさを増していく。

 「ファイヤーボール」

 ゴブリンヒーローに手のひらを向けて、村長は技名は大声で叫んだ。

 その瞬間、直径1mはあろうかという火の玉が高速で飛んでいき―――

 「ギャーーーーーーーーーーーーーー」

 ゴブリンヒーローに命中した。

 激しい爆発と同時にゴブリンヒーローが白煙に包まれて航たちから見えなくなった。

 「ギャーーーーーーーーーーーーーー。キシャーーーーーーー」

 「ギャーーーーーーーーーーーーーー。キシャーーーーーーー」

 ゴブリンヒーローの悲痛な叫び声が広場にこだまする。

 ゴブリンヒーローの叫び声が徐々に小さくなっていき、それと同時に、煙が散っていき視界が元に戻ってくる。

 位置関係からか、煙が散り、視界が徐々に戻ってくる中で、ゴブリンヒーローが両手・両ひざを地面につけてうずくまっている姿を航はいち早く発見した。発見してしまった。

 「これはチャンスだ」

 航は小さくつぶやいた。

 そして、航は剣を握る手に力を込め、ゴブリンヒーローに向かって素早く駆けだした。

 「航? 何を。やめるんだ航」

 アデラが気づいて叫んだ時には、ゴブリンヒーローの攻撃範囲内にすでに航は踏み込んでいた。

 「おりゃ――――――」

 渾身の力を込めて航はゴブリンヒーローの脳天に剣を振り下ろした。いや、振り下ろそうとした。

 刹那、下卑たほほえみを浮かべてゴブリンヒーローが顔をあげ、脳天への攻撃を左腕で受けた。

 カシャーン

 「なに・・・・・・」

 無残にも剣は弾かれて、ゴブリンヒーローの待ち伏せを受けた航は無防備になる。

 下卑たほほえみをそのままに、ゴブリンヒーローは膝立ちしてこん棒を振りかぶった。

 「やばい。これは死ぬ」

 下卑たほほえみを浮かべる醜悪なモンスターの攻撃を死に際のスローモーションの中で見ながら、航はそう思った。

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