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かくして少年と少女たちは出会った

 アルマが走り去った後、短槍を持って行かれたことに気付いた。

 アルマを探してトレーラーを探し回ったけど、アルマの姿はどこにもなかった。仕方なく部屋に戻ろうと歩いていると、俺の部屋の前で騒ぐ女が二人。

 なんか言い争ってる。

「ダメなのです、ハイデ。人の部屋に勝手に入るなんて」

「うるさい、アンネ! アイツは今、アルマ姉のところに行ってるから大丈夫!」

「ぜんぜん大丈夫じゃないのです……」

 どうも俺の部屋に勝手に入ろうとしてるらしい。

 二人ともアルマくらいの身長で、顔はかなり幼い。歳は十二か、十三ってところだ。そして何より二人の顔はよく似てた。たぶん、双子だ。ハイデとか呼ばれてる方は釣り目で活発そうだが、アンネと呼ばれてる方はたれ目でおとなしそうだ。二人の違いはそのくらいで、髪は茶色だし身長も同じだし顔も似てた。

 双子が俺の部屋に何の用だ?

 しばらく様子を見ることにする。

「いい、アンネ? これは重要な任務だから」

「任務?」

「そう! アンタもあの女の動きを見たでしょ? あれは人間の動きじゃなかった! あんな動き訓練学校じゃ教えてくれなかったでしょ?」

 動きっていうのはエアブーツの機動のことか?

 そうだとしたらあの五人の中に二人がいたってことだ。その歳で滅竜士として活動してるなんてかなり珍しい。しかも滅竜士の訓練学校出身っぽい。見た目通りの歳なら飛び級して卒業したってことだ。見た目とは違ってかなり優秀な滅竜士のようだ。

「う、うん。そうだけど、それでなんで部屋に忍び込むことになるのです?」

「そんなのアイツの正体を突き止めるからに決まってるでしょ! たぶんアイツ、竜だよ! 竜が人に化けてるの!」

 そんなわけあるか!

「ええ!? 竜って人に変身できるのですか!?」

「できるわよ! やろうと思えば!」

 いや無理だから!

 ハイデの発想に頭を抱えたくなった。

 いったい誰がそんな荒唐無稽な話を信じるんだよ……。

「そ、そうなんだ! じゃあ、旅団のみんなが危ないのです!」

 いたいよ、ここに。

「そう! だからアイツが戻ってくる前にさっさと入るよ!」

「うん!」

 あーこのままじゃ本当に部屋に忍び込まれる。

 いや荷物も何も持ってないから入られてもいいだけど、いろいろかき回されるのは勘弁。

 そろそろ出て行くことにしよう。

 双子の背後に忍び寄って声をかける。

「部屋に忍びこむのは勘弁してくれないか?」

「わぁ!」

「ひゃ!」

 同時に驚いた声を上げる双子。

 恐る恐るといった様子で振り向く。

 最初に声を上げたのはハイデだった。

「で、でた! 女に化けた竜!」

「違うわ! 竜が人に化けられるわけないだろ!」

「え? そうなのですか?」

「騙されちゃダメ、アンネ! 犯人が犯人は自分ですって言うわけないでしょ」

「そ、そうです! 言うわけなのです!」

「じゃ訊くけどお前たちが通ってた訓練学校で竜が人に化けるって教えてくれたのか?」

 アンネがハイデを見る。

 アンネの目が「教えてもらってないよ」とハイデに語り掛けている。

「そ、それは……。し、新種だよ! 人に化けられる新種が出たの!」

「そんな新種は報告されてない。そもそも竜の知能は人間以下だから人語を理解できなし、話せない。それに竜の体重は人間の数倍だ。この体重のまま人間に化けてるなら俺はそうとう重いんだろうな」

 俺の言葉にハイデがすぐ飛びついた。俺の腰に手を回して「ふん!」と持ち上げようとする。

 小さくても流石は滅竜士だ。七十キロはある俺の体を辛そうではあるが持ち上げてる。

 それを見ていたアンネが呟く。

「持ち上がっちゃったのです……」

 そうだね。俺が竜だったら持ち上がらないだろうね。

 てか、そろそろ下ろして。

 歳下の女に抱っこされるのめっちゃ恥ずかしい。

 俺の願いがつうじたのか、ハイデがゆっくりと俺を下ろす。

 その顔はなんか不思議そうだった。

 俺が竜じゃなかったことを不思議がってるわけでもなさそうだ。

 ハイデは元の位置に戻ると、アンネの耳元に何か囁く。

 するとアンネが驚いた声を上げる。

「え!?」

 二人でコソコソと話しだす。

 そして二人して俺のことを不思議そうな顔をして見る。

「なんだよ?」

「いや、なんていうかさ。アンタってもしかして……」

 何かを言い換えるが歯切れが悪い。途中で言葉を止めてしまう。

「やっぱりいい!」

 そしてそう言うとハイデは走り去ってしまう。

「待ってください、ハイデ!」とその後をアンネも追って行く。

 結局、なんだったんだ?



 双子とアルマに意味もわからずに走り去られてもやもやするわ。

 それでも腹は減るので、夕食を食べに食堂にやってきた。よそ者がいるとゆっくり食べられないと思って時間を遅くした。

 予想通り食堂はがらんとしていた。ただ、誰もいないわけじゃない。

 一人の女がちょうど食べ終えたらしく、食堂を出ようとしていた。

 必然的に俺と鉢合わせする。

 ぼさぼさな長い黒髪は枝毛が何本もあり、前髪で顔がよく見えない。そのせいで女からは全体的に暗い雰囲気を感じる。

 身長はユーリアと同じくらいだが、ユーリアよりも痩せていて病的に見える。だけど、ユーリアよりも胸が大きかった。

 たとえるならユーリアが盛り上がった砂丘なら、コイツはでかい山だな。

 いかんいかん、視線が自然といってしまう。

 できるだけ遠くに視線を向けながら挨拶する。

「どうも」

 と手を上げると女はビクッと肩を震わせた。前髪のせいで表情が読めないけど、脅えてるみたいだ。

 なんだ? 怖がらせるようなことしたか?

 まったく身に覚えがない。

 気のせいかと思って、そのまま通り過ぎようと一歩進むと、女が一歩下がった。さらに一歩進むと、さらに女が一歩下がった。

 うん? なんだ?

 試しに一歩下がってみると、女が一歩進んできた。

 二歩進んで一歩下がると、女が二歩下がって一歩進んだ。

「……」

「……」

 俺の動きに合わせて連動する女。

 何がしたいんだ、この女? 意味がわからん。

 なんか不用意に動けなくなった。このままじゃいつまでたってもメシが食えない。俺の腹は我慢の限界とばかりに鳴っている。

 俺になんか用事ならさっさとすませよう。

「なぁ、俺になんかようか?」

 そう聞くとまた肩を震わせた。

「……」

 起こしたアクションはそれだけで何も言わない女。

 メンドくさ!

 もう強行突破しようかと思ったところで、ようやく女が口を開いた。

「あ、貴方は……」

 なんともか細い声だ。耳をすませないと聞き取れない。

「なに?」

 なかなか続きを言わないで訊き返すと、三度肩を震わせた。

 コイツはなんなの? 人に声をかけられると肩震えちゃう病なの?

 だんだんとイライラしてくる。

 いや落ち着け俺。俺はよそ者だ。よそ者がイライラして怒鳴るなんて失礼だろ。グッと堪えるんだ。

 そう言い聞かせて辛抱強く、女の言葉を待っているとようやく喋った。

「お、男の人ですか?」

「お!?」

 驚いた。初見で俺を男だと見抜くとは。旅団の中じゃ初めてだ。

 根暗だが、なかなか鋭い洞察力をお持ちだ。

「よく気が付いたな。お前すげぇな」

「ひぃい!」

 褒めたのに悲鳴を上げられた。

 え? なんかショックなんだけど……。

 女は俺から逃げるようにじりじりと後ろに下がっていく。

 なんか竜にばったり会った人間が様子を見ながら逃げようとしてるみたいだ。

 うん? 待てよ。つまり俺はこの女にとって竜か!?

 とか考えてるとまた女が悲鳴を上げた。

「きゃぁ!」

 ただ今度は別に俺に対して上げたわけじゃなく、俺を見ながら後ろに下がったせいで椅子に足をひっかけたみたいだ。

 尻餅をついた女が痛そうに腰のあたりを抑える。

「おいおい、大丈夫か?」

 と駆け寄ると女が俺を見上げた。

 前髪が左右に別れて女の顔が露わになった。

 痛みで潤んだ黒瞳が俺に向けられる。

 意外だ。すげぇ整った顔をしてる。

 髪を整えて体に肉をつければ、今よりかなりマシになるんじゃないか?

 空に暗い雲が立ち込めて大粒の雨を降らす中で、雨に打たれて水滴をまといながら咲くアジサイのような儚さを感じる。

 そして俺を見つめる女の顔から血抜けが引いていく。

「ひぃいいいいい!!」

 甲高い悲鳴を上げると、女は尻餅をついたまま両手両足をバタつかせて俺から離れて行く。

 めっちゃ嫌われてる。

 相手が美人だってわかった分だけ、さらにショックだ。

 なんか食欲も失せちゃったんだけど、もう部屋に戻ろうかな。

 踵を返して食堂から出て行こうとすると、女の呼び止める声が聞こえた。

「ま、待ってください……」

 振り向くと立ち上がってた女の肩が震えた。

 あ、ソッチから話しかけてきてもその病気は発症するのね。

「あ、あの、ごめんなさい。嫌な思いさせて……。私、男の人の前に立つとどうしても怖くて」

「それって男性恐怖症ってやつ?」

 と女は首を縦に振って肯定した。

 なるほど。だから俺を見て脅えてたのね。

「もしかして俺が男だって気付いたのも――」

「はい。戦場で貴方を見た時から体がすくんでしまって……。だからもしかしたら男の人なのかなと」

 男性恐怖症だから俺が男だって気付いたわけね。

「うん?」

 待て、さっき戦場で見たとか言ったか?

「もしかしてお前、滅竜士なのか?」

「は、はい……」

 マジか!? こんな弱そうなヤツが滅竜士なのか!?

 筋肉とまるでなさそうなのに。銃撃ったら反動で転びそうなのに。

 そんなことを思ってたのが顔に出てたのか、女が申し訳なさそうに言った。

「滅竜士に見えませんよね……。私、非力ですし……」

 あ、落ち込んじゃった。

 めっちゃ罪悪感がハンパない。

「いや、滅竜士もいろいろいるし、いろんな戦い方があるし、竜を殺せるなら大丈夫だろ!」

「私、滅竜士になって二年目なのにまだギルドランクがD級なんです……。旅団でもお荷物で、ユーリアさんにも迷惑をかけてて。アンネさんとハイデさんは十三歳で、私より二つも歳下なのにもうC級になって。私先輩なのに追い抜かれちゃって」

 うわぁ、なんかネガティブスイッチ入っちゃった。

 双子と違ってコイツは落ちこぼれってヤツなのか。まぁ確かに後輩にランク抜かれるのはプライドが傷つくわなぁ。確か、ギルドランクってDからSまでだったよな? ってことはコイツ、最下位なのか。

「二年もやってギルドランクが最下位ってのは確かにやべぇな」

「ぅう……」

 女の前髪の隙間から見える目が潤みだす。

 ネガティブ思考で泣き虫って最悪な組み合わせだなぁ。

「だけどなぁ、D級だって誰かの助けになるだろ」

「え?」

「昨日だってお前たちが来てくれたから俺は助かったしな。お前が撃った弾丸が俺を救ってくれたんだ。別にお前がD級だろうが、S級だろうがそれは変わんねぇし、すげぇありがたかったよ」

 そう言うと女は顔を俯かせてしまう。

 なんだ? けっこういいこと言ったつもりなんだけど、また落ち込ませたか?

 しばらく様子を見ていると、か細い声が聞こえてきた。

「あ、ありが、とうございます……」

 どうやらちゃんと言いた事は伝わったみたいだ。

 さてそろそろ行きますか。

「とりあえず俺はいったん食堂を出るわ。お前もそっちの方がいいだろ?」

 そうしないといつまでたっても女が食堂から出られないし。

「す、すいません。そうしてくれると助かります」

「りょーかい」

 食堂から出ようとして気付いた。

 そういえば名前訊いてなかったな。

 振り返ると、女がビクッとする。もういちいち気にするのも面倒だわ。

 気にせず自己紹介をする。

「俺はリンク。だけど、お前名前は?」

「あ、はい。エーファ・アプトです」

「エーファね。数日だけどできるだけ会わなようにするわ、エーファ」

 そう言い残して今度こそ食堂を出た。



 戦乙女第七旅団は戦乙女旅団の中でも異色の旅団だ。旅団の滅竜士は全員、十代で構成されており、サポートメンバー(整備士、鍛冶師、運転手)も最年長でも二十代前半だ。旅団の中で最も平均年齢が低いのが第七旅団である。

 第七旅団は伸びしろのある若い戦乙女を集めて次世代の滅竜士を育成するのが目的なのだ。

 故に第七旅団は出撃率が他の団よりも多く、単独での出撃が多い。これも個々の技術力と判断力をつけるためだ。先輩に頼らず、自ら力で竜を討伐し様々な状況での行動を自ら判断する。

 第七旅団ができてから半年、第七旅団の戦乙女はちゃくちゃくと力をつけてきた。

 だからだろうか。第七旅団の戦乙女たちはなかなかに我が強いというか、個性的な人間が多い。

 今日もまたそんな個性の強い面々がシャルロッテの部屋に集まった。

 部屋の主であるシャルロッテはもちろん、膝を抱えて頭を埋めているアルマ、部屋の給湯で紅茶を淹れているエーファ、やたらとテンションの高いハイデマリーとそれをなだめるアンネマリー。

 エーファが紅茶を人数分テーブルの上に置いていくと、五人の戦乙女がテーブルを囲って地べたに座った。

 準備が整ったのを見計らって、シャルロッテが咳払いを一つして喋り出す。

「第一回、リンクさん何者なんでしょ議論会を開催しますわ!」

 高らかと宣言するシャルロッテをハイデマリーが口笛を吹いてあおる。アルマは膝に顔を埋めたままで、エーファとアンネマリーはポカンとしている。

 アンネマリーが不思議そうに尋ねた。

「これはどういう会なのですか?」

「文字通りです! 一人で三十体もの竜を倒し、さらに単身でエルトリスのボスを倒したリンクさんはいったい何者なのかを議論し合う会です! 私は有力な滅竜士の家系の血を引く者と見ました!」

 シャルロッテに続くようにハイデマリーが喋る。

「都市でひそかに生み出された人造人間!」

「ふぇッ!? それはすごいのです!」

 荒唐無稽なハイデマリーの意見に驚くアンネマリーに、エーファがか細い声で諭す。

「そ、それはないと思います……」

 否定されたことに憤ったハイデマリーがエーファに意見を求める。

「じゃーエファ姉はどう思ってるの!?」

「わ、私ですかっ……私は強い滅竜士だと思います……」

 どうして強いのかを話しているのに前提を言い出すエーファにハイデマリーが怒りだす。

「そんなことはわかってるの! どうして強いのかってことだよ!!」

「ひぃッ!」

 怒鳴られて怯え出すエーファ。

 シャルロッテが仲裁に入る。

「まぁまぁハイデさん。それ以上怒鳴るとエーファさんが怯え死んでしまいますわよ」

 エーファは肩を小刻みに震えさせてハイデマリーを怯えた目で見つめる

 そんな姿を見せられると気が強いハイデマリーでも罪悪感が生まれる。

「ご、ごめん、エファ姉」

「わ、私こそご、ごめんなさい。当たり前なこと言って……」

 二人が和解したところでシャルロッテがここぞとばかりに隠し持っていた特ダネを披露しようとする。

「実は私、リンクさんのことで重大な事実を知ってますの」

 そう自慢げに言うとアンネマリーが続く。

「私たちもすごいこと知ってしまったのです」

「そうそう。私が気付いたんだけどね」

「わ、私も、知ってるかもしれません……」

「……」

 黙るアルマ以外全員が同じようかことを言い出す。

「あら? もしかしてみなさん気付いてましたの? それでは公平に一斉に言いましょう。――せーの!」

 とシャルロッテが合図を送ると四人が一斉に言う。

「リンクさんは男性ですわ!」

「リンクは男だよ!」

「リンクは男の子なのです!」

「リンクさんは男の人です……」

 四人の声が揃う。

 シャルロッテは自分だけが知ってると思っていた事実を四人が知っていて不服そうな顔をする。

「なんですのぉ。みなさん、知っていたのですね」

「うん! リンクを抱っこした時に気付いた! なんかこう胸のあたりに変な感触があって、たぶんあれ――」

「そ、それ以上言ったらダメなのです、ハイデ!」

 危険な単語を言いそうになったハイデマリーの口を慌てて抑えるアンネマリー。

「だ、抱っこ……!? す、すごい!」

 男を抱っこしたというハイデマリーにエーファは尊敬の眼差しを向ける。

 アンネマリーの手を振りほどいたハイデマリーがシャルロッテに尋ねる。

「シャル姉はどうやって気付いたの?」

「私はリンクさんの胸をさわったら気付きましたわ。すごい筋肉でした。男性でもないかぎりあんなに筋肉はつきませんわ」

 ここで一番の疑問は男に触るどころか近づけもしないエーファがどうやって男だと気付いたかだ。

 その疑問をシャルロッテが代表して尋ねる。

「エーファさんはどうしてわかったんですの?」

「ちょ、直接リンクさんに訊きました……。リンクさんを見てると足がすくむから、もしかしたらと思って」

「エーファさんの男性恐怖症ってすごいのです……」

 見た目で男だと気付いたのはエーファだけのようだ。

 エーファの男性恐怖症はもはや危機感知能力に近い。

 四人がそれぞれ話し終えたところで「さて」とシャルロッテが話題を変える。

「そろそろ、さきほどから落ち込んでいるアルマさんをイジリましょうか」

 四人の視線がアルマに集まる。

 部屋に入ってからずっと膝に頭を埋めているアルマ。

 四人はとりあえず放置していたが、気にならないわけがない。

 シャルロッテがアルマに尋ねる。

「アルマさんどうされたのですか? 調子でも悪いのでしょうか?」

 首を振るアルマ。

「ならどうしたのですか? いつも元気な貴方らしくありませんわ」

 シャルロッテがそういうとボソボソと何か呟くアルマ。

 誰も聞きとれず、隣にいたエーファが耳をアルマに近付けて聞きとろうとする。

「リンクさんに、胸を触られた……えッ!?」

 思わず驚きの声を上げるエーファ。

 他の三人も驚いたようだ。

「はわわ、これってセクハラなのです!」

「女の敵だね! すぐに懲らしめに行こうよ!」

「そうですわね。いくら凄腕の滅竜士とはいっても、仲間を傷つけられて黙っていられませんわ!」

 と立ち上がり決起する三人。

 するとアルマがまたブツブツと呟いて、エーファが声を拾う。

「え? 自分でリンクさんの手を取って、胸に押しつけた……ええ!?」

「「「え?」」」

 部屋には微妙な空気が流れる。

 決起した三人は急速に鎮静する気持ちと共にゆっくりとその場に座った。

 シャルロッテが咳払いを一つして呟く。

「アルマさんに、そんな趣味が……」

 シャルロッテの言葉にアルマは顔を上げて激しく反論した。

「違うよ! その時はまだリンクが男の子だってしらなかったんだ! 本当だよ!」

 必死で弁明するアルマ。

 そんなアルマを見てハイデマリーとアンネマリーが相談を始める。

「これってセクハラなのですか?」

「うーん、別にリンクが無理やり触ったわけじゃなしなぁ。アルマ姉が自分から触らせたわけだし。むしろリンクがセクハラされてる?」

 ハイデマリーの言葉にアルマが絶叫する。

「やめて! 私を痴女みたいに言わないでぇ!」

 そんなアルマの叫びをスルーしてエーファが言う。

「で、でもリンクさんは男の人であることを黙っていたわけですから、少しはリンクさんにも非があるんじゃ……」

「そうですわね。でも、こっちも確認もせずに女性だと決めつけていたわけですし、どちらが悪いと決めるのはなかなかに難しいですわ」

 リンクへの判決に頭を悩ませる四人。

 そんな四人にアルマが言う。

「別に私はリンクをどうこうしようなんて思ってないよ。わ、私が勝手に触らせたんだから」

「そもそも、どうしてリンクに胸を触らせたのかしら?」

「そ、それは、リンクが私のことを子供みたいに見てくるから、私にもおっぱいあるぞってつい……」

 プライドが傷つけられたことによる犯行だったようだ。

 シャルロッテがため息交じりに言う。

「アルマさんは勢い余った行動を慎むべきですわ」

「おっしゃる通りです……」

 と肩を落とすアルマ。

「今回リンクさんは無罪ですわね。アルマさんの無駄なプライドによる犯行のようですし、それにアルマさんの小さな胸を触って罪に問われてはリンクさんも気の毒ですわ」

 シャルロッテの言葉にアルマが抗議する。

「小さい胸は余計だよ!」

「さて判決も決まりましたし、今日のところはお開きですわね」

 こうして第一回リンクさん何者なんでしょ議論会はまったくリンクが何者なのか議論されず閉幕した。

 企画したシャルロッテは暇を潰したかっただけだろう。四人とも特別リンクが何者なのか気にしているようでもない。

 別に知りたくないわけじゃないだろ。むしろ知りたいはずだ。あの凄腕の滅竜士が何者なのか。

 ただ、五人はなんとなく感じていたのかもしれない。そのうちリンクが何者なのかわかる日がくることを。

 議論会が終わるとそのまま談笑に入った。

 最初に話題を出して来たのはアルマだった。

「そういえば今日ユーリア呼ばなかったんだ。どうして?」

 人を集めたのはシャルロッテだ。当然、シャルロッテが答える。

「ユーリアさんにリンクさんが男だと気付かせないためですわ」

 と魔女のような笑みを浮かべるシャルロッテ。

 その顔を見てアルマが察した。

「まぁた変なイタズラしようとしてるの? ユーリアに怒られるよ」

「別にイタズラではありませんわ。ただ私気になりますの」

 ハイデマリーが尋ねる。

「気になるって何が、シャル姉?」

「ユーリアさん、少しリンクさんのことを意識しているみたいですの。リンクさんをグレンダまで連れて行くって言いだしたのはユーリアさんですし、何かユーリアさんが企んでいるんじゃないかと思いまして。ユーリアさんが何を企んでいるのか、私はそれが知りたいのですわ」

「うーん、別にそんな風には見えなかったけどなぁ。グレンダまで送るのもお礼みたいなものじゃない?」

 とアルマ。

「で、でも宴会の時、ユーリアさんがリンクさんに積極的に話しかけてたのは、その、珍しいなって思いました。ユーリアさん、人に興味がなさそうだから……あ、別にユーリアさんが冷たい人って言ってるわけじゃないです……」

 エーファの言葉にアルマが頷いた。

「それは確かにそうかも」

「も、もしかしたらユーリアさん、リンクさんのことが好きなったとか?」

 アンネマリーの言葉をハイデマリーが否定する。

「ユリア姉はリンクのこと男だって気付いてないんだからそれはないでしょ!」

「いやいやわからないよぉ。もしかしたら女の子同士の禁断の愛に目覚めたのかも!」

 とアルマが言うと、何を想像したのか双子が顔を赤く染める。

「それはそれで面白そうですけど、私はもっと面白くなると思ってますわ」

 アルマが興味深そうに呟く。

「ほぉ、具体的にどうなると思ってるの?」

 シャルロッテは意味深な笑みを浮かべて言った。

「それは見てからのお楽しみですわ」

 どうやらシャルロッテは自分の予想が絶対に当たっていると確信しているようだった。


ようやく序章が終わりです。ずいぶんと長い序章ですいません。

第七旅団の戦乙女たちと出会ったリンクがこれからどうなるのか。次回はついにストーリーが動き出す……予定です。

ここまで読んだ感想を募集しています。物語の参考にしたいので、ぜひ感想を送ってください。


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