少女は機械を愛している
更新が遅れました。申し訳ありません。
翌日、予定通り俺と戦乙女旅団の団員は昼に村を出た、というより無理やり出された。ユーリアによって。
ユーリア以外全員が二日酔いで頭を抱えながら、トレーラーの中で作業をしている。
俺は宛がわれた部屋で昼食をすませて、居住スペースを通って整備スペースへとやって来た。
理由はもちろん昨日の約束を果たすためだ。
整備スペースには五台のエアライドが並んでいた。
「すげぇな。どれも新型かよ」
これを団員分用意していると考えると、戦乙女旅団ってギルドはかなり金持ちなんだなぁ。
羨ましい限りだ。
さて、俺にアルマってヤツはどこにいるんだ? 大抵ここにいるって言ってたけど。
辺りを見回すが人の姿はない。
エアライドの影に隠れているのか?
そう思って整備スペースを一回りしたけど、いない。
「留守か?」
「いるよ~」
「おぉお!?」
突然、エアライドの下から白髪の女の顔が出て来た。
びっくりした! 心臓止まるかと思ったわ!
「あれ? 驚かせちゃったかな? ごめんごめん」
と人懐っこい笑みを浮かべる。
どうやら女はエアライドの整備中だったらしく、ボルトを片手に持っていた。
エアライドの下から抜け出して背伸びをして体をほぐしたところで女は改めて俺を見た。
「いやーバリオスの整備が手間取っちゃって。この子、この前モーターを新しくしたんだけど、それ不満みたいでちょっと機嫌が悪いんだよね」
バリオス? 誰?
そんな疑問を察して女が答える。
「バリオスはこの子だよ」
とエアライドに手を置く。
「え? エアライドの名前?」
「うん! 一番右からアンヴァル、ザンザス、バリオス、グルトップ、アリオン。みんないい子たちだよ」
いやいい子って言われても……。
コイツ、エアライド全部に名前をつけてるのかよ。すげぇエアライド愛。
俺がエアライド爆発させたって知ったら殺されそうだな。
エアライドの紹介が終わると、ようやく女は自分の紹介を始めた。
「それで君、リンクだよね? 初めまして、私はアルマ・ベルガー。戦乙女第七旅団の整備士だよ」
と右手を差し出されて握手を求められたので応じる。
「リンク。ただのリンクだ。よろしく」
アウラは小柄な体にツナギを来て腰に袖を縛っていた。上半身はタンクトップ一枚と薄着だ。
身長は一五〇センチぐらいだろう。顔も幼く見えるし、体つきもまだ女らしさがない。間違いなく歳下だな。
なんとなくアルマを観察していると、何かに気付いたようにアルマがニヤリとする。
「リンク、今私のこと子供だと思ったでしょ?」
お? 心を読まれてしまったぜ。
「甘いなぁ、リンクは。人は見かけによらないんだよ。私、こう見えて十七歳だから!」
「ええ!?」
十七!? 俺よりも一つ歳上!?
ありえない……。この容姿と体で十七歳って。
確か、ユーリアも十七っていってたから同い年だ。ユーリアはかなり発育がよろしい体をしてたけど、それと比べるとアルマは……。
思わず心の声が漏れた。
「現実って残酷だな……」
「むっ! 失礼だな、君! いちようこれでもおっぱいあるからね! ほら!」
とアルマはいきなり俺の手をとって自分の胸に押し付けた。
お!! 役得!!
掌からは確かにタンクトップ越しに心地良い柔らかさを感じる。
驚いた俺の顔を見て勝ち誇るアルマ。
「ふっふー。どうだ? 見た感じ君よりはある自信はあるよ!」
こんな大胆な行動をするくらいだからそうなんだろうな、とは思ってたけど、アルマも盛大に勘違いしてる。
そりゃ負けますよ。俺にはそもそもありませんから、おっぱい。
なんだか勘違いを利用してるみたいで罪悪感があるなぁ。
アルマの胸から手を離す。
そろそろ本題に入るか。
「それでユーリアから俺に会いたがってるって聞いたけど、何の用だ?」
「お、そうだった。大事なこと忘れてたよ。実は君の槍を見せてほしいんだ」
「俺の槍?」
俺が持ってる槍はあの回転式短槍だけだ。
腰にさしていた一本を抜く。
「じー」
アルマがめっちゃ短槍を見つめ出した。
短槍を右にやると顔が右に、左にやると顔が左に移動する。
どんだけ見せてほしいんだよ!
これがユーリアの言っていた機械オタクというヤツか。
なんか面白いわ。
おもむろに短槍を腰におさめる。
「あぁ……」
アルマが切なそうな声をあげて俺を見つめてきた。
まるで捨てられた猫見たいだなぁ。
「あ、あのリンク? もう少し見せてほしんだけど……というか少しバラさせて」
アルマが顔を覗きこんでくる。自然と俺の視線はアルマを見下ろすようになった。
おお! タンクトップの隙間から胸が見えそう――で見えない!!
あざとい! なんてあざといんだ!
だがそれがいい!
いいもの見せてくれたから見せることにする。
「ほら」
再び腰に差していた短槍を抜いて、アルマに差し出した。
「ありがとう! これが噂の穂先が回転する槍!」
大げさなリアクションをして、アルマは短槍を受け取った。
「やっぱり動力はモーターかな? これ電力は充電式? 取替式?」
「取替式だ。どこにでも電源があるとは限らないからな」
「そうだよね! ちょっと中見ていい?」
「壊すなよ」
「ありがとう!」
アルマはその場に座り込むと、工具箱からドライバーを取り出して短槍のネジを外した。
「中はずいぶんとシンプルだね。穂先、モーター、電力をつなげてあるだけか。でも、今までになかったアイディアだ!」
「そりゃそうだろ。竜との戦いは遠距離戦が基本。短槍を改造するヤツなんてそうはいないし、改造したところであんまり役に立たない」
そういう俺にアルマは不敵な笑みを浮かべる。
「でも君にとっては役立つ武器なんだね?」
「まぁ俺には機動力があるからな。竜の硬い鱗を貫くために作ったんだ。まぁアンチドラゴンライフルを持ってれば無用な長物だけどな」
アンチドラゴンライフルは竜の鱗を貫くために特化したライフルだ。一撃の貫通力はスナイパーライフル以上、昨日戦ったエルトリスのボスの鱗を簡単に貫通するほどだ。
ただかなりでかくて重いせいで立って構えられないし、そのまま撃つと反動で腕がもっていかれる。
基本的に二脚で銃を支えて地面に伏せた姿勢で撃つ。そのせいで酷く機動性が悪くなる。
機動力を重要視する俺にとっては扱いたくない武器だ
「でも、アレを撃つためにはいろいろ手間がかかるからね。他にも爆弾とかで鱗を破壊できるけど、機動力のある竜に手投げ爆弾は当たらないし」
意外だ。
ギルドの整備士にこの短槍を見せると「こんなの使えない」とバカにされるのに、アルマは頭から否定しない。
だからアルマが正直に短槍をどう思ってるのか知りたかった。
「アルマはこの武器が使えると思うか?」
「汎用性はないかな。誰でも扱える武器じゃなし。でも、今の竜との戦いは硬い鱗のせいで苦しい状況だからね。少しでも硬い鱗に有効な武器があるなら広めていくべきだとは思ってるよ」
「ずいぶんと肯定的なんだな」
「うーん、肯定的というより否定できないっていうのが本音かな。実際に槍でエルトリスのボスを倒したって聞いちゃったからね。それでこの槍はどの辺の鱗まで貫けるの?」
「幼生期のボスが限界だ」
竜には三段階の成長をする。
卵から生まれてから幼生期、成体期、成熟期と成長し、成長段階と共に体は大きくなり、鱗は硬くなる。
この短槍は幼生期の中でしか通用しない。成体期以上の鱗は硬すぎて穂先の方が負けてしまうのだ。
正直に言えば幼生期のボスでもギリギリだ。この短槍もボスに使ったせいで穂先がボロボロになっている。
俺の視線を追って穂先を見たアルマも「あ~」と納得したように頷く。
「なるほどね。この穂先に使ってる素材はもしかして鉱石?」
「そうだ」
「竜の鱗は使わないの? 鱗を使えばもっとも硬いのが作れるでしょ」
竜の鱗は熱すると溶ける性質がある。それを利用して滅竜士の武器や防具を作るのは一般的だ。
ただ、問題がある。
「鱗は高いし、何より加工ができない」
竜は討伐するだけでもかなりの手間だ。その手間賃が加算で市場で出回ってる鱗は幼生期のものでもけっこうな値段がする。成体期の一体分の鱗なら、十年は遊んで暮らせる額になる。
幼生期の鱗なら俺にだって手に入るからいいだが、一番の問題は鍛冶師だ。
竜の鱗を加工できるのはギルドランクのA級を持った鍛冶師だけだ。A級のランクを持ってる人間なんて一つの都市に十人ぐらいしかいない。探すのにも一苦労だし、見つけたとても高額な加工費を請求される。
破産した今の俺には鱗の加工なんて無理だわ。
思わずため息をついてしまう。
そんな俺を見てアルマがニヤニヤする。
「ふぅん、リンクは鱗を加工できる鍛冶師を探してるんだ?」
「いや探してもねぇよ。だって金ねぇし」
「じゃあもし、もしだよ? 近くに加工できる鍛冶師がいても頼まないんだ?」
「めっちゃ頼むわ。金を用意するから作ってくれって。――てかなんでそんなこと訊くんだ?」
俺がそう尋ねると、アルマはここぞとばかりにポケットからバッジのようなものを取り出した。
「じゃーん、鍛冶師のA級バッジ!!」
「え?」
えーきゅー?
えーきゅーってA級?
ジッとアルマの持つバッジを見る。
そこには鍛冶師が使う鉄槌のシンボルマークの上にAの文字が重なっている。
あ、鍛冶師のA級バッジ。
え?
「えぇええええええ!!」
えぇええええええええええ!!
嘘?
なんで?
なんでアルマがA級バッジ持ってんの?
「え? いやでも、え?」
いやそりゃギルドの整備士は武器の整備もするから鍛冶師のランクを持ってることはあるけど、A級ってありえないだろ!
めっちゃ混乱中!!
アルマがそんな俺を見て苦笑する。
「少し落ち着きなよ、リンク」
そうだ! 落ち着け俺! 深呼吸だ!
深呼吸を繰り返す。
よし、落ち着いた。
「俺に武器を作ってください!!」
速攻土下座した。
いきなり土下座した俺に慌てふためくアルマ。
「ちょっと、リンク! 頭を上げて!」
「いや、作るって言ってくれるまで、いや死ぬまで頭上げない!」
「必死だ!?」
そりゃ必死にもなるさ!
めったにお目にかかれないA級鍛冶師に出会えたんだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「お願いします! どうか! アルマ様!」
もうプライドとか尊厳とか捨てた!
アルマの足にすがりついて懇願する。
「こ、こら! 足掴んじゃダメ! わ、わかった! わかったから!」
バッと顔を上げる。
「今、わかったって言った?」
「言った! 言ったから離れて!」
アルマの足から手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
「俺の武器作ってくれるのか?」
「作るよ。旅団の仕事の合間にだけど。あとお金は請求するからちゃんと用意するんだよ。後払いでいいから」
A級に武器を作ってもらえて、金は後払いでいいときた。
最高だ!
感極まってアルマに抱き付く。
「キャッ!!」
「ありがとう! ありがとう、アルマ!」
アルマの顔が俺の胸に密着する。
もう抵抗することを諦めたのかアルマはされるがままだ。
「もぉ、リンクは少し過激――うん?」
アルマが不思議そうな声を上げる。
俺の胸の中でもぞもぞと動いて、右手で俺の胸を触ってきた。
「ない」
何か呟いたみたいだけど、聞き取れなかった。
「リンク、ちょっと離れてくれる?」
「うん? ああ、わりぃわりぃ。つい感極まって」
と離れると、アルマは俺を頭の先から爪先まで見回す。
そしてもう一度俺の胸に触れた。
「……」
胸に手を当てながら固まるアルマ。
そして徐々に顔が赤く染まっていく。
「おい? アルマ?」
呼びかけると、アルマと俺の視線がぶつかった。
顔がトマトみたいだ。
「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああ!!」
突然絶叫したかと思うと、アルマは整備スペースから全力疾走で走り去って行った。
一人取り残された俺は呆然として呟いた。
「なんなんだ?」