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少年は全てを失った

 なせばなるなせねばならぬ何事も。

 今日は身を持ってそれを知った。

 代償は全財産とエアライドだった。

「……」

 石畳の地面に座って何をするわけでもなくただジッと宙を見上げる。

 浮遊島が今日も風に流されて、宛のない旅をしている。

 俺も連れて行ってほしかった。

 後ろから誰かが近づく気配がして、声をかけてくる。

「ねぇいつまでそうしてるのよ」

 声からして昨晩通信した女だ。ユーリアとかいう団長。

 赤毛で、凛々しい顔立ちをした美しい女だ。女にしては背か高く、一六五センチくらいありそうだ。細見でスラッとしながらも出てるところが出てて、かなり女らしい体つきをしてる。

 戦い時に来ていた防具を脱いで、今は青と白の団服のようなものを着ている。

 こんな美人に話しかけられたら、いつもなら饒舌に口説くんだが今はそんな気分じゃない。

 ユーリアは許可もなしに俺の隣に座って来た。

「ほら、村の人たちが好意で宴会を開いてくれたんだし、貴方も参加したら? 今日の主役は間違いなく貴方よ」

 今、村の広場では滅竜士たちの勝利を祝して宴会が開かれている。

 村人たちが滅竜士たちをもてなし、戦乙女たちは飲んで食べて楽しそうに談笑している。

 俺は蚊帳の外。いや自分からその輪に加わらずに隅っこでこうして座りこんでいる。

 いやだって破産した日に宴会なんてできないじゃん。

 お先真っ暗なんだよ、俺は。

 そう思いながら黙って、ただ宙を見上げる。

「……」

「はぁ」

 そんな俺にユーリアはため息を漏らした。

 そうだ。呆れてさっさとどっか行け。俺はこのままこうしてるんだ。

 だというのにユーリアはしつこく俺に話しかけた。

「ねぇ、貴方歳はいくつ? 私は十七なんだけど」

 おい! いい加減にしろ!

 頼むからほっといて!

 あまりのしつこさに思わずユーリアの方に視線を向けると、ユーリアはにっこりほほ笑んだ。

 くそぉ、そんな顔をされたら答えたくなるだろうがぁあ。

「……十六」

「十六歳? 私より一つ年下なんだ。なんだか背も高いし大人っぽい顔してるから年上かと思った」

 その後もユーリアはしつこく俺に質問してきた。

 出身はどこか、滅竜士になってどのくらいか、どうしてギルドに所属しないのかなどなど。

 一つ答えただけでコレだ。調子にのりやがって、もうどんな顔されても答えるか!

 俺は全て黙ってやり過ごした。

 そんな俺にユーリアがふくれる。

「もぉ、少しは会話してくれてもいいじゃない」

 この女は顔はいいが、空気が読めなくて困る。

 痺れを切らして、ユーリアに文句を言った。

「あのなぁ、今、俺はブルーなの。あの戦いでエアライドも金も爆発しちゃったの。わかる? お先真っ暗なの。だからほっといてくれる?」

「爆発しちゃったって。どうして?」

 コイツ、俺の言ってること理解してないのか?

 もうやけくそだ。

「エルトリスを殺すために爆発させたの、自分で! 俺のエアライドと金が爆発したからあんだけ数を減らせたんだからな! 感謝して俺にかまうな!」

 そう叫んで、ユーリアに背を向けるように体勢を変えた。

「……貴方、ずいぶんとアクティブなのね」

 引かれた。

 軽くショック。

 会話もなくなってこれでようやく静かになると思った矢先、不意に背中に衝撃が走った。それと共に甲高い笑い声が聞こえてくる。

「あははははは!! りんくー!! あの戦いすごかったですわよー! りんくー!!」

 誰かが背中から抱きついてきた。

 やわらかい感触が背中にあたる。

 これはもしや!!

 と振り向くと至近距離で金髪の女が俺に抱き付いていた。

 金色の前髪からのぞかせる笑顔は見るものを安心させるような母性を感じさせる。酒のせいか顔を赤らめているのが、また彼女の色気を引き立てていた。

「あら? あらららら? りんくー近くで見ると綺麗ですわねぇ」

 女が喋った瞬間口臭が俺の顔に直撃した。

「酒クサ!!」

 口クサ!!

 酒を百パーセント濃縮したような匂いだ!

 背中の感触はありがたいが、この臭さには耐えられない!

 必死に女から逃げようとするが、女は俺の首に両手をまいて離れようとしない。

 そんな女に向かってか、ユーリアの怒声が響く。

「こら! シャルロッテ! 何してるの!?」

 この酒臭い女はシャルロッテっていうのか。

 てか、マジでクサい!

「何ってりんくと交流を深めているのですわー。これだけの腕を持った滅竜士とお近づきになりたいと思うのは当然じゃないですのー」

「だからって抱きつく必要はないでしょ! 離れなさい!!」

 と背中にくっついたシャルロッテを引き剥がそうとするユーリア。

 だがシャルロッテは「いやーん」とか声を上げて俺にしがみ付く。

「女性同士なのですから別にいいじゃないですのー」

 うん?

「女同士だからって節度をわきまえなさい! 旅団の品位を下げることになるわ!」

 うんうん?

 気になる言葉が聞こえた。女性同士だとか、女同士だとか。

 どうやらいつもの勘違いをされているらしい。

 シャルロッテは俺から離れまいと胸のところまで腕を伸ばした。

 そこでシャルロッテが首を傾げる。

「あら?」

 シャルロッテから力が抜けた瞬間、ユーリアに引っ張られて地面に尻餅を打つ。

「痛いですわ~」

 痛そうに尻を撫でるシャルロッテ。

 そんなシャルロッテにユーリアは厳しく言い放つ。

「自業自得よ!」

「そんな暴力的では殿方に好かれませんわよ」

 シャルロッテの言葉に鼻で笑い飛ばすユーリア。

「別にいいわよ。だいたい身近に男なんていないじゃない」

 ユーリアの言葉にニヤニヤと意味深な笑みを浮かべるシャルロッテ。

「あらあら、それはどうかしらね」

 そう言い残すとシャルロッテは宴会へと戻って行った。

 嵐は過ぎ去った。

 ユーリアがこちらを向いて頭を下げた。

「ごめんなさい。私の団員が迷惑をかけて」

 背中の感触はありがたいけど、できれば酔ってない時にやってほしかった。酒臭くて感触を楽しむ暇もなかった。

 今日はとことんついてない。

 ため息が漏れてしまう。

 酷く疲れた。竜の群れとあれだけの戦いをしたんだから当たり前だけど。

 もう寝よ。

 その場から立ち上がって広場を離れる。

 ユーリアがそれを引き止めるように声をかけてきた。

「リンク、これから貴方どうするの?」

 そう聞かれて思わず笑ってしまう。

 俺はユーリアに視線を向けずに言った。

「それは俺が訊きたいよ……」

 とりあずグレンダにどうにかして戻って、一から金を貯めて装備を整えるっていうのが現実的な案だが、グレンダに戻る手段がない。

 村にあるトレーラーで送ってもらえないかなぁ。

 そんなことを思っていると、ユーリアが提案してきた。

「ねぇ、もしグレンダに行く気なら私たちのトレーラーに乗って行く?」

「マジ!?」

 その言葉に思わず俺は振り返った。

 渡りに船のような提案だ!

 ユーリアに駆け寄り、その手を握る。

「ぜひお願いします!」

 圧倒された顔をしたユーリアが呟く。

「……ずいぶんと変わり身が早いのね」

 そりゃ代わるさ。うざい戦乙女が救いの女神に代わったくらいに。

 これでグレンダへの移動手段はどうにかなった。後はまぁどうにでもなる。

 エアライドはないからどこかのギルドのヘルプとか、都市周辺の数体の竜の討伐ぐらいしかできないが、まぁ一か月もあればなんとか装備を整えられるだけの金は貯まる。

 滅竜士を廃業しないですみそうだ。

 戦乙女サマサマだわ。

「それでいつ出発する予定なんだ?」

「明日の朝に出るって言いたいところだけど……」

 ユーリアは宴会をしている広場に視線を向けた。

 未だに盛り上げり続ける宴会。村の酒を全て飲み干すんじゃないかと思うほどの勢いだ。

 これじゃ朝には出発できないな。間違いなく明日は全員二日酔いだ。

「まぁ最低でも明日の昼には出るわ。二日酔いだろうがなんだろうがね」

 確固たる決意をした目だった。

 基本的に滅竜士って職業をやってるヤツは大酒飲みだ。

 辛い現実を目の当たりにすることが多い分、どこかで発散しないとやっていけない。だから酒を飲む。一時だけでも辛い現実を忘れるために。それを繰り返していくうちにみんな酒に耐性がついていくんだ。男も女も関係なく。

 俺は酒が体に合わないからあんまり飲まない。少し飲んだだけで酔って記憶がぶっ飛ぶ。

 一年前、酒を飲んだら酒場にいたはずなのに、気付いたら都市外の砂漠で寝てた。

 もし竜が近くにいたら、据え膳をいただくように喰われていただろう。

 無意識のうちにリンク最大の危機をやり過ごしていたからびっくりだ。

 そういう理由で俺は絶対酒を飲まないことにしてる。

 ユーリアも飲んでないみたいだけど、コイツはただ単に明日のことを考えて体調を万全にしておくためだろうな。

 流石は旅団長様だ。

 さて、俺も明日に備えて寝るとしよう。ぶっちゃけ体がだるくてすぐにでも寝たい。

「それじゃ俺は寝るわ。明日はよろしく頼むわ」

「ええ、おやすみなさ――あ!」

 言葉の途中でユーリアが何かに気付いたように声を上げた。

 そして寝に行こうとした俺を呼び止める。

「忘れてたわ。リンク、一つお願いを聞いてくれないかしら?」

「お願い?」

 まぁただでグレンダまで連れて行ってもらうのも気が引けるし、いいか。

「俺にできることならやるぜ」

「ありがとう。実は私の旅団の子が貴方に会いたがっててね。今は宴会で酔っちゃってるから、明日トレーラーの中で会ってあげてくれない?」

 俺に会いたがってるヤツ?

 誰だ? いや、言われてもわからんか。

 それよりも気になるのは用件だ。

「別に会うくらいはいいけどよ。いったい何のようなんだ?」

 そう聞くとユーリアは微妙に気不味そうな表情をする。

「用件は訊いてないんだけど、まぁ予想はつくかなぁ」

 歯切れの悪いユーリア。小言でぶつぶつと呟いている。

 なんだ? そんなにヤバいヤツと会うのか、俺?

 めっちゃ不安なんですけど。

 俺の不安が伝わったのか、ユーリアが慌てて弁明する。

「で、でも、悪い子じゃないから! すごいいい子。旅団の中でも一番私と仲が良い子だから大丈夫!」

 いや何が大丈夫なんだ?

 とは言ってもこのぐらいのお願いを断るのは少し気が引ける。グレンダまで連れて行ってもらえるのだが、どんな人間だろうと会ってやるさ。

「わかった。会うよ。それでソイツの名前は?」

「ありがとう。アルマよ。アルマ・ベルガー。私の団の整備士をやってる子で、その……すごい機械オタクなの」


活動報告にはすでに書きましたが、読んでもらった通り前回の予告まで書けませんでした。次回こそは!とは思ってるですが、絶対とは言えません。申し訳ありません。

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