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その少年、竜を滅する者

 ランプが灯す火が照らす部屋の中で、その火をジッと見つめる。

 電気式ランプが普及している時代でオイル式ランプとはなんとも古風だな。ここの家主はそういった趣味があるのか?

 いやそれはないな。

 夕方にこの村についていろいろと見たけど、村全体がまだ電気の普及率がほぼない。この村にあった唯一の旧式の砂上トレーラーが時代に取り残されてる感じがしたし。

 この村は時代に取り残されてる。

 そう思った時、部屋の扉が開いた。

 入ってきたのは一組の老夫婦。男は村の村長だと自己紹介していた。

 机に置かれたランプをジッと見つめていた俺を不審に思ったのか、顔を顰める村長夫人。

 その様子を見る限り俺は信用されていないらしい。

 呼び出したのはそっちだろ、と怒ってやりたいが、まぁまだ十六の俺が滅竜士を名乗っていればそうなるだろ。

 いつものことだから慣れてる。

「さて、それじゃ用件を言え」

 村長夫人の眉間のしわがよる。

 ガキにそんな口の利き方されればまぁそうなるだろう。

 だけどこっちは改めるつもりはない。今回のことで言えば立場が上なのは俺だ。

 村長だけが俺と向かいあうように座り、ようやく本題へと入る。

「はい、実は今この村にエルトリスの群れが向かっているようで」

 知ってる。

 これでも滅竜士を名乗っているだ。竜の動きには美女の胸の動きくらい敏感に反応するさ。

「都市グレンダから連絡をもらった時にはすでに手遅れ。滅竜士ギルドが到着するのも明日昼ごろ。それではこの村は襲われてしまいます」

「トレーラーが一台あっただろ。それで逃げればいい」

「トレーラー一台だけでは村人全員を逃がすことはできません。明朝に他の村に伝手のある村人だけは逃がしますが、残りの村人は全員ここに残ります」

 なるほど。確かに逃げ出したとしてもいく場所がない人間は広い砂漠に放りだされるのと一緒だ。

 その結末は餓死か、竜に襲われるかのどちらかだろう。

「それで偶然隣村で依頼を終えた俺を呼んだと」

 村長の言葉を奪うように言った。

 俺の言葉に村長が頷く。

「それで群れの規模は?」

「エルトリス幼生期が三十ほどらしいです」

「三十か……」

 俺一人で相手をするのは無理だ。

 間違いなく死ぬ。

 その規模の竜の群れには必ず群れを統率するボスが存在する。有象無象の集まりならともかく、統率が取れた動きをされたらこっちに勝ち目はない。

 断るのが当たり前の依頼だ。

 視線を前に向けると、村長と目が合った。

 酷く怯えている。

 当たり前だ。明日の昼にはこの村に三十体の竜の群れが襲いかかってくるのだ。怯えるな、という方が酷だ。

 思考する。

 この逆境を覆す方法を。

 そこで気付く。都市グレンダからこの村まで砂上トレーラーでも五日はかかる。村に群れがくるとわかったのはおそらく三日前。一日ズレがある。

 このズレが気になる。

「ちなみにこっちに向かってるギルドの名前は聞いてるか?」

「え、ええ、確か戦乙女旅団というギルドです」

「戦乙女旅団……」

 都市グレンダの中でも最強のギルドだ。

 笑いが抑えられず口元が上がってしまう。

「ど、どうかされました?」

 突然笑みを浮かべた俺を不審に思った村長が尋ねてくる。

「いやただアンタらはラッキーだったなと思って」

「ら、らっきー?」

 村長の不審度がさらに増したようだ。

 まぁこんな不幸な事態でラッキーも何もないか。

 言うなれば不幸中の幸いってヤツだ。

「戦乙女旅団はグレンダ最強のギルド。そして何より人命救助に力を入れているギルドでもある。おそらくこの村のことも事態も知ってるだろうな。アイツらのトレーラーは足が速いからおそらく昼前にここにつく」

「そ、それは本当ですか!?」

 興奮した村長が立ち上がる。

「ああ、俺は嘘をつかない。だが、問題なのはそれでも間に合わないということだ」

「そ、そんな……」

 持ち上げられて落とされたように村長が椅子に座った。

 もうそろそろいいだろ。

 この人は絶望を見た。味わっていないが絶望の寸前で立ち止り、その片鱗を見たんだ。

 それで十分だ。それ以上は人間とっては辛すぎる。

 俺は椅子から立ち上がった。

 村長は何を勘違いしたのか、俺の足にすがってくる。

「待ってください。お願いです! どうかこの村をお救いください、滅竜士様」

「おいおい、俺は様づけされるほど偉くねぇよ。それに勘違いするなよ、じいさん。俺は戦う準備をするためにエアライドに戻るだけだ」

 村長が耳を疑ったように呟いた。

「え……?」

「まったく歳食って耳が遠くなったか? 戦ってやるって言ってんだ、この俺が」

 言葉をはっきりと聞きとった瞬間、村長の顔が歓喜の色に染まる。

「あ、ありがとうございます!」

 足を掴んでいた手が離れると、俺はそのまま扉の前へと移動した。

「このリンクにとっては村一つ救うなんて朝飯前だ」

 部屋を出る前にもう一度老夫婦に視線を向けた。

「なんたって俺は四翼竜を殺す男だからな」



 アステエミリア大陸はその七十パーセントが砂漠で覆われた大陸だ。この過酷な環境の中で生物たちは数少ない天然資源を奪い合って生きている。その食物連鎖に頂点に君臨する二つの種族があった。

 一つは人間。敵を倒す筋力が発達しているわけでも、敵から身を守る堅い皮膚を持っているわけでもない。彼らは高い知能を使い、他種族を圧倒していた。

 そしてもう一つは竜。彼らは強靭な筋肉と身を守る鱗で他種族を圧倒し、力によって頂点に君臨し続ける。

 この大陸において最強の力を持つ竜と最高の知能を持つ人間。

 頂点に君臨する二つの種族。

 ならばどちらがより頂点に近いのか?

 それは未だわかっていない。

 アステエミリアという大陸で今もなお二つの種族の争いが続いている。

 そしてその争うに終止符を打つ者たちがいる。

 人間という種族の中でも竜を滅することに力を注いだ人間。

 人間たちはそんな彼らを“滅竜士”と呼んだ。


 ユーリアは読んでいた雑誌を投げ捨てた。

 滅竜士に関する記事を読んでいていたが、途中で嫌気がさしたのだ。

 この記事を書いたのはおそらく滅竜士を英雄視する人物だろう。

 乱暴にベッドに倒れ込む。

 上は肌着を着ずにタンクトップ一枚を着ているだけなので、その豊満な胸が揺れた。

 鬱陶しい。

 夕焼けの色をそのまま映したようや鮮やかな髪が目にかかる。

 鬱陶しい。

 たまに自分はなんで女に生まれてきたんだろうと思うことがある。

 男だったら髪を刈り上げても誰も文句は言わないし、胸にこんな大きな脂肪の塊をつけなくてすんだ。

 今、ユーリアは本気で男に生まれたかった、と感じている。

「そんなこと考えてもしかたがないか」

 こんないつものことに苛立っている自分が情けなくなる。

 それもこれも全てこの雑誌が悪い、と元凶に視線を向ける。

「何もわかってない……」

 固いベッドに横たわりながらユーリアは呟いた。

 するとユーリアの部屋に来客を知らせるアラームが鳴る。

 出迎えるのが面倒で「開いてるわよ」と返事だけする。

 入って来たのは同僚のシャルロッテだった。

「あら、ユーリアさん、もう寝てしまわれるの?」

 長い金髪をなびかせながら部屋へと入って来る少女、名前はシャルロッテ。シャワーを浴びたのかに髪が濡れ、石鹸の香りがする。

 ずいぶんと優雅な女だ、とユーリアは思う。

 この大陸で水は限りある資源だというのに彼女は毎日の水を浴びをかかさない。

 まぁその水も自分で買ったものを使用しているのだから文句なんてない。

「別に寝ないわよ。ただちょっとむしゃくしゃしてるだけ」

 正直に答えると「そうなんですの」と興味な下げに言うシャルロッテ。

「あら、これは雑誌?」

 目ざとくシャルロッテがいましがたユーリアが読んでいた雑誌に気付く。

 ぱらぱらとそれをめくり、「なるほど」と全て納得したように呟く。

「これを書いた方はずいぶんと理想主義なのね。現実主義の貴方とは大違い」

「どーでもいいわよ。そんなこと」

 ユーリアが何にイライラしていたのか気付かれた。

 シャルロッテは勘が鋭い。そのせいでユーリアより一つ歳下の十六歳のくせに妙に大人びてる。

「まぁ貴方が思うところがあるのはわかります。滅竜士の現実は残酷なもの。それは竜滅士である私たちが一番よくわかっていますからね」

 そう、ユーリアとシャルロッテは滅竜士。この雑誌の言葉を借りれば、争うに終止符を打つ者たちだ。

 今、ユーリアとシャルロッテは砂上トレーラーの中にいる。ここはこのトレーラー内でユーリアに宛がわれた部屋だ。

 そして砂上トレーラーは深夜の砂漠を走っている。

 都市グレンダの南西から向かって来る竜の群れを討伐するために。

「今回の討伐もそう。竜の群れが進行する先には村が一つあるのに私たちは間に合わないですもの。終止符を打つどころか被害を抑えることさえできていない。でも、私少し思いますの。そんな現実を知りながらそれでも戦う私たちってなんなのだろう、と」

 シャルロッテの言葉にユーリアは上半身を起こして耳を傾けた。

「私たちは現実主義者ですわ。現実を知り、それを無理やり変えることは難しい。だから現実を受け止めてできるだけ被害の少ない道へと進む。滅竜士がやってることなんて極端にいえばコレだけ。雑誌の書いてあることなんて私一度もしていませんもの。ですけど、現実主義でありながらこの世で最も困難な現実へと挑んでいる私たちは現実主義者でありながら理想主義者でもあると思いますの」

 そう言ってシャルロッテは笑う。

 現実主義者でありながら理想主義者。

 ユーリアの頭の中でその言葉が繰り返し再生される。

「ありえないわ」

 ユーリアはシャルロッテの言葉を切り捨てた。

「現実を受け止めるためには理想を捨てるしかないし、理想を抱くためには現実に目を背けるか無知でいるしかない。現実と理想が混同するなんてありえないのよ」

「貴方ならそう言うと思ってましたわ」

 とシャルロッテは笑みを浮かべた。

 なんだか見透かされたみたいでイラッとする。

 ユーリアは再びベッドに横になり、乱暴な口調で尋ねる。

「それで貴方は何しに来たの? 用事があるんでしょ?」

「あ、忘れてましたわ。さきほどアルマさんが操縦席に来てほしいと言っていましたわ。なんでも通信が来たみたいです」

 シャルロッテの言葉でユーリアは飛び起きた。

「それを先に言いなさい!」

 シャルロッテを自室に置いてユーリアは操縦席へと走った。

 トレーラーの先頭にある操縦席へとつくと、そこには運転手とその隣に白髪の少女、アルマが座っていた。

 つなぎの上半身を腰で結び、ユーリアと同じタンクトップを着たアルマ。

 ユーリアと同じ薄着だが、その彼女と比べて薄い胸と活発そうな顔立ち、白髪を短く切りそろえているせいで少年にも見えた。

 そのアルマがユーリアを見ると「やっときた」と深いため息をついた。

「シャルロッテなんかにお使いを頼むのが悪いのよ」

「おっしゃる通りで何も反論できないなぁ」とぼやきながらアルマはユーリアに通信機を手渡す。

「誰から?」

「わらかない。何を訊いても現場の指揮官を出せの一点張り」

 完全に面倒事の予感しかしなかった。

 ユーリアは覚悟を決め、ボタンを押して通信機の先にいる相手に話しかけた。

「こちら戦乙女第七旅団団長のユーリア・ヴィルヘルムスです」

 数秒の無言の後、通信から中性的な声が聞こえてきた。

『やっとか。どれだけ待たせるんだよ』

 声だけじゃ男か女かわからなかった。口調からして男だろうか?

『俺はリンク。滅竜士をしてるもんだ。それでアンタらは南西の竜の群れの討伐任務を請け負ってるギルドか?』

「ええそうよ。それでリンクさんはいったいどうのようなご用件で?」

『ああ、近くに村があるのは知ってるだろ。俺、今その村にいるんだけど、俺が群れを引きつけて時間を稼ぐからその間にさっさと来てくれ』

「え!?」

 意外な申し出に驚きの声が上がるユーリア。

「時間を稼ぐって、貴方ギルド本部に依頼を受けてないでしょ? それだとギルド本部から報酬が受け取れないけどいいの?」

『それは大丈夫だ。俺、ギルドに所属してないから。報酬は村からもらった』

 その言葉を聞いてユーリアの頭に一つの不安がよぎる。

「もしかして貴方、一人で群れに挑む気なの?」

『そうだ』

 思わず頭を抱えるユーリア。

 この男?は何もわかってない。おそらく滅竜士を名乗ったばかりの新人だろう。あの雑誌のように滅竜士を英雄視して、滅竜士になれば竜なんて簡単に倒せるとでも思っているのだ。

「あのね。今回の群れは三十体の小規模な群れだけど、一人で相手ができる数じゃないのよ。わかってるの、貴方?」

『もちろんだ。討伐しろって言われたら無理だが時間ぐらいは稼げる』

 無謀と言える言葉にユーリアは怒りを覚える。

「あのね。竜を舐めないで。貴方一人でどうにかできるほど竜の群れは甘くないのよ。現実を見なさい」

『はっ、現実見れば村が救えるならいくらでも見てやるさ。でもな、今回ばかりはそうはいかねぇんだよ。いいからお前らはさっさとこっちに来ればいいだよ。じゃあな』

 とリンクは無理やり通信を切った。

「ちょ、ちょっと待って!」

 ユーリアの制止の声は届くことなく、通信機をアルマに手渡す。

 隣で全てを聞いていたアルマはユーリアに同情する。

「やっかいなことになったね」

「ホントにやっかいだわ。これじゃ犠牲者が一人増えるだけじゃない」

 もともとトレーラーを夜通しで走らせてどうにか村には昼前に着く予定だ。それでもギリギリ間に合わないとユーリアはふんでいる。

 おそらく三十分は時間を稼がないといけない。

 一人でそんな時間を稼ぐなんて不可能だ。

「アルマ、トレーラーの速度を上げて」

「別に上げることはできるけど、いいの? 電気の消費を考えると帰りが遅くなるけど」

「別にかまわないわ。とりあえず今はできるだけ早く村に着くことを考えて」

 ユーリアがそう言うと「了解、団長」と言って運転手に指示を出し始めるアルマ。

 そんなアルマを見つめながらユーリアは一つ心に決める。

「あのリンクってヤツ、生きてたら一発殴ってやる」



 村の通信機を借りて連絡はすんだ。これでやれることは全部やった。

 完全に日は沈み、村人たちは寝静まっているようで家に灯りがついているところはなかった。

 灯りがない村はずれで、二人乗り用の砂上車両のエアライドの脇に座りこみながら明日のことを考える。

「これで何とかなるかね~」

 そんなことを呟きながらも、内心じゃもうわかってる。

 無理だ。

 不可能だ。

 ついでに逃げたい。

 今更ながら後悔してる。なんであの時俺は依頼を受けてしまったんだ、と。

「くそぉ、なんかあの場の雰囲気にのまれたよな。あんな大見得おおみえも切っちまったから今更逃げたらマジでかっこ悪いし。どーしよマジで」

 その場に寝転がると、砂の感触が全身に伝わる。

 明日になればここは戦場だ。

 そして村人が死ぬかは俺とそして戦乙女旅団の女たちにかかってる。

「あの女、ユーリアとか言ったか。アイツは来てくれるかねぇ」

 話した感じだとかなり怒っていた。何かしら対策を練ってくれるかは微妙だ。

 まぁ練れる対策があるなら最初から練ってるか。

 やっぱり無謀だったな。

 視線を夜空へと向けると、星空に浮かぶ島が見えた。

 浮遊島。

 この大陸の空に漂う無人の島だ。島と言っても実際は浮遊石と呼ばれる熱を受けると浮遊する特殊な石の塊だ。ただ岩石が浮いてるだけなのだが、昔から大陸ではそう呼ばれていた。

 巨大な浮遊島は風に流れていく。

 あーあ、俺も一緒に流れて行きてぇな。

 一緒に連れてってくんねぇかな。

 とか本気で思ってる自分がバカらしくなた。

「あーもう寝よ寝よ」

 本当なら野営の準備するところなんだけど、もういいや。

 俺はそのまま目を閉じた。



 翌朝、日が出てしばらくして俺は起きた。

 準備を整えて村を出発しようとすると、何人もの村人から感謝された。

 誰も「頑張って倒して」とか「私たちを助けて」とかは言わなかった。全員が村を見捨てなかった俺への感謝しか口にしなかった。

 みんなわかってるのかもしれない。もうどうにもならない、と。

 状況が悪くなれば俺が逃げ出すこともわかってる。だから前払いで報酬をくれたのだ。

 やめてくれよぉ。俺、こういう雰囲気苦手なんだよ。

 大きなため息をついてエアライドに跨った。フルフェイスのヘルメットをかぶり、モーターを起動させる。浮遊感が体に伝わってくる。エアライドが砂上から数センチ浮いたのだ。

 浮遊石を利用したエンジンだ。モーターを回して発生する熱を利用して浮遊石の力で車体を浮かせ、モーターで圧縮した空気を放出して前進する。

 砂煙を上げながらエアライドが砂漠を駆ける。

 村から五キロ地点の高い砂丘へと辿りつくと、エアライドのモーターを止めて砂丘を昇っていく。

 砂丘を壁にするように寝ながら双眼鏡を覗く。

「あー来てますね、うじゃうじゃいるわー」

 さらに二キロ先には砂煙と共に数体の竜の姿が見えた。

 黄土色の鱗をまとい、発達した二本足で砂漠を駆けている。突き出した口には鋭い牙いくつも生えており、足比べて短い腕の先には鋭利な爪がある。全長は二メートルほどで高さは一メートルほどの大きさだ。

 地上を駆けることに特化した竜、エルトリスの幼生期だ。

 エルトリス幼生期は基本、群れをなして行動する。その規模は様々だが三十体なら小規模な群れだ。それでも村一つを全滅させるなら十分な数だ。

 さてそろそろかな。

 先遣隊なのか五体ほどのエルトリスが先行している。そして一体が狙っていた場所に通ると爆音と共にさらに煙幕が上がった。

「ビンゴ!」

 昨晩にしかけておいた地雷にまんまとハマってくれた。

 完全に狙い通りだ!

「これで五体は木端微塵だろうな」

 と再び双眼鏡を覗く。

 砂煙が晴れて五体のエルトリスが力無くその場に横たわっている。

 よしよし完璧。

 そしてそれに続くように後方から本隊がやってきた。

「やっとお出ましか。残り二十五――」

 え、嘘でしょ。

 双眼鏡で覗いた先で信じられないものを見た。

 エルトリスの大群。

 二十五体なんて数じゃない。完全に五十体はいる。

「いやいや聞いてないですよ、そんちょうさーん」

 情報をくれた村長に文句を言いたい。

 二十五体でも無理だってのに、蓋を開けてみれば五十体だ。

 これはどういうことだ?

 グレンダの偵察隊の伝達ミスか? それともどこかで別の群れと合流したのか?

「そんなことどっちでもいいわ!」

 問題なのは今! 今どうするかですよ!

 頭の中は錯乱状態。どうすれば五十対のエルトリスの群れを相手に戦えるのか考えるが、当然答えなんて見つからない。

「うん、無理。無理無理。ありなえないから。逃げよ逃げよ」

 砂丘を急いで下りて逃げる準備を始める。

 ヘルメットを被ってエアライドにまたがり、モーターを起動する。

 エアライドが浮く。

 村を経由するとちょっと気まずいから、右へ迂回して逃げよう。

 よし、逃げるぞ!

「……」

 おい、どうした俺? なんで進まない? このままじゃ俺まで食い殺されるぞ。

「……いやそうなんですけどね」

 なら何を悩む必要があるさっさと逃げよう!

「いやまったくもってその通り」

 なんだ、村の連中を気にしてるのか? いやいやアイツらだってわかってるさ。もう自分たちが助からないなんて!

「そうなんだろうけどさぁ……」

 ほら、さっさと逃げろよ、俺。

「そうなんだろうけどさぁ。そうなんだけどさ。でもさぁ、それでもやっぱりダメだ!」

 エンジンを消して、エアライドに脇に固定していたスナイパーライフルを持って砂丘へと走った。

 俺はバカだ!

「わかってるわ、そんなこと!」

 さっきと同じように寝て、ライフルをかまえる。スコープから覗くと、五十体の群れはずいぶん近づいていた。

 射程からまだ遠い。

 群れが近づく。

 まだ遠い。

 さらに近づく。

 まだだ。

 さらに近づ――今だ!

 引き金を引くと同時に銃声を響かせ、弾丸が一体のエルトリスの頭を貫く。

「ドンピシャ!」

 ボルトを引いて薬莢を排出して、続けて一発。その動作を繰り返すこと三回。

 俺との距離が残り二〇〇メートルになると群れの動きに変化が出た。

 群れが速度を上げたのだ。

「こりゃ一気に距離を詰める気だな……」

 そんなころされればスナイパーライフルの意味がなくなる。

 作戦変更だ。

 砂丘を下りてライフルを固定すると、エアライドに跨ってエンジンに火をかける。そのままエルトリスの群れに向かって走り始める。

 エアライドでドッグファイトをするわけじゃない。小回りがきかないエアライドじゃすぐに囲まれて袋叩きだ。

 俺の狙いは群れを俺に引きつけることだ!

「よし、ついて来い!」

 群れの前でこれ見よがしに、左に九十度方向を変える。

 もちろん群れは俺に反応して、こっちに来た。だが、来たのは十体。

 群れは分隊を作って俺を追っている。

「くそっ! きたねぇぞ! 全員で追って来いよ!」

 完全にミスった。

 時速七十キロでるエアライドならエルトリスの全力疾走でも追いつけないからしばらく時間が稼げると思ったのに。

 十体の分隊と間隔を開けながら走行する。本隊はまっすぐ村に向かって進んでいる。

 くそっ、どうする! 計画だとこれで十分くらいは時間が稼げる予定だったのに!

 数が増えた分、相手の選択肢も増えた結果だ。

「ああもぉう! やるしかねぇ!」

 再び進行方向を変える。まっすぐ本隊へと向かう。

 横から強襲してやる!

 一列に隊列を組む群れの側面へと向かって突進する。ハンドルから手を離し、固定していたアサルトライフルを手にして群れに向かって構える。

 狙いをつけ引き金を引こうとした瞬間、エルトリスたちの視線が一斉に俺に向いた。

「へぇ?」

 群れの進行方向が村から俺へと切り替わる。横一列に並ぶエルトリスの群れが迫って来る。

「やばぁやばぁやばぁ!!」

 攻撃を中止して片手でハンドルを握って急カーブ。

 だが遅かった。エアライドは群れのすぐ隣をすれ違うようにして走ってしまう。

 次々とエルトリスがジャンプして襲いかかってくる。

「うぉおおおおおおお!!」

 雨のようにエルトリスが降ってくる。

 あと少しで抜ける!

 そう思った瞬間、エルトリスが爪をエアライドに引っかけた。

 後ろから引っ張られる感覚が襲い、車体のバランスが狂う。

 車体はコントロールを失い砂漠に横転し、俺は車体から投げ出されて砂漠に顔面から突っ込んだ。

「ごほっごほっ」

 放りだされた勢いでヘルメットが脱げたらしい。喉に砂が入りせき込みながらも立ち上がって、群れに注意する。

 エルトリスは横転したエアライドに群がっている。

「クソ野郎がぁ……」

 なんとかアサルトライフルだけは手放さなかったが、エアライドには武器が詰め込んである。

 この状態じゃその全てを失ったも同然だ。

「どうせ失うくらいなら、まとめて吹っ飛ばしてやるよッ!」

 ポーチから筒状の装置を取り出してスイッチを押す。

 一瞬間が空き、俺のエアライドが凄まじい音を立てて爆発する。さらに積んでいた爆弾やら地雷やらが誘爆を引き起こし、何度も爆発が起こる。

「やっちゃったぜ。どうすんだよこれから……」

 移動手段を失い、武器やその他もろもろも失い。もしこの場面を切り抜けられたとしても俺はいったいどうやってグレンダまで帰ればいいのだ。

 割に合わない。

 この依頼完全に割に合わない。

 というか受け取った報酬も爆発しちゃったし、割に合わないとかじゃない。

 破産だ。

 泣けてきた。

「それもこれも全部テメェらのせいだからな!!」

 黒い煙の中からエルトリスたちが出て来る。

 どうやら爆発で殺せたのは十体ほどだ。残りの四十体が仲間を殺された恨みからか、俺に向かって威嚇するように鳴く。

 どうやら向こうもやる気満々みたいだな。

「ここからが滅竜士としての本当の戦いだ」

 エアライドを使った戦いが滅竜士の戦いではない。

 ベルトに仕込んだ機動スイッチを入れる。

 モーターが起動する。エアライドよりも直接体に伝わってくる浮遊感。

 ブーツに仕込んだ浮遊石により体が浮いたのだ。

 エアブーツ。

 人間一人を浮かせ、人間の速力と機動力を上げる滅竜士の命ともいえる武器だ。

 このエアブーツを使った戦いこそが滅竜士の戦い、滅竜士の真骨頂だ。

 手持ちの武器を確認する。

 アサルトライフルが一丁にハンドガンが二丁、短槍が二本にナイフが数本。

 絶望的だ。

 四十体のエルトリス相手になんとも心もとない。

 だけどやるしかない。

 俺はここで死ぬような人間じゃない。

「俺は四翼竜を殺す男なんだよ!」

 俺の叫びが合図だったかのようにエルトリスたちが動き出す。

 俺を喰い殺そうと迫ってくる。

 エアブーツのブースターを前方に向かって噴射する。圧縮された空気が一気に放たれ、体が後方へと下がって行く。

 エアトリスに距離を詰められないように下がりながらも、アサルトライフルの引き金を引いた。

 銃口から次々と放たれる弾丸。しかし、スナイパーライフルほどの貫通力はなく、十数発でようやく一体のエルトリスを殺せる程度だ。

 ジリ貧だ。

 アサルトライフルの弾丸は四十体のエルトリスを殺せるほどの量はない。

 さらにエアブーツの速度はエルトリスに劣る。アサルトライフルで先頭のエルトリスを殺しても、徐々に距離を詰められている。

 ついにエルトリスが俺を間合に捉えると、ジャンプで一気に襲いかかってくる。

 腰に装備した短槍を抜く。

 空中から襲ってくるエルトリスの落下する勢いを利用してハラワタに突き刺す。

 次々に襲いかかるエルトリスをアサルトライフルで撃退し、短槍で突き刺しながらどんどん後方へと下がっていく。

 そして危惧していた事態になる。

「クソッ! 弾切れか!!」

 アサルトライフルの残弾がついに尽きた。

 ライフルを捨て、腰に装備したもう一本の短槍を抜いた。

 今の戦闘で七体のエルトリスは殺した。

 これで合計二十五体以上のエルトリスは殺した。

 一回の任務の最高記録を軽く抜いた。

「ハッ、俺もやるようになったな!」

 滅竜士になりたての頃、一体のエルトリス幼生期に手こずっていたことが嘘のようだ。

 だがこの勢いもここまでだろう。

 短槍二本で三十五体のエルトリスを相手にするのは不可能だ。

 だが、簡単に死ぬ気はない。

「このまま、グレンダの最高記録も抜くぜ! 」

 滅竜士の真骨頂は見せた。次は俺の、リンクの真骨頂を見せる時だ。

「さぁかかって来い!! あと十体は殺して――」

 俺の言葉が銃声に遮られる。瞬間、俺の目の前まで迫っていたエルトリスの頭が打ち抜かれた。

 返り血が顔に飛ぶ。

 笑えた。

 視線を弾丸が飛んできた方へと向けると、そこには鱗の防具を纏った六人の滅竜士がピラミッド状の陣形、角翼の陣でこちらへと向かっていた。

「ははははは! やっぱり俺はここで死ぬ男じゃなかったってことだ!」



 角翼の陣の後方の位置でスナイパーライフルを構えたユーリアはこの状況に驚愕した。

 砂漠で炎上したエアライドの周辺には十体ものエルトリス幼生期の死骸、さらにあちらこちらに同じような死骸が転がっている。

「これを一人でやったっていうの?」

 だとすればリンクと名乗る滅竜士はギルドランクでもA級だ。

 通信でギルドに所属していないといっていたため、ギルドランクの対象外であることがもったいない。

 スコープの先ではリンクが移動を開始していた。

 さきほど一体のエルトリスを打ち抜いてこちらに気付いたのだろう。こっちに合流しようとしている。

 エルトリスの群れも彼を追ってこちらへと向かっている。

 エルトリスの隊列は乱れている。彼によって乱されたのだろう。

 ならばやることは決まった。

「横翼の陣で迎え撃つ! 総員、戦闘用意!」

 角翼の陣から横一列の横翼の陣へと切り替え、全員の場で制止する。

 ユーリアはスナイパーライフルで、リンクに近づくエルトリスを撃ち抜いていく。

 アサルトライフルの射程にエルトリスが入ろうとすると、スナイパーライフルをその場に捨て肩にかけたアサルトライフルへと持ちかえる。

 そしてエルトリスが射程に入った。

「滅竜士を追うエルトリスを優先的に殲滅して! 総員、撃て!!」

 ユーリアの声と共に滅竜士たちが引き金を引く。

 数百にもおよぶ弾丸がエルトリスの群れを襲い、完全に動きを止めた。

 先行していたエルトリスたちが次々に倒れていく。

 そしてユーリアの隊とリンクがすれ違った。

 ユーリアは横目でリンクの姿を盗み見ると、思わず驚きの声が漏れてしまった。

「え?」

 リンクは女だった。

 肩まで伸びた黒髪がなびいて、見えた顔。釣り上がった目、高い鼻、小さな口、その全てが小さな顔に美しく並んでいる。

 乱暴な言葉遣いから男とばかり思っていたユーリアは驚きを隠せなかった。

 一瞬手を止めてしまい、シャルロッテに諭される。

「どうしました、ユーリアさん。手が止まっていますわよ」

「あ、ご、ごめん!」

 再び引き金を引き、エルトリスを撃ち抜いていく。

 陣形が崩れていた群れだったが、群れの奥で聞こえたエルトリスの鳴き声で変化が生まれる。ばらばらに突撃していたエルトリスの群れが陣形を整え始めた。群れを三つに別けて右翼、左翼、中央から突撃してくる。

 旅団の攻撃を分散せざるおえなくなり、各群れへの弾膜が薄くなる。

 思わずユーリアは舌打つ。

 そこで不意に後方からリンクの声が聞こえた。

「面倒だな」

 顔に返り血をつけたリンクは外傷こそないものの、顔が疲れ果てていた。

 一人であの数以上のエルトリスを相手にしていたのだから、当たり前だ。むしろ、よくそれですんでいると思える。

 思案顔で何かを考えだすと「よしッ」と何かを決めたようだ。

「左右の群れに攻撃を集中させろ」

 リンクの提案にユーリアは思わず声を上げてしまった。

「はぁ? 何言ってるのよ! それじゃ中央の群れはどうするの?」

「俺が突っ込んで群れのボスを殺す。それで群れの隊列は崩れる」

 突拍子もない案にユーリアは言葉も出ない。

 しかし、そんなことも気にせずリンクは「やばかったら少し援護してくれ」と言い残し、まだ攻撃を続けている中央の群れへと突っ込んで行った。

「え、ちょっと待って!」

 ユーリアの制止の声も聞かず、リンクは中央の群れに突っ込んでいく。

 慌ててユーリアは中央の群れへの攻撃を中止させる。

「総員、左右の群れに攻撃を集中しつつ、あのバカを援護して!!」

「ずいぶんと血気盛んな子ですわね!」

 シャルロッテが語彙を強めて、突撃するリンクに近づくエルトリスを撃ち抜く。

 リンクの行動は無謀だ。

 群れのボスを殺すことなど不可能だ。

 エルトリス幼生期のボスは基本、その群れでもっとも強く賢い個体がなる。鱗は固く、アサルトライフルの弾丸もなかなか通さない。一体一で相手にするには手強い。しかも常に群れに守られている。

 今も十体ものエルトリスの先にいる。これを掻い潜るってボスと対峙することが最も困難だ。

 これだけの腕を持つリンクならそれぐらいわかっているはずだ。

 ユーリアは不安に思いながらも、少し胸が高鳴っていた。

 いったいどうやってリンクが群れを突破するのか、そしてどうやってボスを殺すのか。

 二本の短槍を両手にリンクは群れに突っ込んでいく。

 そして、群れまでもう少しというところで膝を曲げ、ブースターを砂漠に向けた。

 ブースターの推進力が下へと向いたことで、当然リンクの体は大きく跳躍した。高さはおよそ二メートルほど。

 ユーリアは目の前で起きた衝撃の瞬間に思わず叫んだ。

「嘘でしょ!」

 そもそもエアブーツは砂漠移動に特化した移動手段であって、飛んだり跳ねたりするものではない。そもそもそんなことができないのだ。

 足の裏の浮遊石で浮いて、ブースターで移動することは酷くバランスが悪い。常に前屈姿勢で両足のブーツの進行においていかれないようにしないといけない。初心者は砂の凹凸で体が跳ねたたけでバランスを崩すほどだ。

 ブースターの向きを変えて少し浮上することも理論的には可能だが、体がついていない。必ずバランスを崩して横転するのがオチだ。

 エアブーツは飛べない。

 リンクはその常識を蹴飛ばしたのだ。

 ユーリアは心の中で何度も思った言葉をついに叫んだ。

「無謀よ!」

 空中にいる時はまだ大丈夫だが、着地に失敗してエルトリスに食い殺される未来がユーリアには見えた。

 リンクは助走の勢いによって群れを飛び越え、一気に群れのど真ん中へと降下していく。

 瞬間、リンクは右手の短槍を逆手に持ちかえた。落下する勢いをのせて、着地地点にいたエルトリスに短槍を突き刺した。

 そして素早く短槍を抜き、膝を曲げて衝撃を受け取るとブースターを後方へ向けてボスに向かって突っ込んでいく。

「――」

 もはや言葉も出なかった。

 二メートルの跳躍に成功させたリンク。そんな機動を成功させたのはおそらくリンクが初めてだろう。

 そこでユーリアは正気に戻る。

 リンクは今、群れのど真ん中を移動している。俊敏な機動力を活かし、エルトリスをかわし短槍で迎撃しながら。

 だが、これではボスに辿りつく前に挟み打ちになる。

 リンクに飛び越えられたエルトリスは後方に行けばいいのか、前方に行けばいいのかわからず混乱している。

 この混乱がリンクを救うチャンスだ。

 ユーリアは左に向けていたアサルトライフルを中央の群れに向けて発砲する。

 混乱した中での前方からの攻撃。

 エルトリスは当然こっちを意識せざるをえない。

 牽制は成功した。

 エルトリスはさらに混乱し、前方へ進もうとするとリンクを見逃すことになり、後方へ戻ろうとするとユーリアに撃たれた。

 ユーリアができることは全てやった。あとはリンク次第だ。

 リンクはついに群れのボスと対峙した。

 体は他のエルトリスよりも一回り大きく牙や爪が長い。一目でボスだとわかる。

 リンクはボスの正面へと突っ込んでいく。

 勢いにのせて左手の短槍をボスに向けて突き出した。

 鋭い一撃はボスの喉元へと向かって行った。

 が、渾身の一撃をボスはその鋭い牙で噛みつき完全に止めた。

 ユーリアが叫ぶ。

「まずい!」

 リンクの勢いは完全に止められた。止まれば後は囲まれて終わりだ。

 だが、リンクの動きは止まらなかった。

 すぐさま左の短槍を手放し、左足を軸にして右足のブースターを右に向けることでリンクの体が回転する。

 そして回転の勢いを利用し、振り向きざまに逆手に持った短槍をボスの胴体へと突き刺した。

 はいった! とユーリアは確信した。

 誰もリンクが間髪入れず二撃目を入れるとは思っていない。それはボスも一緒だ。

 短槍は確かにボスの胴体に入った。

 しかし、金属同士がぶつかる音がしただけで、短槍は貫くことができない。堅い鱗に守られたボスの胴体は短槍の穂先では貫けなかったのだ。

 万策尽きたと誰もが思った。

 そう、リンク以外は――

 リンクが叫ぶ。

「まだだぁあああ!!」

 ユーリアからでは何をしたのか鮮明に見えなかった。ただ、リンクの左手が短槍に触れたことだけはわかった。

 瞬間、耳障りな回転音が響いた。

 リンクが持つ短槍の穂先が回転しだしたのだ。

 穂先はエルトリスの鱗を砕き、そしてボスの胴体を貫いた。

 ボスの胴体から血が噴き出す。

 短槍の穂先は柄の部分まで胴体に埋まり、ボスは苦痛の叫びを上げると力無く砂漠に倒れた。

 瞬間、リンクは素早く短槍を抜いてその場から離れた。

 一瞬、戦場が静寂に包まれた。

 ユーリア含めた滅竜士も、エルトリスたちも、リンクの攻撃に言葉と行動を奪われた。

 静寂を破ったのはユーリアの叫び声だった。

「総員、総攻撃!! 一気にエルトリスを掃討するわよ!!」

 その声で正気に戻った滅竜士たちは動きを止めたエルトリスたちに攻撃を再開する。

 雨のような弾丸でようやく動きを取り戻したエルトリス達。しかし、そこに統率はなかった。逃げ出すもの、どうすればいいかわからず横着するもの。

 滅竜士たちは横着するエルトリスを重点的に攻撃し、そして生き残ったエルトリスは逃げ出し、残りのエルトリスは全てユーリアたちによって殲滅された。

 戦いは終わった。

 それに歓喜する戦乙女旅団の滅竜士たち。

 しかし、その流れに乗れないものがいた。

 一人はリンク。

 エルトリスのボスを貫いた短槍を右手に呆然とエルトリスたちが逃げさった方を見つめている。体は返り血を浴びて真っ赤に染まっている。

 もう一人はユーリア。

 真っ赤に染まったリンクを見つめながら、戦場のリンクの機動に思い返していた。

 全てが終わるとアレは夢だったんじゃないかとさえ思う。

 それだけ目の前で起きた出来事はユーリアにとって、滅竜士にとってありえないことだった。

 だが、そう思いながらもユーリアはすでにリンクの機動に心を奪われていた。

 現実を打ち破るその機動に。


この作品はこんな感じです、ということで今回はきりのいいところまで書きました。次からの更新はこれよりも短いと思います。更新は不定期です。書いてていつ投稿できるかわかったら、活動報告で事前に予告したいと思います。

次回はついに戦乙女旅団の滅竜士たちとの交流です。ユーリアの勘違いがどう発展していくのか、全財産を爆発させてしまったリンクはどうなるのか。そんなことを書きたいと思います。


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