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初日

作者: 竜堂 酔仙

 外気の冷たさで、背筋がひとつ、ぶるりと震える。

 元旦のこの日、初日を拝むために、私は自転車を駆っているのだ。

 天気予報は生憎あいにくの雨。

 やはり空は、灰色の雲が権勢を誇っている。

  見れるかなぁ

 少し不安になりながらも、私は目一杯ペダルを踏み込んだ。


 準備が遅かった。

 初日が出る前に、狙っていたスポットにたどり着くには、いささか時間が足りない。

 焦った。

 早起きしたのに。

 寒い中自転車を目一杯駆っているのに。

 ここまで来たのに初日の出を逃すのは、あまりにもやるせないじゃないか。

 私は妥協して、広い田んぼの中の道に、そっと自転車を停めた。

 ここなら遮蔽物がない。

 案外いいスポットじゃないか。

 来年もここに来ようかなぁ。

 そんなことを思いながら、すぐそこの自販機で缶コーヒーを買って、冷えきった手を暖める。

 雲の端が真っ赤に染まり、今にも初日が顔を出しそうに見える。

 ...とそんなとき、私の頬に冷たいものが触った。

 びっくりして空を見上げると、白いものが、空をふわふわと舞っている。

 雪が、降ってきているのだ。

 雪の初日、か。

 なんとも風流じゃあないか。

 不思議な満足感が私を満たした。

 そして、下を向いて、缶コーヒーの栓を開こうとした、その時だった。

 視界の上の方で、金が、爆発した。


 はっとして顔をあげると、金色の初日が、白い雪に彩られながら、真っ赤な空と灰色の雲に挟まれて、顔を覗かせていた。

 ただでさえ強い金色の光は、太陽がその全容をゆっくりと知らしめていく間に、さらに強くなってゆく。

 燃え盛る金色のかたまりは、ただただ立ち尽くす私を、金色の光で包み込んでいった。

 私は震えた。

 涙が溢れ出してしまいそうだった。

 その金のかたまりは、荘厳で、尊くて、ただただ美しかった

 そしてそれは、ほんの少しだけその全容を見せびらかすと、そのまんま雲の中へ隠れていってしまった。

 名残惜しい気になりながらも、私はとても満足だった。

 新年早々とてもいいものが見れた。

 心の洗濯をしてもらった。

 今年一年は、きっといいことがあるだろう。

 今年一年を、絶対いい年にしてやる。

 密かに、そう決意した。


 さぁ、帰ろう。

 家でおばあちゃんが雑煮をつくって待っている。

 おばあちゃんの作る、温かい、美味しい雑煮を想いながら、私は帰路についた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初日の出を見るための出かけていった出来事をお話にされているのですね。 田んぼの中の道で見ると昇る太陽がよく見えるんですよね、私もそんな風にして初日の出を見た事があったので懐かしく思いました…
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