プロローグ ~雪の中で~
雪の降り積もる中に少年はいた。
年は5、6歳くらいだろうか。鮮やかな銀髪にエメラルドグリーンの瞳が特徴的だった。
その少年は少し異様であった。
異様というのはその格好である。
雪の中にいるには合わない寝着の姿だった。そして、異様なのはそれだけではない。少年の寝着のいたる所に血が付いていた。
血は少年の物ではない。
「嫌だよ……目を開けてよ…ねえ、父さん!」
泣きじゃくる少年の前には、一人の男が仰向けに横たわってた。
男は少年の父親である。
父親の体は氷の様になっていたが、それは雪だけのせいではない。
父親は銀の鎧を身に着けていた。鎧は辛うじて形を保っていたが、いたる所に深いヒビがはいっていて、少しでも動かすと直ぐに壊れてしまいそうだった。元々目を瞑る程の光を放っていたが、今では土と血がこびりついたせいでその輝きを既に失っていた。
「か、カイト…そんなに泣くな………。父さんまで、泣きたくなるだろう?」
父親は今にも力を失いそうな腕を必死に動かし、息子の頭に手を置く。そして優しく、ゆくっくりと頭を撫でる。
それすら父親には辛い筈なのに。
それを顔に見せる事なく、我が子を愛おしむ目で。
「いいか…カイト……。生き物はいつか、必ず……死ぬ。父さんも…、そうだ。父さんは、少し…。それが…、早いだけだ」
「違うよ。父さんは死なないよ!父さんは、王様も認めた騎士なんだよ…?竜騎士なんだよ!父さんは強いんだ!…だから……、絶対に死なないんだ⁉」
乾ききったガラガラの声で訴える。
父の強さを。
頭に浮かぶ、最悪の結末を否定するために。
最悪の結末が訪れないよう、心で必死に祈りながら。
しかし少年の願いも虚しく、雪の寒さと流れ続ける血のせいで父親の体力も徐々に失っていく。
父親はそんな状態でも空いているもう片方の手で、首にかけている『ある物』を紐ごと千切った。
『ある物』は少年の両手に収まるぐらいの金属の笛だった。外見は至ってシンプルだが、それの輝きはとてつもなく、神聖な物である事が分かる。
その笛は、彼らの一族に代々伝わる物。
一族の中でも、選ばれた1人の者しか使えない物。
父親はそれを震える手で、少年に差し出す。
「これは……、次の…、こう、後継、しゃに……お、お前を選らん、だ。う、受け取れ……」
消えそうな声で話す父親の言葉に、少年はこれから起こる出来事がもう、直ぐそこまで来ている事に気付かされた。
いや。男の姿を見た時に分かっていた事を、否定し続けていた事を有無言わさず肯定された。
即ち、父の死を。
「だめだよ……、父さん。そんなの嫌だよ!」
倒れそうな父親の笛を持つ手を、両手で握り締めながら、泣き叫び続ける少年に父親は、それでも優しく笑いかける。そして、
「カイト……忘れる、な。私達は、つ…、常に運命と……、共に、あ…、ある、こと、を……」
バタ………
少年の頭を撫でていた手が、少年の顔をなぞって滑り落ちる。
少年が握っていた父親の手も、力が尽きていた。
それが、父親の最後の言葉だった。
「いやだ、嫌だよ…。目を開けてよ!ねえ、父さん‼」
父親の体を必死に揺らしていると遠くから「バサ、バサ」と、何かが羽ばたく音が耳に届いてきた。少年が音のする方を見てみると、
前方の空から何かがこちらに飛んできているのが見えた。
翼があるが鳥ではない。全長が5・6mの竜だった。
その竜は少年の周りに、強烈な風を起こしながら少年の前に舞い降りた。
少年は知っている。その竜が父の強さの1つであった事を。父の相棒だった事を。
そして、今からは少年の相棒になる事を。
少年の運命になる事を。
週1のペースで更新します。ご指摘、アドバイス等がありましたらお願いします。