act 2.
切りの良い所で止めたので、今回は少し短めです。
他愛無い会話を続けているうちに、二人は孤児院へと辿り着いた。中へ入ると、粗末な服に身を包んだ女性と幾人かの子ども達が洗濯を抱えて運んでいるのが見えた。
子どもの一人が二人に気づき、女性の服の裾を引く。女性は顔を上げ、二人に気づくとやんわりと微笑んだ。
「お帰りなさい、スティン」
「ただいま戻りました」
「リオール、お久しぶりですね」
「院長先生、お久しぶりです」
二人は同時に頭を下げる。上げるタイミングも全く同じ二人に、院長―――エルマはくすりと笑んだ。
「二人とも、相変わらずね。さ、上がりなさい。リオールも、今日は泊まっていくのでしょう?」
「そのつもりですが・・・部屋は、空いてますか?」
「空き部屋はないけど、スティンの部屋に泊まればいいわ。まだ同室の子もいないし」
「ありがとうございます」
この孤児院では、10歳に満たない子ども達は5~10人で一部屋を使わせているが、10歳になり仕事を始めた子ども達は2人で一部屋を使わせている。
その理由としては、10歳に満たない子の出入りの激しさと、仕事を始めた子ども達の体調維持である。王都では、身請けを望む者の多くは出来るだけ幼い子どもを欲しがる。ラゼウスでは奴隷の使用を禁止しているし、身請けされた子どもは国の庇護のある国民として扱われるため、奴隷のように扱うことはできない。それもあって、まだ神を定めていない幼い頃から育てる方が自分の思ったように育てられて良いと考える者が多く、神を定めていない10歳以下の子どもは早々に身請けされる。例え神を定めていても、10歳に満たない場合は神から与えられた能力やその子ども自身の資質等によって10歳以上の子どもより身請けされやすい。
逆に、10歳を超えてしまった者は、中々身請けされない。仕事をこなしているうちにその働きを認められ、身請けされる者もいないわけではないが、まだまだ少ない。そのため、孤児院に依頼される仕事をこなし、経験を積み、独り立ちに備える者が殆どである。それを考慮して、10歳を超えた者は日々の仕事の疲れを少しでも癒せるよう、そして独り立ちの準備を充分に整えられるよう二人部屋を与えられる。
孤児院でスティンと同い年の子どもはもうおらず、今は10歳を越えた子どもは少ないため、スティンは一人で二人部屋を使っていた。
「あ、院長先生、これお土産です」
思い出したかのように、リオールは懐から大きめの包みを取り出し、エルマに渡した。エルマは洗濯物を落とさないように抱えなおし、包みの中身を確認すると顔を綻ばせる。
「レバンのお肉ね。それもこんなに」
「一匹分なので、一日分にしかならないでしょうが」
「良いのよ。久々のお肉だから、皆喜ぶわ。今日早速使わせてもらうわね」
周りの子ども達から歓声が上がる。エルマは洗濯物を他の子どもに任せると、包みを持って奥へと入っていった。子ども達もそれについて奥へと入っていく。
それを見送り、スティンはリオールを見上げた。
「リオール、今日の討伐隊に参加してたの?」
レバンは草原に出る魔物の一種である。魔物の肉は美味だが、すぐに傷んでしまうため、かなりの高級品だ。いくら独り立ちしたとはいえ、リオールの給料では手が届かないはずだ。
しかし、自分で狩れば、関係ない。
リオールは肩をすくめた。
「まあな。自分で倒した魔物は獲物としてもらえるから、持って帰ってきたんだ。牙とかは先に引き取ってもらった」
「レバン倒せるようになったんだね。すごいじゃないか」
レバンは草原に出る下級魔物の中では強い部類に入る。中型犬程度の大きさの兎に似た魔物で、中々にすばしっこく、その素早さを利用して繰り出される牙と爪は十分脅威である。
まだ騎士団に入団して一年しか経っていないのに、それだけの力をつけていることにスティンは感心した。
「いや、あれは素早いけど一撃当てれば倒せるから、そこまで強くない。今日も本当はゾーレナーを狩りたかったんだが・・・俺にはまだ無理だった」
苦笑して、リオールは軽く服の裾を捲った。そこには、血に滲んだ包帯が巻かれていた。
「一応手当てはしたんだが、まだ傷が塞がらなくてな」
「・・・大怪我では、ないんだね?」
「当たり前だ。大怪我なら会った時点で言ってる」
飄々と言ってのけるリオールに、スティンはため息をついた。
「・・・・・・とりあえず治すから、部屋に行こう」
「いつもありがとな、親友」
にかっと笑うリオールのわき腹を、スティンは軽く殴ったのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。