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act 1.

 年齢を書き忘れました。

 この物語はスティン14歳からのスタートです。


<補足>

力は『神様に貰った力』のことで、"力"は『他者の能力』のことです。

 バルセイーク最大の国ラゼウスの王都には、少し変わった孤児院がある。

 ここでは、10歳になった子どもたちは孤児院側の要請で街で仕事を与えられ、身請けされるか独り立ちするまで孤児院を維持するための費用を稼ぐ制度があった。これは孤児院の経営のための策であり、かつ身請けや独り立ちを可能にするための策でもある。

 人身売買が禁止されていることもあって特に孤児が多い王都では、孤児院の費用がかなり必要になるため、働ける年齢に達した子どもにまだ働ける年齢に達していない子どもの面倒を見させるという名目で仕事を任せる。これは子どもたちに孤児院内の年功序列の観念を植え付けるとともに、独り立ちへの展望を持って貰うという意図が働いている。仕事をやってみることで、自分の向き不向きや好き嫌いを判断することが出来るためだ。

 実際、この制度によって仕事をしている間に働きを認められ、身請けされる者は出ているし、まだ独り立ちする年齢に達していなくとも独り立ちしていった者も少なからずいる。それに、子どもに仕事の手伝いを頼む側も、多少能力は劣るものの大人に頼むより格安で引き受けてもらえるということもあって、様々な職種の者が利用していた。

 この孤児院に所属しているスティンもまた、この制度によって王都の1画にある食堂で給仕の仕事をしていた。


「こっち、麦酒一杯な!」

「はい、ただ今!」

「お会計をお願いしたいんだが」

「はい、しばらくお待ちください!」


 仕事は忙しいものの、半年以上続けているため、多少の慣れがある。スティンはてきぱきと仕事をこなした。


「スティン、そろそろ上がんな」

「はい」


 食堂の主人から声をかけられ、スティンは返事をすると残りの仕事を片付ける。それから、給仕用のエプロンを外し、所定の場所に仕舞うと主人の元へと向かった。深々とお辞儀をする。


「今日も、ありがとうございました」

「おう、こちらこそ助かった」


 いつになく歯切れの悪そうな主人の様子にスティンは首を傾げた。


「・・・いや、娘が完治したからな」

「治られたんですか。おめでとうございます」


 素直に祝辞を述べると、主人はますます顔を歪める。


「・・・それで、だ。明日からは娘が入れるようになるから・・・」


 しどろもどろに言葉を続ける主人に、スティンはニコリと笑いかけた。


「でしたら、明日からは来なくて良いんですね?」

「まあ・・・そういうことだ」

「分かりました」

 

 元々、この仕事は事故で大怪我を負った主人の娘が働けるようになるまでという条件で孤児院に持ち込まれたものであり、請け負ったスティンも了承ずみである。

 スティンからすれば特に気にならなかったが、主人の方には色々と気になるところがあったらしい。頷いたスティンに、主人はあからさまに安堵のため息をついた。


「本当に、今までありがとな。俺としてはずっと働いてもらえると助かるんだが、ウチもそこまで賃金は出せねぇんだ。すまんな」

「いえ、大丈夫です」

「食べるものに困ったときは来な。残り物くらいは分けてやるから」

「ありがとうございます」


 いくら孤児院の孤児とはいえ、破格の扱いである。スティンは嬉しそうに頭を下げた。


「じゃ、またな」

「失礼します」


 もう一度頭を下げ、スティンは食堂を後にした。夕暮れに染まる街をゆっくりと歩き、岐路に着く。

 その足取りは軽い。


「(今回の職場は良い所だったな)」


 10歳になってから、様々な場所で臨時の手伝いをしていたが、今回の食堂が最も期間が長く、多くの客が訪れたため、スティンにとって都合が良かった。

 最近は客も固定になり、少し飽きていた所だったので、辞められて丁度いい。


「(次は、どんな仕事に就こうかな)」


 孤児院に要請が来た職場に行くことになるため、あまり選べるわけではないが、全く選べないよりはずっと楽しい。

 スティンは鼻歌交じりに孤児院への道を辿る。

 と、その肩をポンと叩かれ、スティンは驚いて振り向いた。

 悪戯が成功した子どものような表情をした、見知った顔に、無意識に笑みがこぼれる。


「よ、スティン」

「リオール、久しぶり。どうしたの?」

「臨時の休みをもらったから、久々に帰ろうかと思ってさ。院長にも会いたいしな。お前は仕事の帰りか?」

「うん」


 話しながら、二人は孤児院への岐路へついた。

 スティンとリオールは孤児院の同期であり、同い年でもある。それもあって、二人はとても仲が良かった。

 リオールは一足先に独り立ちしてしまったため、以前ほど顔を合わせなくなったが、時々こうやってスティンの元を訪ねてくる。一応他にも目的はあるのだが、わざわざ会いに来てくれるのは嬉しい。


「リオール、また背伸びたね」

「そりゃあ、毎日鍛えていれば伸びるさ。そーゆーお前は相変わらずちっこいな」

「そのうち伸びるよっ」

「どうかな~」

「・・・もうっ」


 スティンはそっぽを向いた。

 騎士団の入団試験を最年少でパスし、騎士見習いとして早々に独り立ちしたリオールは、元々孤児院のどの子ども達と比べても背が高く、体格も良かった。それとは真逆で、子ども達の中でもひと際小さく、年下の子ども達からも年上と思ってもらえなかったスティンをからかうのは彼の趣味のようなものだ。何年経っても止めようとしないのだから、いい加減軽く流せるようになりたいのだが、中々感情がついていかない。

 それもまた、腹立たしい。


「そんなにちっこいのが嫌なら、お前も入団すればよかっただろ。お前なら一発で入れるだろうが」

「入ったから伸びるってものじゃないし・・・人の"力"を借りて入ったら、自分が入ったことにはならないよ」

「・・・真面目だな、相変わらず」


 リオールは軽く溜息をついた。

 彼はスティンが信仰している神と与えられた力のことを知っている。その力をスティンが極力使わないようにしていることも。それを勿体ないと彼は常々思っていた。


「別に、使っちゃいけないって言われてるわけじゃないんだろ? 少しくらい自分のために使ってもいいんじゃないか?」

「・・・他の人の努力や持って生まれた才能を勝手に使わせてもらってるんだから、自分の利益のために使うのは絶対ダメ。この力はとても便利だけど、使いすぎて力があることに慣れちゃうと困るからね。自分で出来ることは自分でやらないと。それに、弱点もあるんだよ」

「弱点?」

「そ。力に頼り過ぎると、力がないと何も出来なくなってしまうんだ」


 スティンに与えられたヴァーリア神の力は、『他者の持つ能力をそのまま自らのものにする力』である。たとえば、魔術を使っている所を見れば、見た魔術を使うことが出来るようになる。同様に、料理でも、剣技でも、見たものは使えるようになる。現在では、相手を見るだけで、相手の持っている技能、先天的な才能、種族の特徴などあらゆる能力が使えるようになっている。

 しかし、これらの他者から得た力を使うのは身体に負担がかかるし、得た能力以上のものは会得できないという欠点がある。たとえば、国一番の魔術師の能力を得たとしても、その魔術師を超える人物になることはできない。それに当然のことだが、他者から得た能力を使うと、自分の身に付かないのである。力がなければ何も出来ないのと同義だ。

 力に頼ると、自分の中にある将来の可能性は潰える。それは力を与えたヴァーリア神にとっても、スティン自身にとっても望まないことであった。


「あと、実力でどこまで出来るか知りたいっていうのもあるし、僕だって全く使ってないわけじゃないよ」


 少しばかりムッとしたスティンに、リオールはため息を返す。


「自分のために使ってないだろ」


 リオールが孤児院にいた頃から、スティンは自分の力を人のために使っていた。孤児院は大人の人手が少なく、1人でも怪我や病気で休まれると孤児達の面倒を十分に見ることが出来なくなる。ある程度の年齢に達した孤児が手伝いをしているが、それでも薪割りなど仕事によっては子どもでは出来ないこともある。そういった場合にスティンがこっそりと力を使って手伝っていたことを知っているリオールとしては、呆れるしかない。

 そう言うリオールが、実は一番スティンから恩恵を受けているのだが。


「自己満足も、自分のためだよ」

「・・・あー、分かった。もういい。お前が良いんならいい」


 いつも言っても言っても伝わらないのだ。無駄なことはしないほうが良い。リオールは強制的に話を切った。


「まあ、独り立ちするまでにどうしても進路が決まらなかったら、力を使うことも考えようかな」

「そのときは俺のとこに来な。決まるまで家に置いてやる」

「居候ってこと? 迷惑じゃない? 中々決まらなかったらリオールが困るでしょ」

「もちろん、居る間は色々とやってもらうぞ。家事とか、武器の修理とか。有能な家政婦雇ったと思えば高くはないさ」

「・・・りょーかい」


 半分本気だろうが、半分は善意なんだろう。にやりと笑うリオールに、スティンは苦笑いを返した。




 読んでくださり、ありがとうございます。

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