プロローグ
以前からチートっぽい話が書きたかったので、挑戦することにしました。
この作品はプロットが途中までしかできていないので、かなりの亀更新&途中打ち切りの可能性がある作品になります。
それでも良いという方のみお読みくださいませ。
月が真上に来る刻、一人の子どもが大神殿で祈りをささげていた。
この世界、バルセイークには主神アーレルを中心として多くの神々が存在しており、人々はその中の一神を選び信仰することで、各々の神の力を分け与えられていた。
神を定めるのは物心つけばいつでも構わないが、成人までにどの神も信仰していないものは"神無者"として虐げられる。また、幼い頃から信仰している方が神から力を得られることが多いため、人々の多くは子どもの頃から信仰する神を定めていた。
「(ヴァーリア神様、僕の祈りを受け入れてください)」
子どもは一心に神に向かって祈りをささげる。
祈りが届かなければ、信者となることは出来ない。祈りを捧げ、その祈りを神が受け入れることによって始めて信者となるのだ。
「(ヴァーリア神様・・・)」
自らが信仰したいと思う神に子どもは祈りを捧げ続ける。
どのくらい時間が経ったのだろう。
不意に子どもに語りかける声があった。
【私に祈りを捧げる人は初めてだよ】
「(ヴァーリア神様・・・?)」
顔を上げると、白い衣に身を包んだ男性が宙に浮かんでいるのが見えた。
【ごめんね。さっきまで仕事をしていたから、君の祈りに応えてあげられなかったんだ】
長い白髪を揺らし、男性は子どもの前に降り立つ。そして、子どもを抱き上げた。
【ずいぶんと若い子だね。まだ、神を定めるには早いだろうに】
普通、神を定めるのは8歳~10歳が多い。代々同じ神を信仰している家ではもっと早くに定めてしまうことが多いが、この子どものように一人で定めに来る場合はもっと大きくなってからだ。子どもの見た目ではまだ6歳くらいだろうから、さすがに早すぎる。
【それに、こんな真夜中に神定めに来るなんて。人買いに攫われてしまうかもしれないよ】
いくら神定めの儀が神殿でしか行えないとはいえ、神官のいない、こんな真夜中にやってくるものはかなり少ない。闇を司る神や人々から邪神と言われているような神を定める場合はともかく、男性-ヴァーリア-はそのような神ではない。昼間でも良いはずだ。
不思議そうに子どもを見下ろすヴァーリアに、子どもは沈んだ面持ちで答えた。
「・・・僕・・・孤児なんです」
【・・・そうか】
ヴァーリアは表情を歪ませた。
この世界には孤児が多い。神が力を与えているのだからそうそう死なないと思われるのだが、神が力を与えるのは自らを信仰している者のみであり、自らの司る力のみしか与えることは出来ない。そのため、戦や災害など突発的な出来事でなくなる者は意外に多い。
孤児は孤児院でしかるべき時まで育てられ、独り立ちするか、身請けと言う名目で売買される。人買いと大差はないが、孤児院に所属している限り人買いに狙われることはなく、独り立ちするまで身請けされなければ自由になれるため、少しではあるが人買いの奴隷よりはましであった。
子どもは孤児であるからこそ、このような夜中でもさらわれる危険は少ないのだろう。
【なら、私よりポーレスやゲルダの方が良かったのではないか?】
ヴァーリアは子どもの頭を撫でつつ、疑問を口にする。
ヴァーリアは今まで誰からも信仰されなかった神だ。ヴァーリアが信仰の許可を与えなかったというわけではなく、事実誰からも祈りを捧げられなかった神である。
神々の名のリストはあるが、そこに記載されている名は膨大すぎて、見落とされたり最後まで見てもらえなかったりすることがほとんどである。その中から自分を見つけた子どもも凄いが、自分を信仰しようと考える子どもがヴァーリアはとても不思議だった。
ヴァーリアが挙げた神は、誰でも知っているような有名かつ与えられる力が有益な神の一柱であり、出世を望む者はこぞってこれらの神を信仰対象と定める。
孤児の子どもが、それらの神をおいて自分を選ぶ理由を、ヴァーリアは思いつけなかったのだ。
子どもはピクリと肩を揺らし、フルフルと首を振った。
「僕、貴方様がいい」
【どうして?】
「・・・僕、自分だけの神様が欲しかったんです」
ポツリポツリと話しだす子どもの髪をヴァーリアは静かに梳いた。
「・・・孤児院では、自分だけのものが貰えないから、神様だけは自分だけのが欲しかったんです」
多くの人に信仰されているということは、多くの人に目をかけてもらっているということ。
子どもは、それが嫌だった。力を与えられずとも、傍にいてくれなくとも、自分だけを見てくれる神が欲しかったのだ。
「・・・こんな理由では、駄目ですか?」
泣きそうな顔で見上げてくる子どもに、ヴァーリアは目を丸くした。
【(この子は・・・)】
ただ、それだけの願いを叶えるために、こんな真夜中に一人祈りを捧げにきたということに、ヴァーリアは苦笑を禁じえない。
今まで信者がいなかったのは、誰も人が信仰したことのない、何を司っているかも不明の神を信仰したいと思うものが存在しなかったからである。
神が人と積極的に交流を始めたばかりの頃は、人々も神の司るものを知らず、あまり深く考えずに神を定めていた。しかし、時が過ぎるごとに神々ごとの特徴や司る力が明らかにされ、現在では人々は自らの将来を見据えて最も都合の良い神を定めるようになり、能力の知られていない神はほとんど忘れ去られていた。リストに名前を見つけても、その特徴や司る力についての記載が無ければ、誰も選ぼうとはしないのだ。
その点で言えば、どのような理由であろうと、力を考慮せず、純粋に自分を選んでくれた子どもはとても好感が持てた。
【・・・よし! 君だけの神になってあげよう】
「!」
子どもは驚いた。
「い、いいんですか?」
【もちろん。永久にとは約束できないけど、君が生きているうちは君だけが私の信者だ】
ヴァーリアの言葉に子どもの目に涙が浮かぶ。声を出さずに泣く子どもをヴァーリアは静かにあやした。
子どもが落ち着いたところで、ヴァーリアは再び子どもに声をかける。
【君の名前は?】
「スティンです」
【じゃあスティン、君は今日から私の信者だ。いいね?】
「はい!」
嬉しそうにスティンが頷くと、途端に左手の甲に模様が浮かびあがる。
神との契約の証だ。
それを見て、泣き笑いをするスティンにヴァーリアは苦笑した。
【では、私の愛し子となった君に力を授けないとね】
「・・・ヴァーリア神様は、何を司っているんですか?」
涙をぬぐい、不思議そうに見つめてくるスティンにヴァーリアは困ったように笑った。
【うーん・・・特に司っているものがあるわけではないんだよ】
「ない・・・ですか」
【私は代理の神だからね】
「代理?」
よく分からず、首をかしげるスティンをヴァーリアは楽しそうに眺めた。
【そう。他の神が忙しくて手が回らないときに、力を貸すのが私の仕事。だから、他の神が出来ることは全て出来るけど、私だけが司っているものはないんだ】
「???」
【君には、まだ難しいかな?】
うんうんと頭を抱えているスティンにヴァーリアは苦笑した。
【詳しいことはそのうち分かるだろう。さ、目を閉じなさい】
言われるままに、スティンは目を閉じた。ヴァーリアはスティンの額に手をかざし、力を送り込む。
【――― これでいい】
スティンは目を開けた。自らを見下ろしてくるヴァーリアを静かに見上げる。
と、頭に激痛がはしり、スティンは頭を抑えた。
「っ・・・!」
【おやおや。無意識とはいえ、もう力を使いこなそうとするとは優秀だ。でも、まだ神に対して使っては駄目だよ。君の身体が壊れてしまう】
ヴァーリアがスティンの頭を撫でると、スティンの頭から痛みが消えた。
【優秀なのも問題だね。使いこなせるようになるまでは、神に対しては使えないようにしておこう。それでも強い力だから、無闇に使わないようにね】
「はい」
力強く頷くスティンをヴァーリアはそっと降ろした。それから、スティンの前に屈みこみ、目線をスティンと合わせる。
【最後に一つだけ。・・・君に与えた力はあくまでも他者から力を借りるものだ。それを忘れてはいけないよ】
「はい!」
真剣に返事をするスティンの頭を、ヴァーリアは軽く叩いた。
【さ、もう帰りなさい】
「はい。あ、ありがとうございました」
スティンはぺこりと頭を下げた。
【気をつけて帰るんだよ。初めての信者を一日で失いたくないからね】
立ち上がり、穏やかな笑みを浮かべて見下ろしてくるヴァーリアに、スティンは再び涙ぐんだ。
「ま、また会いにきても、いいですか?」
【もちろん。私は君の神なのだから。但し、会えないときもあるがね】
ヴァーリアの返事にスティンは笑みを浮かべる。
【君の事を、遠くから見守っている】
最後に軽くスティンを抱きしめ、ヴァーリアは姿を消した。スティンは目尻に残った涙をぬぐうと、大神殿を後にした。
読んでくださり、ありがとうございます。