ENTER THE BOX 2
区切る場所を失敗した感があります(笑)
ぬるいファンタジックワードがちらほら出てきますので苦手な方はご注意ください。
ぬるい戦闘シーンもあります。苦手な方でもたぶん大丈夫です。ぬるいです。
タイムリミットまであと3時間半。
私はちょうど、今までの経緯をすべて話し終わった。
「・・・・・・じゃあ、あと3時間くらいで、終わるのか」
「うん」
「・・・・怖くない、のか」
「もう、慣れたよ」
純はうーん、と唸って言葉を切った。
「えーと、純・・・たちは、どうしてこの箱の中にこれたの?何をしに来たの?」
純は、まずい、という顔をして、眼鏡を見た。
『鈴さんのことばかり聞いて、こちらのことは説明不足でした。すみません。僕たちは、試験の真っ最中なんです』
それでも説明不足だとは思うが。
純は今まで相棒の説明不足を補う役目をずっと担っていたらしく、またか、と言わんばかりに盛大なため息をついて付け足しをした。
「あー・・・オカルト専門の仕事・・・の採用試験。普通じゃない事件の解決をして、ポイントを稼いで、一定まで貯まると合格して、本格的に働ける」
私はいまいちわからなかったが、とりあえず、純たちは試験を受けていて、合格するためとはいえ、私のことを助けてくれるらしい。
「私、もう殺されなくて済むの?」
なんだか、ずっと忘れていた感情が息を吹き返した気がする。
「・・・・・俺の技量が足りるなら」
純は少しやさしい声で言った。
もうすぐ、時間だ。
純と翠雨は、その時間に死ななければループ現象は終わるはずだ、と言った。
もし、この現象が終わってしまったら。
私の命も、終わってしまうのだろうか。
怖くて、聞くことができなかった。
きっと純もあえて言わないんじゃないかと私は思った。
それに、終われるなら別にいいような気もした。
―――あと、1分。
男は、現れた。
10時間に1回は見ているはずなのに、毎回のように忘れて、出会うたびに思い出す、その顔。
私はいつものように身構えて、男と向き合う。
その間に、眼鏡をかけた純が立つ。
「下がってて」
短く言って、純が地面を蹴った。
―――あと、40秒。
男は怯むこともなく、純にナイフを向けた。
(速い、かも)
純はそのまま走り続け、切っ先が届く直前に体勢を低くし男の懐に入り込んで、そのまま右手をねじあげた。
しかし男は無言のまま左手で純の腹を殴り、引きはがす。
(なんだこいつ・・・痛みを感じないのか?)
―――あと、20秒。
純は再びもちなおし、今度は男の脛を思いっきり蹴った。
が、それもまた無反応で、足を掴まれ砲丸投げの要領で吹っ飛ばされた。
「あっ!」
そのまま純は地面に倒れた。意識はあるが、当たり所が悪く、動けないようだ。
翠雨が少し離れた地面に落ちている。
私はとっさに走り出した。
―――あと、10秒。
男が純に近づいていく。
私は純のところへたどり着き、男のほうを見て言った。
「私を殺したいんでしょ?」
わずかな可能性に、かけてみたくなった。
―――あと、5秒。
男はにやりと笑い―――
また、死の感覚が押し寄せてきた。
ベッドの上。
お母さんの、起きなさい、今日は部活でしょ、という声が聞こえる。
私はパジャマのまま家を飛び出した。
あの路地裏につくと、最初に会った時よりもボロボロになった青年が壁にもたれて座っていた。
なんだか疲れているような怒っているような微妙な顔。
こちらに気づいて、パジャマ姿にぽかんと呆れて、しかしすぐにまた不機嫌な顔に戻った。
「よかった・・・大丈夫だったんだ」
なんだか泣きそうになった。
あのとき、とっさに考えたこと。
純は箱の中の人間じゃないから、傷を受けたらループ後も回復しないだろうこと。
もしも、死んでしまったなら、生き返らないだろうこと。
・・・・私なら、大丈夫であろうこと。
「・・・・・・・・・・ごめん」
純はこちらを見ずに、力なく言った。
たぶん、自分を責めているのだろう。
私を助けられなかったことに対して。
助けられてしまったことに対して。
「すごく、悔しい。いや、そんなことより」
ひどく億劫そうに、首をこちらに向けて。
「だいじょうぶ?」
自分のほうが、全然大丈夫じゃなさそうなのに。
私はもう、傷も痛みも何もないのに。
ぼろぼろの格好で、ぼろぼろの声で。
私を、心配している。
「――うん・・・・っ」
私は、純の体にしがみついた。
この箱の中で、久しぶりに泣いたかもしれない。
私の涙が収まるまで私を抱きしめて無言でいた純は、静かに話した。
「・・・・俺、怖かった。自分が傷つけられるのは平気なのに、お前が刺されたとき、死に直面した、というか、人はあっけなく死んでしまうんだ、って分かったというか・・・」
突っかかりながら、言葉を選びながら。
「鈴は、慣れた、って言ってたけど、慣れるわけ、ないよな・・・」
そうだ。私は慣れたわけじゃなかったんだ。
感覚が、麻痺していただけなんだ。
よかった。私はまだ、人間でいられてる。
何分経ったか、2人とも落着きを取り戻した。
私は意図せずに抱き合ってしまっていたことに気がついて、焦ってすぐに離れた。
純はそんなに焦っていなかったけれど。
「次は、絶対に大丈夫だから」
純はそう言って、私の頭をぽんぽんと叩いた。
うん、と頷いて、何かが足りないような気がして、すぐそれに思い当たる。
「翠雨は・・・?」
「あぁ、スイッチ切ってある。いろいろ心配してうるさいから」
翠雨を哀れに思う。
「そろそろ、つけないとな」
純はポケットから眼鏡を取り出して、左側の機械についている3つのボタンの一番下を押した。
しばらく、ガーというような機械的な音が出て、少年の声が姿を現した。
『純!心配しましたよ!・・・っと、鈴さん!大丈夫でしたか?!』
相棒と同じことを言う。
「うん、ありがと」
少しほほえましい。
「・・・・・・あいつのこと、解析できたか?」
あいつとはたぶん、私を殺した人のことなのだろう。
翠雨は言葉を羅列した。
『はい。まずはこの世界のことから。この世界は、鈴さんが殺された直後にいきなり朝に戻ります。タイムラグはありません。そのことからやはり鈴さんが殺されてしまった後にはなにもすることができません。鈴さんはいつも同じ時間に殺されると言っていましたね?純がにらんだとおり、鈴さんがその時刻のあと死んでいなければ時間の流れが狂って崩壊し、ループ現象は終わると思われます。しかし・・・終わった後の鈴さんの命がどうなるかは、ハッキリ言ってわかりません。生きるかもしれません。死んでしまうかもしれません』
「・・・・・・・・・わかった」
純は私のほうを心配そうにのぞき見た。
「大丈夫だよ」
「ちがう」
すぐに言葉を遮られた。
「・・・・・・えーと・・・死ぬのは怖い。すごく。だけど、このままじゃいやだから」
正直に言うと、純は少しだけ、本当に少しだけ笑った。
「・・・まぁ、少なくとも停滞はないと思うから」
私は、その答えだけで十分だった。
『そして、男のことについてですが、人間ではありません』
「人間じゃ、ない・・・?」
どこからどう見ても、人間じゃないか。もう顔とか覚えてないけど・・・
『男は温度を持っていません。何者かはまだ完全には判断できませんが、人間ではないことは明確です。おそらく・・・』
「天界の住人」
『はい』
なんだか2人で会話が成り立っているが・・・まったく付いていけていない。
「えー・・・・・・っと、悪魔ってこと?」
「うーん・・・そんな感じ?あいつらは人間を不幸にするのが好きだから」
なんだかよくわからない。
「とりあえず、今日で終わらせる」
純は、決して大きくはない声で、しかしはっきりと言った。
なんでか、少し安心した。
ここまで読んで下さった方は本当にありがとうございます^^
ものずk・・・いやなんでもないです。
この次で1話は終わりになると思います。
かなり前に書き終えていたやつなのでさくさく上げます^^;
おつかれさまでした≧≦