愛しさと、そして現実という越えがたいもどかしさと
題名を「スノッブ・プール」様より借用させていただきました。
身勝手な貴方はいつも私にこう告げる「好きだよ」と。
私がいくら手を伸ばしても触れることすら出来ないのに。
どれだけ望んでも、どれだけ欲しても手に入れることなんて出来ないのに。
遮光のカーテン越しに太陽の仄かな光を感じる。何時間たったのだろう。瞼の裏に淡い光を感じながらふと思った。
重たいそれをこじ開ければ、隣で寝息をたてていたはずの彼が既に目覚めており、ジッと私の顔を見つめていた。彼の視線と私の視線が絡み合う。
「いつから起きてたの」
「んー、30分前くらいかな」
「そんなに見て何になるのよ」
「やだな、ずっと顔ばっか見てたはずないじゃん。そんなに暇じゃないんだ」
「そう・・・」
寝返りをして、彼に背を向ける。シーツに素肌が擦れ、ただそれだけで昨日を思い出してしまう。
こんなことをしている自分にとことん嫌気がさす。
私と彼は付き合っている訳ではないと自分自身に言い聞かせる。自惚れてはいけない。
本気になって傷つくのは私だけだ。彼にとってこの関係はただのお遊戯なのだから
「好きだよ」
甘い甘いその言葉に、胸が締め付けられてしまう。いつもそうだ。私ばっかりどきどきどきどきして。もしかしたら、なんて浮かれてしまうんだ。この続きの言葉を聞いてしまうまでは。
「でも君は俺を好きにならないでね」
いつもの言葉。そうやっていつも私に距離を取らせるんだ。
「今まで欲しかったものはこの力で全部すぐに手に入った。だからこそ手に入ったものにすぐ嫌気がさしてしまうんだ。手に入った瞬間さ、要らなくなっちゃうんだよね」
背中から聞こえる彼の声には悲しげな色を帯びたように感じたが、一瞬でまたいつもの冷笑混じりな声音に戻る。確実にいつもの笑顔を私の背に送っているだろう。これだから私はこの笑顔が大嫌いなんだ。その笑顔で私の心に幾度も傷を付けるから。
「嫌いになったらいいんだ」
「俺は好きなんだし、それは困るかな。愛してなかったらいいんだ」
「変なの」
「ねぇ、愛してるよ」
好きな人から愛の言葉を囁かれ、それでも好きになってはいけないなんてどこの童話の話なのだろうか。本当に残酷にもほどがある。
「大嫌いだよ」
好きだよ、そんな気持ちを乗せて私は呟く。深い憎しみをも込めた、愛の言葉を。
「ありがとう」
ああまたそうやって笑ってみせる。確実に私の気持ちは分かっているんだ。人の気持ちを知っているのに彼は私の気持ちを弄ぶ。それでも嫌いにすらなれない自分にも腹が立つ。
一筋の涙が頬を伝う。それに気付いた時には既に、涙腺が壊れていた。嗚咽などは一切無く、止めどなく溢れ出る涙に顔をぐしょぐしょに濡らした。
大好きな彼には悟られないように。いっそのことバレてしまえば楽なのだろうか。