1 転生者マリア
そう、わたしは知っている。
この世界が、わたしが前世で死ぬほどやり込んだ乙女ゲーム『聖なる乙女のロザリオ』の世界だってことを。そして王子の婚約者であるローゼンベルク公爵令嬢エレノアが、主人公であるわたしを苛めたと断罪され、婚約破棄される「悪役令嬢」だということも。
(正直、最初はちょっと警戒してたのよね)
ネット小説でよくあるじゃない? 悪役令嬢に転生したヒロインがフラグを折りまくって無双するみたいなパターン。
だからわたしは入学当初、エレノアの動向をそれこそ穴があくほど観察していたのだ。
……けど、結果は拍子抜け。
エレノアは転生者らしい挙動——たとえば前世の知識で新しいスイーツや美容品を開発したり、王子との婚約を自分から回避しようとしたり、急に平民に優しくなったりするような破滅フラグ回避行動を一切見せなかった。
相変わらず冷徹で完璧な公爵令嬢として振る舞い、王子の浮気にも関心を向けず、淡々と政務や学業をこなすだけ。
(ふん、ただの生真面目なゲームのNPCじゃない。転生者でも何でもないなら、容赦する必要なんてゼロよね!)
わたしはしがない男爵家の娘。普通に生きていれば、しがない貧乏貴族の男に嫁いで終わりだ。
だけどわたしには「ゲームの知識」がある。
実を言えば、ゲーム中でのエレノアのいじめは全部マリアや王子たちの自作自演の捏造、でっち上げだ。
階段から落ちたフリをして擦り傷を作り、自分でドレスに紅茶をぶっかけ、生徒会予算の横領は王子の予算流用をごまかすため。
ゲームの知識さえあれば、頭の軽い王子や筋肉バカの騎士令息、頭でっかちの眼鏡令息なんてコロッと落ちる。
彼らはわたしの涙ひとしずくで簡単に転がされ、わたしを健気で可憐なヒロインだと信じ込み、エレノアを意地悪な悪役令嬢だと勝手に決めつけてくれた。
完璧、完璧すぎるわ!
ストーリー通りに悪役令嬢を冤罪で陥れて婚約破棄にさえ追い込めれば、わたしには王子の婚約者という最高の地位が手に入る!
(さあ、わたしの幸せのために泣いてちょうだい、エレノア。 せめて罰が軽くなるよう、王子に頼んであげるから!)




