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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第92話 拡張された世界

 遠くで、光が生まれた。


 それは、小さかった。


 だが確かに。


 今までとは違う形で。


「……今の、見えたか?」


 レオンが呟く。


 丘に戻ったはずなのに、


 まだ感覚がずれている。


 風は吹いている。


 空は青い。


 だが。


 世界の“奥行き”が増えている。


 リリアが静かに頷く。


「はい」


 視線は遠く。


 丘の向こう。


 さらに先。


「……増えています」


 イリスも同じ方向を見る。


「……同時発生」


 短く言う。


 アルデリックがいない。


 だが、


 その代わりに。


 “わかる”。


 全員が。


 今、この瞬間に。


 あちこちで。


 光が生まれている。


 セレナが息を呑む。


「これ……全部、適性者?」


 リリアが答える。


「はい」


 迷いなく。


「そして」


 ほんの少しだけ、


 言葉を選ぶ。


「……繋がっています」


 その瞬間。


 レオンの胸が、わずかに震える。


 遠くの誰か。


 知らない誰か。


 だが。


 感覚だけが伝わる。


「……マジかよ」


 エルナが顔をしかめる。


「気持ち悪いわね」


 だが否定できない。


 これは。


 “広がった”。


 分散中心。


 その結果。


 全員が、


 薄く繋がる。


 レオンが拳を握る。


「……便利だけどさ」


 空を見る。


「最悪でもあるな」


 リリアは頷く。


「はい」


 その通りだった。


 中心がない。


 だから支配もない。


 だが同時に。


 責任も分散される。


 誰かが壊れれば、


 全体に影響する。


 イリスが言う。


「……安定性、低下」


「リスク増大」


 冷静な分析。


 だが事実だ。


 その時。


 また一つ。


 光が生まれる。


 今度は近い。


 丘の下。


 村の方。


「……来るぞ」


 レオンが言う。


 全員が視線を向ける。


 走ってくる人影。


 若い男。


 息を切らしながら、


 丘を駆け上がってくる。


「はぁ……っ、はぁ……っ!」


 必死だ。


 だが。


 その体から、


 微かに光が漏れている。


「……あれ」


 マナが呟く。


「初めて……」


 そう。


 今までここにいたのは、


 “集まった人間”。


 だが。


 今は違う。


 “生まれたばかり”。


 適性者。


 男が転びそうになりながら、


 丘の上へ来る。


「た、助けて……!」


 声が震えている。


 レオンがすぐに駆け寄る。


「落ち着け」


 肩を掴む。


 だが。


 その瞬間。


 レオンの体が、


 ビクリと揺れる。


「……っ!」


 流れ込んでくる。


 男の感覚。


 恐怖。


 混乱。


 そして。


 暴走しかけている光。


「やばい……!」


 レオンが叫ぶ。


「制御できてない!」


 イリスが即座に動く。


 手をかざす。


 集中。


 だが。


「……分散影響」


 完全に抑えきれない。


 リリアが一歩前に出る。


「……繋げます」


 男に手を触れる。


 その瞬間。


 光が、広がる。


 男の中の暴走が、


 分散される。


 レオンへ。


 イリスへ。


 リリアへ。


 そして。


 遠くの誰かへ。


「――ッ!」


 全員が同時に息を呑む。


 負荷が来る。


 だが。


 止まる。


 男の体から、


 暴走が消える。


「……はぁ……」


 男が崩れ落ちる。


 助かった。


 だが。


 レオンが息を荒げる。


「……今の」


 リリアが答える。


「分散です」


 静かに。


「一人では抱えきれないものを」


「全体で支える」


 その言葉に、


 全員が沈黙する。


 理解した。


 これが。


 新しい世界。


 セレナが呟く。


「……じゃあ」


「これからは」


 言葉が震える。


「ずっと、これを?」


 リリアは頷く。


「はい」


 短く。


 だが重い。


 エルナが笑う。


「最悪ね」


 だが。


 その目は、


 少しだけ柔らかかった。


 レオンが空を見上げる。


 青い空。


 だが。


 その奥に、


 無数の“点”がある。


 光。


 人。


 選ばれなかった全員。


 その全てが、


 今、繋がっている。


「……悪くねぇな」


 小さく言う。


 誰にも聞こえない声。


 だが。


 確かに思った。


 その時。


 リリアの目が、


 わずかに変わる。


「……まだです」


 低い声。


 全員が顔を上げる。


「どうした?」


 レオンが聞く。


 リリアは空を見る。


 いや。


 その奥。


 さらにその先。


「……来ます」


 その声は、


 今までで一番重かった。


 イリスが言う。


「……何が」


 リリアは答える。


「……外側です」


 沈黙。


 その意味は、


 すぐに理解できなかった。


 だが。


 次の瞬間。


 空が、


 わずかに“黒く”なった。

ここで「新しい世界のルール」が完全に提示されました。


分散=自由

同時に=責任


そして、まだ終わっていません。

今度は“世界の外側”が動きます。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白いと感じていただけたら、ぜひブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです。


次回、「外側の干渉」。

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