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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第79話 北から来た均衡

 空に走った線は、消えなかった。


 細いまま、そこに残っている。


 裂け目。


 だがまだ開いてはいない。


 丘の上の全員が、それを見上げていた。


 見えていないはずなのに、


 “そこにある”とわかる。


 胸の奥の光が、


 そこを指している。


「……近い」


 セレナが小さく言う。


 リリアは動かない。


 ただ、その線を見ている。


 次の瞬間。


 空気が変わった。


 重さではない。


 “整った圧”だった。


 今までの歪みとは違う。


 無理やり引き寄せる力ではない。


 静かに、正確に、


 配置を決めるような圧。


「……なんだよ、これ」


 レオンが息を呑む。


 胸の光が、暴れない。


 むしろ、


 勝手に整えられていく。


 エルナが低く言う。


「気持ち悪いわね」


 嫌悪の声。


 理由ははっきりしている。


 これは“制御されている感覚”だ。


 自分の意思ではない。


 だが、暴走もしていない。


 アルデリックの目が細くなる。


「……完成度が高い」


 分析の声。


 丘の空気が静まり返る。


 その中心に、


 何かが現れる。


 空の裂け目が、音もなく開いた。


 細く。


 正確に。


 そこから、一人の少女が降りてくる。


 音はない。


 衝撃もない。


 ただ、そこに“置かれた”。


 白銀の髪。


 青灰色の瞳。


 感情のない顔。


 北方の外套。


 全員が言葉を失う。


 共鳴が違う。


 強い。


 だが暴れていない。


 完全に整っている。


 少女は周囲を一瞥した。


 数を数えるように。


 そして言う。


「……十七」


 丘の人数。


 正確だった。


 アルデリックが一歩前に出る。


「北方連邦」


 確認の声。


 少女は頷かない。


 否定もしない。


 ただ言う。


「イリス」


 名前だけ。


 それで十分だった。


 レオンの胸が強く脈打つ。


「……お前か」


 北の光。


 感じていた存在。


 イリスは視線を向ける。


「あなたが局所的な収束点」


 淡々とした評価。


 人ではなく、


 現象として見ている。


 レオンが顔をしかめる。


「なんだよそれ」


「事実」


 短い。


 感情がない。


 エルナがため息をつく。


「感じ悪いわね」


 イリスは反応しない。


 リリアを見る。


 ほんの一瞬。


 その視線だけが変わる。


「……あなたが調整者」


 肯定でも否定でもない。


 ただ認識。


 リリアは答える。


「はい」


 それだけ。


 沈黙が落ちる。


 丘の上の空気が、張り詰める。


 イリスが言う。


「非効率」


 その一言で、


 空気が変わる。


 レオンが反応する。


「は?」


「分散」


「共有」


「遅延」


 言葉を並べる。


「全て不安定」


 セレナが一歩前に出る。


「それでも崩壊よりは」


「違う」


 即座に否定。


 イリスは空を見る。


「崩壊は起きる」


 断言。


「時間の問題」


 アルデリックが静かに頷く。


 同意している。


 レオンが叫ぶ。


「じゃあどうするんだよ!」


 イリスは彼を見る。


「中心を作る」


 当然のように言う。


 その瞬間、


 丘の光が一斉に反応した。


 引力。


 だが先ほどとは違う。


 より強く、


 より正確に。


 全員が息を呑む。


 光が、


 イリスへ向かう。


「……っ!」


 マナが膝をつく。


 ルークも耐える。


 制御されている。


 だが強い。


 レオンが歯を食いしばる。


「やめろ!」


 叫ぶ。


 だが止まらない。


 その時。


 リリアが一歩前に出た。


 風が止まる。


 光の流れが、揺れる。


 イリスの視線が向く。


「……干渉」


「はい」


 リリアは言う。


「均衡を保ちます」


 その瞬間。


 流れが変わった。


 一方向だった光が、


 分散する。


 イリスの引力が弱まる。


 完全には止まらない。


 だが崩れる。


 丘の上の全員が息をつく。


「……戻った」


 エルナが小さく笑う。


「面白いわね」


 イリスの目がわずかに細くなる。


 初めての変化。


「……干渉可能」


 低く言う。


 そして一歩、前へ。


 リリアと、対峙する。


 距離は数歩。


 だがその間に、


 世界の均衡がかかっている。


「提案」


 イリスが言う。


「中心を決める」


 丘の空気が凍る。


 レオンが息を呑む。


「は……?」


 イリスは続ける。


「このままでは崩壊する」


「だから選ぶ」


 視線が、


 リリアとレオンを順に捉える。


「最も安定する個体を」


 風が止まる。


 空の裂け目が、


 ゆっくりと広がる。


 世界が、


 見ている。


 選択を。


 リリアは静かに答える。


「……拒否します」


 イリスの目がわずかに揺れる。


 初めての予想外。


 レオンが横で呟く。


「……俺もだ」


 短い言葉。


 だが重い。


 イリスは数秒、沈黙する。


 そして言う。


「なら」


 空を見る。


「世界が選ぶ」


 その瞬間。


 裂け目が、


 大きく開いた。

ついにイリス登場、そしてリリアとの正面衝突が始まりました。


ここからは完全に“思想と世界の衝突”に入ります。

次話では、世界そのものが選びに来ます。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回、「世界の選択」。

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