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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第78話 均衡の証明

 光が、流れた。


 丘の上にいた全員が、同時に息を呑む。


 胸の奥にあった震えが、一方向へと引かれる。


 リリア。


 その一点へ。


「……っ」


 レオンが思わず一歩踏み出す。


 止めるべきか。


 だが体が動かない。


 光は彼女に向かっているのに、


 不思議と恐怖はなかった。


 むしろ、


 整っていく。


 ばらばらだった呼吸が、


 一つに揃うように。


 リリアは目を閉じた。


 手は動かさない。


 言葉もない。


 ただ、立っている。


 その存在だけで、


 流れが変わる。


 アルデリックがわずかに眉を動かす。


「……制御か」


 観察する目。


 評価ではなく、分析。


 丘の空気が静まる。


 先ほどまでのざわつきが嘘のように、


 共鳴が落ち着いていく。


 マナが小さく声を漏らす。


「……軽い」


 ルークも頷く。


「さっきより……楽だ」


 エルナが目を細める。


「……吸ってるわけじゃない」


 その通りだった。


 光は消えていない。


 奪われてもいない。


 ただ、


 位置が整っている。


 リリアの周囲で、


 均等に分布している。


 セレナが呟く。


「……再配分」


 リリアはゆっくり目を開ける。


 空を見る。


 歪みは、弱まっていた。


「一時的ですが」


 静かに言う。


「安定しています」


 沈黙。


 丘の上の全員が、


 その事実を感じていた。


 崩れない。


 引かれない。


 均衡が保たれている。


 アルデリックが一歩進む。


「興味深い」


 感情のない声。


「中心化ではない」


「はい」


 リリアは答える。


「強制収束ではありません」


 彼は腕を組む。


「だが不完全だ」


 即断。


「持続しない」


 リリアは否定しない。


「長時間は無理です」


「ならば同じだ」


 冷たい結論。


「遅延に過ぎない」


 レオンが反発する。


「でも今は止まってるだろ!」


 アルデリックは視線を向ける。


「“今は”だ」


 言葉を切る。


「問題は未来だ」


 沈黙。


 正しい。


 だがそれだけでは足りない。


 セレナが言う。


「時間を稼げるなら」


「価値はある」


 アルデリックは少しだけ考える。


 丘の空気。


 共鳴の安定。


 リリアの存在。


 そして。


 世界の動き。


「……条件付きで認める」


 全員が顔を上げる。


「この状態を維持できるなら」


 彼は静かに言う。


「即時拘束は見送る」


 ざわめき。


 エルナが小さく笑う。


「ずいぶん譲歩したわね」


「観測価値がある」


 アルデリックは即答する。


 レオンは息を吐く。


「……助かった」


 だが。


 リリアは空を見ていた。


 まだ終わっていない。


 遠く。


 北。


 強い共鳴が、こちらを見ている。


「……来ます」


 小さく言う。


 エルナが顔を上げる。


「また?」


「違います」


 リリアの声がわずかに変わる。


「これは」


 言葉を選ぶ。


「近づいています」


 空が、ほんのわずかに歪む。


 今までよりも、


 はっきりと。


 レオンの胸が強く脈打つ。


「……なんだよ」


 セレナも感じていた。


 強い。


 そして安定している。


 アルデリックの目が細くなる。


「……もう一つの候補か」


 リリアは頷く。


「はい」


 短い答え。


 丘の上の空気が変わる。


 先ほどまでの安定が、


 一瞬で緊張へと変わる。


 レオンは空を睨む。


 見えない。


 だがわかる。


 来る。


 北の光。


 そして。


 その中心。


 リリアは静かに言う。


「……間に合いません」


 その言葉と同時に、


 空に、


 細い線が走った。

ここから一気に“対立の本番”に入ります。


リリア vs イリス、ついに接触直前です。

次話はシリーズの中でもかなり重要な回になります。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるととても嬉しいです。


次回、「北の到来」。

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