第76話 王都の決断
王都の空は曇っていた。
冬の終わりに近い冷たい風が、石の街路を吹き抜けている。
聖堂の会議室では、重い沈黙が続いていた。
机の中央には、三つの報告書。
一つ目。
西の都市レヴァルトの裂け目事件。
二つ目。
北方共鳴の発現。
三つ目。
炭鉱町の丘に集まる未登録適性者。
神官たちは顔を上げない。
誰もが理解していた。
これは偶然ではない。
拡散だ。
「……世界が動いている」
老神官が低く言う。
その声を遮ったのは、扉の音だった。
重い扉が開く。
黒い外套の男が入ってくる。
長身。
鋭い眼差し。
神官ではない。
軍人でもない。
その中間のような存在。
男は机の前に立つ。
「遅れて失礼しました」
声は落ち着いている。
「聖性管理局長、アルデリックです」
室内の空気が変わる。
新設された組織。
そしてその長。
彼は机の上の報告書を一瞥する。
「……拡散は予想以上です」
誰も否定しない。
アルデリックは続ける。
「聖堂は長く聖性を独占してきました」
「それが秩序だった」
老神官が言う。
「ですが」
アルデリックの声は静かだった。
「秩序は崩れ始めています」
彼は一枚の紙を広げる。
地図だった。
南。
西。
北。
三つの印。
「裂け目」
指が西を指す。
「強共鳴」
指が北を指す。
「未登録集団」
最後に丘の位置。
神官の一人が言う。
「炭鉱町の話は誇張だ」
「いいえ」
アルデリックは首を振る。
「現地報告があります」
彼の指が地図を叩く。
「適性者十六名」
沈黙。
「そして増加中」
それは危険な数字だった。
共鳴は近くに集まるほど濃くなる。
老神官が言う。
「ならば散らせばいい」
「遅い」
アルデリックは即答する。
その言葉は冷たい。
「世界はすでに収束を試しています」
西の裂け目。
それが証拠だ。
神官の一人が聞く。
「ではどうする」
アルデリックは答える。
「中心を作ります」
空気が凍る。
「世界に任せるのではなく」
彼は静かに言う。
「人間が選ぶ」
老神官が睨む。
「傲慢だ」
「現実です」
アルデリックの声は揺れない。
「中心がない場合」
彼は窓の外を見る。
曇った空。
「収束は暴走します」
誰も反論できない。
西の都市が証明している。
彼は机に手を置いた。
「聖性管理局は決定しました」
短く言う。
「未登録適性者の確保」
そして。
指が丘の位置を指す。
「炭鉱町の集団を拘束します」
室内がざわつく。
老神官が言う。
「聖女が関わっている」
セレナのことだ。
アルデリックは表情を変えない。
「それでも」
短い沈黙。
そして彼は言う。
「世界の均衡が優先です」
窓の外で風が吹く。
遠く離れた炭鉱町では、
まだ誰も知らない。
王都が、
丘の光を
捕まえに来ることを。
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