第75話 傾く光
北からの共鳴は、すぐには消えなかった。
波のように、ゆっくりと丘へ届く。
胸の奥の光が、それに応じる。
集まっていた者たちが顔をしかめる。
「……強い」
ルークが呟く。
マナは両腕を抱えた。
「胸が……引っ張られる」
エルナが空を睨む。
「ほんと露骨ね」
リリアは目を閉じていた。
共鳴の流れを感じている。
北の光は、明らかに強い。
だがそれだけではない。
質が違う。
整っている。
「……訓練されています」
セレナが息を整える。
「誰かが教えている?」
「可能性は高いです」
リリアは答える。
北方連邦。
あの商人。
観測者。
そして、その背後にいる存在。
丘の上の光たちは、不安そうに空を見る。
見えない。
だが感じる。
強い中心候補が現れた。
レオンは歯を食いしばる。
「……なんだよ」
胸の奥が揺れる。
まるで北の光に呼ばれているようだ。
「俺たちを集めるつもりか」
エルナが肩をすくめる。
「世界がね」
それは否定できない。
共鳴は引き寄せる。
強い光ほど、周囲を集める。
レオンの胸の光が、少しだけ強くなる。
周囲の光も揺れる。
丘の上の十六人が、同時に息を呑んだ。
「……っ」
ほんの一瞬。
だが確かに。
光がレオンへ傾いた。
リリアが静かに言う。
「落ち着いてください」
レオンは深く息を吸う。
呼吸。
胸の震え。
それを押さえ込むのではなく、
整える。
数秒後、
光は元の弱さに戻った。
周囲の人々が安堵する。
「びっくりした……」
トビアスが座り込む。
セレナがレオンを見る。
「今のは」
「……わかんない」
レオンは正直に言う。
ただ。
ほんの一瞬、
周囲の光が自分へ寄った。
それだけは確かだった。
リリアは空を見上げる。
北の共鳴。
丘の共鳴。
そして世界の均衡。
「……競合しています」
小さく言う。
「え?」
レオンが振り向く。
「中心候補が複数ある」
つまり。
世界はまだ決めていない。
どこが最も安定するか。
北の強い光か。
丘の集まりか。
あるいは、
別の場所か。
エルナが笑う。
「選挙みたいね」
「笑えません」
セレナが苦く言う。
もし世界が決めれば、
そこへ力が集中する。
集中しすぎれば、
世界は耐えられない。
レオンは空を見る。
見えない裂け目。
見えない引力。
だが確実に近づいている。
「……リリア」
「はい」
「もしさ」
少し迷ってから言う。
「俺が中心になったら」
沈黙。
丘の風が強くなる。
リリアはしばらく考え、
静かに答えた。
「その時は」
空を見る。
「私が止めます」
レオンが目を瞬く。
「止める?」
「はい」
彼女の声は穏やかだった。
「世界を壊させないために」
それは脅しではない。
ただの事実。
レオンはしばらく黙り、
やがて小さく笑った。
「……怖いな」
エルナが吹き出す。
「今さら?」
丘の上の光はまだ弱い。
だが確実に増えている。
北の光も強くなっている。
世界はまだ決めていない。
だが。
均衡の引力は、
ゆっくりと、
確実に、
中心を選び始めていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




