第73話 北の光
北の空に走った光は、ほんの一瞬だった。
だが丘にいた者たちは全員、同時に胸を押さえていた。
共鳴。
遠くから伝わる波。
「……強い」
セレナが小さく言う。
リリアは目を閉じていた。
波の形を感じている。
「暴走ではありません」
「え?」
レオンが聞く。
「制御されています」
丘の上に静かな驚きが広がる。
エルナが眉を上げる。
「誰か教えたの?」
「いえ」
リリアはゆっくり目を開ける。
「自然に掴んでいます」
それは珍しい。
だが、あり得ないことではない。
共鳴の質が高ければ、
直感的に制御する者もいる。
セレナが空を見る。
「北……」
北方連邦の方向。
その名を口にする者はいない。
だが全員、同じことを思う。
レオンが言う。
「……敵?」
エルナが笑う。
「まだ決めつけない」
リリアは静かに言う。
「共鳴は国境を知りません」
それが問題でもあった。
光は人を選ばない。
王国も、
連邦も、
関係ない。
丘の上の十五人は、少し不安そうに顔を見合わせる。
「……増えてるんですよね」
マナが小さく言う。
「はい」
リリアは答える。
「世界全体で」
それは誰も止められない。
南。
西。
北。
今や三方向で発動している。
レオンは草を踏みしめる。
「……じゃあさ」
みんなを見る。
「俺たちだけじゃない」
当然だ。
だがその言葉は重い。
「他にも集まってるかもしれない」
エルナが頷く。
「多分ね」
「それって」
レオンは空を見上げる。
「もっと危ない?」
リリアは正直に答える。
「可能性はあります」
共鳴は近くで増えるほど濃くなる。
だが遠くでも増えれば、
世界全体の位相が上がる。
つまり。
どこにいても安全ではない。
丘に風が吹く。
沈黙の中で、
小さな声がした。
「……でも」
少女だった。
丘に最初に来た女性の妹。
まだ十歳くらい。
「光、怖いだけじゃない」
全員が彼女を見る。
少女は少し恥ずかしそうに言う。
「昨日、手が暖かかった」
小さな光が指先に浮かぶ。
弱い。
ほとんど消えかけている。
だが優しい。
エルナがふっと笑う。
「……そりゃそうよ」
光は暴走もする。
だがそれだけではない。
リリアは少女を見て言う。
「怖いものではありません」
それが彼女の本心だった。
だが。
同時に。
空の奥で、歪みがまた少し強くなる。
世界はまだ、
試している。
どこに中心を作るか。
そして丘の上の光たちは、
まだ知らない。
その候補の一つに、
すでにこの場所が
入っていることを。
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