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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第70話 裂け目の都市

 西の都市レヴァルトは、石壁の高い街だった。


 交易路の交差点にあり、兵も多い。


 だから最初、誰も異変を信じなかった。


「空が裂けた?」


「あり得ない」


 城門の兵士は笑った。


 だが、その笑いはすぐ消えた。


 空の中央に、細い線が浮かんでいた。


 雲でもない。


 光でもない。


 まるで、空そのものが裂けた傷。


 そしてその下で、


 一人の少年が立っていた。


 名はカイル。


 農家の息子。


 数日前から光が出るようになった。


 それだけだった。


 だが今日は違う。


 胸の奥が、強く引かれている。


 呼ばれている。


「……やめて」


 誰に言うでもない。


 だが光は強くなる。


 空の裂け目が広がる。


 街の人々が逃げ始める。


「離れろ!」


「共鳴だ!」


 聖堂の兵が叫ぶ。


 だが遅い。


 裂け目が一瞬だけ開く。


 そこから白い光が降る。


 音はない。


 ただ、


 空間が歪む。


 建物の影がずれる。


 時間が半拍遅れる。


 そして。


 カイルの体が浮いた。


 光が彼に集中する。


 強制収束。


 世界が中心を作ろうとする。


「……っ!」


 少年の叫び。


 だが次の瞬間。


 光が弾けた。


 中心が不安定だった。


 収束が崩れる。


 衝撃が街に広がる。


 石畳がひび割れ、


 市場の屋台が吹き飛ぶ。


 人々が倒れる。


 だが今回は、消失はない。


 まだ弱い。


 裂け目はゆっくり閉じた。


 空は元に戻る。


 だが街は沈黙していた。


 人々が呟く。


「……見たか」


「空が……」


 カイルは地面に倒れている。


 意識はある。


 だが動けない。


 聖堂の兵が駆け寄る。


「確保しろ!」


 今度は早い。


 拘束具が用意される。


 少年は抵抗できない。


 胸の光は弱くなっている。


 だが消えてはいない。


 一方その頃。


 炭鉱町の丘。


 リリアが目を閉じていた。


「……西です」


 レオンが顔を上げる。


「裂けた?」


「はい」


 セレナも頷く。


「位相収束の試行」


 世界が、中心を作ろうとした。


 だが失敗した。


 エルナが息を吐く。


「まだ弱いってことね」


「ええ」


 リリアは空を見る。


「ですが」


 視線が遠くへ向く。


「回数は増えます」


 レオンの胸がざわつく。


 西の少年。


 知らない顔。


 だが同じ光。


「……俺たちと同じ」


「はい」


 リリアは言う。


「だからこそ」


 少しだけ間を置く。


「時間がありません」


 丘の上の風が強くなる。


 世界は、


 試している。


 どこに中心を作るか。


 誰を選ぶか。


 その試行が、


 今、


 始まったばかりだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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