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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第69話 拡散の足音

 南の発動から二日。


 王都には、すでに三つの報告が届いていた。


 南方都市リュシエルの余震。

 西部農村での微弱共鳴。

 北街道の巡礼者による光の発現。


 すべて未登録。


 すべて制御なし。


 聖堂の会議室では、空気が重かった。


「……また増えた」


 神官の一人が呟く。


 机の上には報告書が並ぶ。


 数はまだ少ない。


 だが問題は数ではない。


 速度だ。


「二週間前は三件」


「今は十七件」


 誰も声を出さない。


 増え方が異常だった。


 クラウスは羊皮紙を見つめていた。


(拡散が加速している)


 丘の集まり。


 南の惨事。


 噂。


 人の希望。


 すべてが混ざり合っている。


「……止める方法は」


 若い神官が聞く。


 沈黙。


 老神官が低く言う。


「ある」


 全員が顔を上げる。


「唯一へ戻す」


 空気がさらに重くなる。


「すべての共鳴を一箇所へ集める」


 つまり。


 中心を作る。


 強制的に。


 その瞬間、クラウスが言う。


「それは最後の手段です」


「もう最後だ」


 老神官は答える。


 沈黙が落ちる。


 一方。


 炭鉱町の丘では、


 レオンが空を見ていた。


 歪みは、少し強くなっている。


 目には見えない。


 だが胸が知っている。


 何かが引き寄せている。


「……リリア」


「はい」


「もし中心ができたら」


 言葉を選ぶ。


「どうなる」


 リリアは少し考えた。


「力が集中します」


「それで終わる?」


「いいえ」


 彼女は静かに言う。


「集中しすぎれば」


 空を見る。


「世界が耐えられません」


 エルナが眉を上げる。


「つまり」


「崩れます」


 丘の空気が冷える。


 レオンの喉が乾く。


「……じゃあ」


「はい」


 リリアは答える。


「中心は危険です」


 だが。


 セレナが静かに言う。


「中心がないと、もっと危険」


 矛盾。


 それが現実だった。


 レオンは空を見上げる。


 歪み。


 引力。


 増え続ける光。


 そのとき。


 丘の下から馬の音がした。


 早い。


 急いでいる。


 伝令だ。


 男が丘を駆け上がる。


「報告!」


 息を切らしている。


「西の都市で――」


 言葉を飲み込む。


「裂け目が」


 全員の表情が変わる。


「空が裂けました」


 沈黙。


 ついに。


 現象が、


 目に見える形で始まった。


 リリアは空を見る。


 まだここでは見えない。


 だが遠くで、


 確実に世界が歪んでいる。


 均衡は崩れ、


 収束が近づく。


 そしてその中心は、


 まだ決まっていない。


 だが世界は、


 確実に誰かを選ぼうとしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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