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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第68話 裂け目の下で

 丘の上の集まりは、その日のうちに解散した。


 誰もが急ぎ足で町へ戻り、

 ある者は家へ、

 ある者は村へ帰っていく。


 共鳴はまだ弱い。


 だが、胸の奥の重さは消えない。


 レオンは最後まで丘に残っていた。


 風が強い。


 空は澄んでいる。


 それなのに、どこか歪んでいるように感じる。


「……ほんとに解散でよかったのかな」


 ぽつりと呟く。


 エルナが岩に腰掛けながら答える。


「正解はないわ」


「え」


「世界が初めての状況なんだから」


 それは慰めではない。


 ただの事実だ。


 リリアは少し離れた場所で空を見ていた。


 彼女の表情は変わらない。


 だが集中している。


「……まだ続いています」


「歪み?」


 セレナが聞く。


「ええ」


 リリアはゆっくり頷く。


「弱いですが」


 空の奥。


 ほんのわずかに光がねじれる。


 人には見えない。


 だが聖性を持つ者には感じる。


 胸の奥の引力。


 レオンは拳を握る。


「……引っ張られてる」


 小さく言う。


 セレナも同じ感覚を持っていた。


「これは」


「位相収束の前段階です」


 リリアが答える。


 その言葉に、丘の空気が重くなる。


 エルナが息を吐く。


「つまり?」


「このまま適性者が増えれば」


 リリアは空を見上げる。


「世界は中心を作ろうとします」


 レオンは黙る。


 中心。


 その言葉の意味は、もうわかる。


 沈黙の中、


 丘の下から町の音が聞こえる。


 市場の声。

 鍛冶の音。

 普通の生活。


 世界はまだ平和だ。


 だがその平和は、


 均衡の上にある。


 そのとき。


 遠く南の空で、光が瞬いた。


 ほんの一瞬。


 だが確実に。


 リリアの目が細くなる。


「……また発動しました」


 セレナが顔を上げる。


「南?」


「はい」


 今度は死亡ではない。


 だが強い。


 共鳴の波が、丘まで届く。


 レオンの胸が震える。


 それは恐怖ではない。


 反応。


 胸の奥の光が、呼ばれている。


「……くそ」


 思わず呟く。


 エルナが笑う。


「始まったわね」


「何が」


「本格的な拡散」


 彼女は空を指す。


「もう止まらない」


 確かにそうだった。


 丘の小さな集まり。


 南の発動。


 北方の観測者。


 王都の政治。


 すべてが動き始めている。


 リリアは静かに言う。


「次の段階です」


 誰に向けた言葉でもない。


 世界に向けた言葉。


 そしてレオンは理解する。


 これはもう、


 一つの町の話ではない。


 世界が、


 均衡を取り戻そうとしている。


 その裂け目の下で、


 人はどう生きるのか。


 それを決める物語が、


 今、


 本格的に始まろうとしていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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