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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第63話 止まった刃

 丘の上に、沈黙が落ちていた。


 兵の列。

 少年。

 二人の聖性。

 夜風。


 誰も動かない。


 最初に口を開いたのは、指揮官だった。


「……聖女様」


 わずかに頭を下げる。


「この命令は、聖堂高位会議からのものです」


「正式議決ではありません」


 セレナの声は静かだが、迷いがない。


「私は停止命令を出しています」


 兵たちが顔を見合わせる。


 秩序は階層で動く。


 だが今回は、その階層がぶつかっている。


 指揮官は数秒考え、ゆっくり言う。


「……確認を取ります」


 兵の一人が丘を下る。


 松明の列がわずかに揺れる。


 エルナが小声で言う。


「時間稼ぎね」


「ええ」


 リリアは頷く。


 だがその時間は重要だった。


 レオンはセレナを見る。


「……なんで来た」


 セレナは、まっすぐ答える。


「あなたを守るためではありません」


 少しだけ、レオンの表情が固まる。


「秩序を守るためです」


 予想外の答え。


「恐怖で人を拘束する秩序は、長く続きません」


 彼女は続ける。


「だから止めました」


 それは優しさではない。


 理念だ。


 レオンはしばらく黙っていた。


「……俺はどうなる」


 素直な問い。


 セレナは少し考えた。


「あなたは、学ぶ必要があります」


「王都で?」


「いいえ」


 その答えに、兵の一部がざわつく。


「ここでも学べます」


 リリアを一瞬見る。


「導く人がいるなら」


 リリアは静かに首を振る。


「私は導きません」


 セレナが目を細める。


「見守るだけです」


「それでも十分です」


 二人の視線が交わる。


 思想は似ているが、立場が違う。


 少し離れた場所で、エルナが空を見上げる。


「……来るわね」


 誰に言うでもなく呟く。


 南の空が、わずかに歪んでいる。


 まだ遠い。


 だが、確実に増えている。


 共鳴。


 拡散。


 丘の下から、兵が戻ってくる。


「指揮官!」


 息を切らしている。


「確認が取れました」


 全員の視線が集まる。


 兵は続ける。


「……撤収命令です」


 小さなどよめき。


 指揮官は短く息を吐く。


「了解した」


 彼はレオンを見る。


「今回は退く」


 だがその目は冷たい。


「次は、わからない」


 兵の列が丘を下り始める。


 松明の光が遠ざかる。


 緊張が、ようやくほどけた。


 レオンは座り込む。


「……疲れた」


 エルナが笑う。


「当たり前よ」


 セレナは夜空を見上げる。


 遠い南。


 薄い歪みが残っている。


「始まっています」


 彼女が言う。


 リリアも同じ方向を見る。


「ええ」


 閾値。


 拡散。


 世界の収束。


 これはまだ序章だ。


 レオンは、二人の視線を追う。


 南の空。


 見えない亀裂。


 彼は初めて理解する。


 これは町の問題ではない。


 世界の問題だ。


 そしてその中心に、


 いつか自分が立つ可能性もある。


 夜風が強くなる。


 拡散した聖性は、


 もう止まらない。


 だが誰もまだ、


 その終点を知らなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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