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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第61話 秩序の刃

 王都の夜は、静かだった。


 だが聖堂の一角だけは違う。


 石の廊下に灯された燭台が揺れ、

 低い声がいくつも交わされている。


「……これ以上は放置できない」


 保守派の神官が言う。


「南の惨事を見ただろう」


 机の上に広げられた報告書。

 白く抜け落ちた記録部分。


「存在欠落……」


 若い神官が呟く。


「こんな現象、歴史でも数例しか」


「だからだ」


 年長の神官が言葉を遮る。


「拡散は危険だ」


 沈黙が落ちる。


 やがて、誰かが口を開いた。


「……処理するべきだ」


 誰の名前も出ない。


 だが皆、理解している。


 未登録適性者。


 管理不能の存在。


「事故として」


「静かに」


 秩序を守るための刃。


 会議室の隅で、クラウスが目を閉じる。


(ここまで来たか)


 政治は、必ず極端に振れる。


 だがそれは、最悪の一歩だ。


「反対します」


 静かな声。


 全員の視線が向く。


「すでに共鳴は拡散している」


 クラウスは続ける。


「一人を消しても止まらない」


「だが恐怖は抑止になる」


「短期的には」


 言葉がぶつかる。


 老神官が低く言う。


「ではどうする」


 クラウスは、ゆっくり答える。


「制度を変える」


 それは危険な言葉だった。


「唯一を前提とした秩序は、もう維持できない」


 誰も反論できない。


 だが、受け入れることもできない。


 同じ頃。


 炭鉱町の丘。


 レオンは、眠れずにいた。


 南の惨事の話が頭から離れない。


 知らない少女。


 知らない街。


 それでも胸が重い。


「……分散は危険」


 リリアの言葉が残る。


「でも……」


 拳を握る。


「だから独占に戻る?」


 それは違う。


 あの神官の言葉を思い出す。


 国家資源。


 管理。


 あれは違う。


 夜風が吹く。


 リリアは少し離れた岩に座っている。


「眠れませんか」


 穏やかな声。


「……うん」


 レオンは正直に答える。


「人が死んだ」


「ええ」


「理想のせいで」


 沈黙。


 しばらくして、リリアが言う。


「理想のせいではありません」


「じゃあ何だよ」


「未熟さです」


 少年は顔を上げる。


「力の未熟さ」


「制度の未熟さ」


「理解の未熟さ」


 そして。


「世界の理解も、まだ足りない」


 レオンは、しばらく考える。


「……俺、逃げてたのかな」


「何から」


「責任」


 分散と言えば、軽くなると思った。


 だが現実は違う。


 責任は消えない。


 夜空を見上げる。


 星が冷たい。


「俺、逃げない」


 ぽつりと言う。


「逃げないで考える」


 リリアは何も言わない。


 ただ、その言葉を聞いている。


 少し離れた場所で、エルナが小さく笑う。


「成長早いわね」


「痛みがあると、人は早いです」


 リリアの声は静かだ。


 そのとき。


 丘の下の道に、松明の光が現れた。


 複数。


 夜の訪問者。


 エルナの目が鋭くなる。


「……王都の匂い」


 護衛の動き。


 兵の足音。


 秩序の刃が、


 静かに町へ近づいていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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