第58話 揺れる選択
丘の上の沈黙は、長くは続かなかった。
北方の男は、焦らない。
「すぐに答えを出す必要はない」
柔らかい声。
「だが、王都は待たない」
それは事実だ。
レオンは唇を噛む。
王都は管理。
北は自由。
そう見える。
「……もし行ったら」
少年の問い。
「俺は、どうなる」
男は一歩近づく。
「学べる」
「何を」
「自分の力を」
甘い響き。
リリアは、黙っている。
止めない。
選ばせる。
だが、視線は逸らさない。
レオンは、彼女を見る。
「……あんたは?」
「私は、どこへも連れていきません」
即答。
「あなたが立つ場所は、あなたが決めるものです」
それは責任の所在を、少年に戻す言葉。
重い。
北方の男は、微笑む。
「理想的だ」
だが理想は、力を持たない者には残酷だ。
その時。
町の方角から、悲鳴が上がった。
地面が、低く震える。
エルナが顔を上げる。
「今度は何?」
リリアの表情が変わる。
「別の点が、発動しています」
「この町?」
「いいえ」
遠い。
もっと南。
強い。
空気が、わずかに裂ける音。
丘の上でも感じるほどの共鳴。
レオンの胸が、ざわつく。
「……俺じゃない」
「ええ」
リリアは言う。
「あなたではありません」
北方の男の目が、細くなる。
「ほう」
新たな適性者。
しかも強度が高い。
価値は、上だ。
丘の上の均衡が、崩れる。
男は、静かに言う。
「我々は、そちらにも興味がある」
商人の仮面が、少し剥がれる。
レオンは、その変化を見逃さない。
自由ではない。
選別だ。
より強い方へ。
自分は、代替可能。
胸の奥で、何かが冷える。
「……俺は」
言葉を探す。
リリアは、待つ。
強制しない。
その姿勢が、逆に重い。
南の空が、わずかに赤く染まる。
遠方で、光が立ち上る。
死亡級の気配。
世界が、確実に段階を上げた。
北方の男は、判断する。
「今回は退く」
静かに一礼する。
「だが、話は終わっていない」
一団は丘を下る。
レオンは、去っていく背中を見つめる。
甘い提案は、消えた。
代わりに残ったのは、違和感。
「……俺、利用されるところだった?」
小さな問い。
リリアは、正面から答える。
「可能性はありました」
嘘はつかない。
少年は、拳を開く。
怒りは、まだある。
だが、方向が変わり始めている。
南の光が、さらに強まる。
エルナが低く言う。
「悠長にやってる場合じゃないわよ」
「ええ」
リリアは頷く。
「段階が上がりました」
未熟な光の選択は、保留。
だが世界は待たない。
拡散は、加速へ入った。
遠く南で、
誰かの共鳴が、
制御を失いかけている。
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