第56話 歪んだ善意
炭鉱町の騒動から三日後。
王都、聖堂内部。
「強制管理の一時停止など、前例がありません」
保守派の神官が声を荒げる。
「前例は、今作ると申し上げました」
セレナは、正面から受け止める。
「未熟な適性者を恐怖で縛れば、反発が強まります」
「理想論です」
「現実論です」
静かな衝突。
クラウスは、部屋の端で観察している。
(制度は揺れ始めた)
だが揺れは、必ず反動を生む。
「聖女様は、あの外套の女に影響されている」
低い声。
名指しはしない。
だが誰を指すかは明らかだ。
セレナは、一瞬だけ沈黙する。
「私は、自分で判断しています」
それが真実だと、彼女は知っている。
だが疑念は残る。
一方、炭鉱町。
レオンは、丘の上にいた。
町は落ち着きを取り戻しつつある。
だが、視線は変わらない。
「聖女候補」
「奇跡の少年」
囁きが増える。
リリアは、町外れで座っていた。
介入は最小限。
見守るだけ。
レオンが近づく。
「……あんた」
「通りすがりです」
「もういいよ、それ」
少しだけ笑う。
だが目は真剣だ。
「みんなが持てばいいって、俺思ったんだ」
リリアは黙って聞く。
「一人が背負うから、重いんだろ?」
「ええ」
「ならさ」
少年の声が、強くなる。
「王都が独占してるの、壊せばいい」
エルナが、ぴくりと眉を動かす。
「独占?」
「聖堂が管理してるから、歪むんだ」
怒りは、正義と混ざると危うい。
「みんなに配れば、平等だ」
リリアは、ゆっくりと立ち上がる。
「配るとは?」
「隠してる記録とか、全部暴けばいい」
少年の目は燃えている。
理想。
だが未熟。
「独占を壊せば、自由になる」
その瞬間、リリアの胸に微かな痛みが走る。
(……誤読)
彼は分散を、破壊と同義にしている。
「壊せば、均衡は崩れます」
「崩れた方がマシだ!」
叫びに近い。
足元の砂が、震える。
小さな共鳴。
怒りが増幅する。
エルナが前に出る。
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
「俺は落ち着いてる!」
だが空気は揺れている。
未熟な光は、感情に直結する。
リリアは、静かに言う。
「独占は、問題です」
少年の目がわずかに揺らぐ。
「でも、崩壊は解決ではありません」
「じゃあどうするんだよ」
問いは、純粋だ。
リリアは答える。
「広げる」
「壊さずに?」
「はい」
レオンは、理解しきれない顔をする。
壊すのは簡単だ。
怒りに任せればいい。
だが広げるには、時間がかかる。
そのとき、町の入り口で騒ぎが起きた。
見知らぬ一団。
商人を装っているが、動きが違う。
エルナが低く呟く。
「王都の匂いじゃないわね」
リリアは視線を向ける。
違う。
外。
他国。
拡散は、国境を越え始めている。
少年はまだ知らない。
彼の理想が、
誰かの思惑に利用されようとしていることを。
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