第54話 立たされる者
強制同行の通達は、即日だった。
「明朝、出立する」
神官の声は、決定事項として広場に落ちた。
拒否は反逆。
従えば保護。
選択肢の形をしているが、実質は一つ。
レオンは、黙っていた。
父が肩を掴む。
「行くな」
低く、震える声。
「俺は……」
言葉が続かない。
町の人々が見ている。
期待。
羨望。
恐れ。
昨日まで同じ土を踏んでいた人たちが、
一歩引いた距離で見ている。
(もう、戻れない)
夜。
坑道の奥で、レオンは一人立っていた。
崩落した場所の前。
あの瞬間を思い出す。
願えば、動く。
だがあれは、世界を掴んだ感触だった。
掴みすぎれば、壊れる。
「……みんなが持てばいい」
ぽつりと呟く。
「一人じゃなくて」
その願いは、理想だ。
だが理想は、現実に押されると歪む。
怒りが混ざる。
足元の石が、わずかに浮く。
坑道の奥で、空気が震えた。
町外れ。
リリアとエルナが到着したのは、その時だった。
「遅いわよ」
エルナが言う。
「まだ、間に合います」
リリアは町を見渡す。
ざらつく共鳴。
未熟で、鋭い。
広場では、神官が準備を進めている。
護衛が馬を整え、
町長が神妙な顔で見守る。
「少年はどこだ」
神官の声。
その瞬間。
坑道の方角から、衝撃が走った。
地面が、揺れる。
「なんだ!?」
悲鳴。
空気が歪む。
坑道の入り口付近で、
空間がわずかに波打っている。
レオンが、立っていた。
意図していない。
だが怒りが、願いに変わる。
「資源じゃない!」
叫ぶ。
その声に、共鳴が応じる。
石が、浮く。
空気が裂ける。
神官が青ざめる。
「発動だ! 抑えろ!」
だが制御などできない。
未熟な光は、制限を知らない。
その時。
歪みの中心に、静かな声が落ちた。
「落ち着いてください」
リリアが、歩み出る。
誰も止められない。
レオンの視界に、外套の女性が映る。
「誰だよ」
「通りすがりです」
穏やかな声。
怒りの波が、一瞬揺らぐ。
「あなたは、間違っていません」
レオンの目が見開く。
「でも」
一歩近づく。
「壊せば、望んだ形にはなりません」
歪みが、さらに強くなる。
エルナが舌打ちする。
「やばいわよ」
空間が、軋む。
レオンの瞳は、涙で濡れている。
「俺は……」
怒りと恐れが、交錯する。
「俺は物じゃない!」
その叫びに、世界が応じる。
亀裂が走る。
だが次の瞬間。
リリアの手が、少年の胸に触れた。
押さえ込まない。
奪わない。
ただ、均す。
共鳴が、滑らかに広がる。
暴走の尖りが、丸くなる。
浮いていた石が、ゆっくり落ちる。
揺れが、止まる。
静寂。
レオンが、膝をつく。
息が荒い。
「……なんで」
「あなたは、中心にされようとしています」
リリアは静かに言う。
「でも、あなたは立ちたいのではない」
レオンは、何も言えない。
神官たちが動けずにいる。
広場に集まった町人も、言葉を失っている。
リリアは振り向く。
「強制は、反発を生みます」
神官へ向けて。
「未熟な光ほど、折れやすい」
クラウスがいれば、理解しただろう。
だがここには、秩序の現場担当しかいない。
レオンは、涙を拭う。
「……俺は、どうすればいい」
初めての問い。
リリアは、答える。
「急がなくていい」
それは、彼女の一貫した思想。
「立てる時に、立てばいい」
炭鉱町の空気が、ようやく戻る。
未熟な光は、消えていない。
だが今は、静かだ。
拡散は止まらない。
だが――
初めて、分岐点に立った。
少年は、
強制的な中心になるか、
自分で選ぶか。
そして王国は、
制御を続けるか、
変わるかを迫られていた。
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