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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第51話 兆しは、静かに増える

 最初は、誰も気に留めなかった。


 王都から南へ三日の小都市。

 市場の一角で、幼い少女の手が淡く光った。


 怪我をした兄の膝に触れた瞬間、

 血が止まった。


 奇跡と言うには、弱い。


 神官を呼ぶほどでもない。

 町医者が首を傾げる程度の出来事。


 だがその日、聖堂の記録係は報告書に小さく書き込んだ。


 ――未登録適性、可能性あり。


 同じ週。


 別の街で、祈りの最中に空気が震えた。

 さらに別の村で、井戸水が一時的に澄んだ。


 どれも大事ではない。


 だが、数が違う。


 王都、聖堂。


「……増えているな」


 クラウスが、報告書を並べる。


 机の上に積まれた羊皮紙。

 半年前なら月に一件あるかないかだったものが、

 今は一週間で七件。


「共鳴後からです」


 若い神官が言う。


「二人の巡礼以降、明らかに」


 クラウスは否定しない。


(抑制が、外れた)


 聖女が唯一であるという前提は、

 ただの思想ではなかった。


 世界への蓋でもあったのだ。


 一方、街道。


 リリアは、風の流れを感じ取っていた。


 ざわめきが増えている。


 祈りの質が変わった。


「ねえ」


 エルナが横から言う。


「今度は、どこ?」


「南西」


 短く答える。


「弱いですが、数が多い」


 エルナは顔をしかめる。


「火種が増えてる感じ?」


「ええ」


 火事ではない。

 まだ、焚き火程度。


 だが――


「放っておくの?」


「はい」


 迷いなく。


「人が立てるなら、立てばいい」


 エルナは、じっと見つめる。


「倒れるのも含めて?」


 リリアは、少しだけ黙る。


「……必要な介入はします」


 その答えは、以前よりも重い。


 夜。


 炭鉱町。


 少年が、崩れた坑道の前に立っていた。


「父さん!」


 中から声は返らない。


 土煙。

 悲鳴。

 誰も入れない。


 少年は、拳を握りしめた。


「お願いだ」


 祈りではない。

 叫びに近い。


 その瞬間。


 空気が、歪んだ。


 崩れた支柱が、ゆっくりと持ち上がる。

 石が、ずれる。


 誰も触れていないのに。


 坑道の入り口が、わずかに開く。


 中から、父親が這い出てくる。


 町の人々が凍りつく。


「……聖女だ」


 誰かが、呟いた。


 少年は、荒い息をしている。


 自分が何をしたのか、

 理解していない。


 ただ、願った。


 その夜。


 遠く離れた街道で、リリアが足を止めた。


「……強い」


 胸の奥が、震える。


 今までとは違う。


 量ではない。

 質。


 エルナが、空を見上げる。


「新しいのが、生まれた?」


「はい」


 リリアの声は、静かだった。


「そして……危うい」


 炭鉱町では、少年が囲まれていた。


「すごいな」

「王都に報告しよう」

「聖堂が来るぞ」


 少年は、首を振る。


「違う」


 息を整えながら、言う。


「俺は、聖女じゃない」


 だが、誰も聞いていない。


 奇跡は、役割を生む。


 役割は、中心を作る。


 夜空の下で、リリアは呟いた。


「始まりましたね」


 抑え込まれていたものが、

 静かに広がる。


 聖性は、例外ではなくなる。


 世界は、少しずつ、


 多極化を始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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