第50話 中心に、なってしまう人
巡礼の熱は、夕暮れとともに落ち着いていった。
広場に残っていた群衆も、ゆっくりと散っていく。
勝者はいなかった。
敗者もいない。
それでも人々は、どこか満たされた顔をしていた。
「二人いても、いいのかもしれない」
その言葉が、あちこちで繰り返されている。
王国の旗は、風に揺れている。
セレナは、静かに息を吐いた。
「……崩れませんでした」
小さな安堵。
リリアは頷く。
「はい」
「あなたが隣にいたからです」
その言葉に、リリアは首を振る。
「あなたが立ったからです」
視線が交わる。
敵ではない。
だが同じでもない。
やがて、セレナは護衛と共に去っていく。
王都へ戻るために。
広場の端。
エルナが、ずっと黙っていた。
「……ねえ」
低い声。
リリアが振り向く。
「あんたさ」
エルナの目は、怒っているわけではない。
だが、抑えていたものが滲んでいる。
「立ってないつもりで、立ってるわよ」
リリアは、黙る。
「今日、誰が中心だった?」
問いは鋭い。
「セレナ?」
首を振る。
「違う。あんたよ」
風が、わずかに止まる。
「あんたが隣にいたから、
あの子は安心して立てた」
「それは、彼女の力です」
「違う」
エルナは、はっきり言う。
「あんたが“いる”だけで、場が整う」
それは、称賛ではない。
「逃げてるつもりで、
一番影響与えてる」
リリアの胸に、静かに刺さる。
事実だ。
立たない。
だが、無関係でもない。
「……どうすればいいと思いますか」
リリアは、初めて問い返す。
エルナは、一瞬言葉に詰まる。
「知らないわよ」
苛立ち。
「でもさ」
視線を逸らす。
「全部背負わないって決めたなら、
“無責任な影響力”も背負いなさいよ」
沈黙。
遠くで、鐘の音が鳴る。
リリアは、空を見上げた。
今日、世界は崩れなかった。
唯一でなくても、秩序は保てた。
だがそれは、完全な分散ではない。
自分は、まだ中心に近い。
「……私は」
ゆっくりと言う。
「完全には、外れられないのかもしれません」
エルナが、小さく笑う。
「やっと自覚した?」
皮肉だが、優しさも混じる。
「だったら、選びなさいよ」
「何を」
「どこまで背負うか」
簡単な問いではない。
リリアは、しばらく黙っていた。
そして、静かに言う。
「立つ人が立てる世界を、守るところまで」
中心にはならない。
だが、完全に無関与でもない。
境界に立つと、選ぶ。
エルナは、ため息をつく。
「ほんと、厄介」
「よく言われます」
夜が降りる。
巡礼は続く。
王国は揺れながらも、崩れない。
唯一という定義は、修正された。
だが、完全には壊れていない。
リリアは理解する。
中心を拒否することと、
影響を否定することは違う。
世界は、単純ではない。
留まらない聖女は、
今夜、初めて自覚する。
――自分は中心にならない。
だが、
中心の近くを歩き続ける存在なのだと。
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