第49話 並び立つ日
巡礼の知らせは、思ったより早く広がった。
聖女セレナ、地方巡礼再開。
そして――
元聖女リリア、同行。
王都から最も近い大都市。
石造りの広場には、すでに人が集まっていた。
期待と、不安。
好奇と、疑念。
「どちらが本物だ」
「奇跡を見せるらしい」
「競うのか?」
噂は、勝手に形を作る。
壇上には、簡素な台が二つ。
王国の旗が掲げられている。
クラウスは、群衆の端から様子を見ていた。
(煽るなよ)
祈りを競わせれば、共鳴は暴走する。
これは試験ではない。
確認だ。
鐘が鳴る。
まず、セレナが姿を現す。
白い法衣。
正面を向く姿は、揺らがない。
歓声が上がる。
次に、リリア。
簡素な外套。
装飾はない。
ざわめきが走る。
二人が、並ぶ。
その瞬間。
空気が、わずかに震えた。
光は出ない。
だが、肌が粟立つような感覚。
人々が息を呑む。
セレナが、先に一歩出る。
「本日は、祈りを捧げます」
声は澄んでいる。
「競うためではありません」
ざわめきが止まる。
リリアは、隣に立ったまま言う。
「立てる人が、立てばいい」
短い言葉。
誰も意味を完全には理解しない。
だが、響く。
セレナが、祈る。
今度は制御されている。
広げない。
押しつけない。
光は、淡い。
群衆の中で、怪我をしていた老人の痛みが和らぐ。
泣いていた子どもが、落ち着く。
奇跡は、静かだ。
歓声が上がる。
「聖女様だ!」
だが、すぐ隣にリリアが立っている。
彼女は祈らない。
ただ、目を閉じている。
共鳴は起きる。
だが、増幅しない。
調和している。
群衆の中から、声が上がる。
「どちらが、本物だ!」
空気が張り詰める。
クラウスの指が、わずかに動く。
セレナは、視線を上げた。
「本物は」
一瞬、迷う。
だが、逃げない。
「世界が決めるものではありません」
ざわめき。
リリアが続ける。
「立つ人が、本物です」
沈黙。
人々は、戸惑う。
選べない。
競っていない。
勝敗が、ない。
だが――
不安も、ない。
二人が並んでも、
世界は崩れていない。
それが、何よりの証明だった。
クラウスは、静かに理解する。
(唯一でなくても、秩序は保てる)
定義は、修正可能だ。
群衆の中で、若い女が呟く。
「……二人いても、いいのかも」
その言葉は、小さい。
だが確かに、広がる。
鐘が、再び鳴る。
奇跡は派手ではない。
勝者もいない。
それでもこの日、
王国は初めて、
“唯一でない聖女”を
公の場で受け入れた。
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