第48話 選ばせるための秩序
夜明けの光は、まだ淡い。
セレナとリリアが向き合ったその場には、奇跡の痕跡は残っていない。
焦げ跡も、裂け目もない。
だが、そこにいた全員が理解していた。
――今、歴史に触れた。
護衛の一人が、低く告げる。
「聖女様……この件は、報告せざるを得ません」
セレナは、ゆっくりと頷いた。
「ええ。隠すべきではありません」
その言葉に、エルナが小さく笑う。
「王都は慌てるわよ」
「でしょうね」
セレナは、真っ直ぐ答える。
リリアは何も言わない。
ただ、風の流れを感じている。
その数日後。
王都。
聖堂と王城に、同時に報告が入る。
――聖女様、未登録適性者と接触。
――共鳴確認。
――制御成功。
会議室は、張り詰めていた。
「確認されたのか」
宰相の声が、低く響く。
「はい」
クラウスが答える。
「二人の聖性は干渉ではなく、調和しました」
「調和?」
神官長が険しくなる。
「唯一であるはずの力が、並び立ったというのか」
「事実です」
短い返答。
沈黙が落ちる。
やがて、若い貴族が口を開く。
「ならば、選ばせればよい」
部屋の空気が変わる。
「どちらが中心に立つか」
その発想は、王国的だった。
曖昧を許さない。
定義し直す。
「公開の場で、祈りを競わせる」
「馬鹿な」
神官長が低く唸る。
「聖女は見世物ではない」
「だが民は不安を抱く」
宰相が言う。
「唯一性が揺らげば、信仰は割れる」
クラウスは、静かに考えていた。
(選ばせる……)
それは秩序の論理だ。
だが――
「対立を煽れば、共鳴は増幅します」
冷静に告げる。
「制御不能の可能性があります」
「ではどうする」
問いは重い。
クラウスは、ゆっくりと言う。
「選ばせるのではなく、立たせる」
「何?」
「二人を同じ場に立たせる。
だが競わせない」
理解されない提案。
「民に示すのです」
「何を」
「唯一でなくても、世界は崩れないと」
会議室が凍る。
「危険すぎる」
「しかし事実です」
クラウスの声は揺れない。
「既に共鳴は起きている。
隠しきれない」
宰相は、長く沈黙した。
やがて、低く言う。
「……公開巡礼とする」
決断。
「聖女セレナは巡礼を続ける。
元聖女リリアにも、王命を出す」
神官長が顔をしかめる。
「応じなければ?」
「その時は……」
宰相は言葉を濁す。
クラウスは理解している。
拒否すれば、敵と見なされる。
王都の鐘が鳴る。
布告が準備される。
――聖女巡礼の再開。
表向きは、祝福。
内実は、試練。
その頃、街道。
エルナが、羊皮紙を読んでいた。
「ほら来た」
投げる。
リリアが受け取る。
王命。
セレナとの共同巡礼要請。
拒否は、事実上の反逆。
リリアは、しばらく黙っていた。
セレナは、少し離れた場所で空を見ている。
「どうするの?」
エルナが問う。
リリアは、ゆっくりと顔を上げた。
「……立たされるようですね」
「立つの?」
「いいえ」
静かな否定。
「歩くだけです」
セレナが、こちらを振り返る。
視線が交わる。
選ばされる構図が、すでに用意されている。
だが――
二人はまだ、敵ではない。
世界は今、
“唯一”という言葉を、試そうとしている。
秩序は選ばせようとする。
だが、歩く者は、
まだ、立つと決めていない。
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