第45話 遠雷のように
夕暮れの街道は、赤く染まっていた。
丘の上に立つと、遠くの地平線まで見渡せる。
リリアは足を止め、静かに息を整えていた。
「また?」
エルナが問いかける。
「……ええ」
弱くはない。
だが、はっきりと感じる。
遠くで、祈りが揺れている。
今度は、恐れではない。
問いだ。
(……来ている)
距離はまだある。
だが、確実に近づいている。
その頃。
別の丘を越えた先で、セレナもまた立ち止まっていた。
馬の手綱を握る手が、わずかに震える。
「聖女様?」
「大丈夫です」
そう言いながら、胸を押さえる。
焼けるような熱ではない。
波のような感覚。
押し寄せては、引く。
(……あなた)
知らない。
顔も、声も。
それでもわかる。
自分と同じ位相。
祈りを媒介としない聖性。
セレナは、空を見上げた。
雲が薄く流れている。
光は、まだ穏やかだ。
「この先に……」
無意識に呟く。
護衛が顔を見合わせる。
リリアは、丘を下り始めた。
「避けますか?」
エルナが聞く。
リリアは、少しだけ考える。
これまでなら、避けただろう。
中心にされる場所は、避ける。
だが今は違う。
「いえ」
静かな決意。
「逃げる理由は、ありません」
エルナが、目を細める。
「面白くなってきた」
その声に、わずかな緊張が混じる。
夜が近づく。
二つの道は、まだ交わらない。
だが、共鳴は確実に強くなっている。
丘の向こうで、セレナが目を閉じる。
「……どうか」
願いではない。
覚悟。
理解したい。
否定するのではなく。
その瞬間。
微かな光が、両者の足元で瞬いた。
眩しくない。
奇跡でもない。
ただ、存在の証明のような輝き。
エルナが息を呑む。
「……今の、見えた?」
「ええ」
リリアは答える。
「始まっています」
何が、とは言わない。
世界が、唯一という前提を外し始めている。
王国はまだ気づかない。
町も知らない。
だが、二人の聖性は、
遠雷のように、
静かに空を震わせていた。
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