第43話 共鳴
街道は、穏やかだった。
空は高く、風は弱い。
遠くで農夫が畑を耕している。
何も起きないはずの午後。
リリアは、ふと足を止めた。
「……どうしました」
エルナが横を見る。
リリアは答えない。
ただ、胸元に手を当てる。
鼓動が、わずかにずれている。
世界と、半拍。
風が、止んだ。
畑で作業していた農夫が顔を上げる。
「……なんだ?」
空気が、震える。
熱でも寒さでもない。
圧力でもない。
“揺れ”。
リリアの視界が、わずかに白くなる。
(……誰かが、祈っている)
強い。
真っ直ぐな祈り。
遠くから。
だが、確かに届く。
エルナが、眉をひそめる。
「今の、なに」
「共鳴です」
小さく答える。
その瞬間。
王都から離れた街道で、
セレナもまた、息を詰めていた。
「っ……」
胸が、焼けるように熱い。
祈っていない。
だが、祈りが溢れる。
護衛が慌てる。
「聖女様!?」
光は、出ない。
奇跡も起きない。
だが周囲の草が、わずかに揺らぐ。
空気が、波打つ。
セレナは、馬から落ちそうになる。
(……誰)
遠くに、何かがある。
自分と同じ“位相”。
知らないはずなのに、知っている感覚。
リリアは、目を閉じる。
逃げない。
拒まない。
ただ、受け取る。
世界の底で、糸が触れ合う。
聖性は、唯一ではない。
押し込められていた可能性が、
今、わずかに触れた。
エルナが、低く言う。
「……あんた、今」
「ええ」
リリアは目を開く。
「中心が、動きました」
セレナの呼吸が、ようやく落ち着く。
護衛が動揺している。
「医者を」
「いえ、大丈夫です」
セレナは、静かに首を振る。
怖い。
だが、はっきりと感じた。
(……いる)
自分と同じ場所に立てる存在。
王都では教えられなかった感覚。
世界が、少しだけ広がった。
街道の風が戻る。
何もなかったように、午後が続く。
だが――
王国の根幹を支えてきた前提が、
静かに崩れ始めていた。
聖女は、唯一ではないかもしれない。
そしてその事実は、
まだ誰にも知られていない。
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