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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第41話 立てる町に、私はいらない

 朝は、静かだった。


 広場にはもう焦げ跡は残っていない。

 歪んだ柱は補強され、屋台は仮の板で整えられている。


 完璧ではない。

 だが、機能している。


 若い給仕の男が、木箱を運びながら怒鳴った。


「そこ、傾いてるぞ! ちゃんと押さえろ!」


「うるさいな、わかってる!」


 言い争いながらも、手は止まらない。


 リリアは、その様子を広場の端で見ていた。


(……立っている)


 誰も英雄ではない。

 誰も聖女を呼ばない。

 魔女も、燃やされていない。


 それでも町は、回り始めている。


 背後から、声がした。


「満足?」


 エルナだ。


「ええ」


 リリアは素直に答える。


「あなたは?」


 エルナは、肩をすくめた。


「つまらないわね。

 私がいなくても動く」


 その声には、少しだけ寂しさが混じっている。


 そのとき、年配の女が近づいてきた。


「あんた」


 リリアを見る。


「……あんたがいると、落ち着く」


 突然の言葉だった。


「何もしてないのに、不思議だけど」


 周囲の何人かが頷く。


 リリアは、静かに息を吸う。


 これだ。


 中心になりかける瞬間。


 エルナが、横目で見る。


「ほら」


 小さく囁く。


 リリアは、わずかに微笑んだ。


「今日、町を出ます」


 空気が止まった。


「は?」


 若い給仕の男が振り向く。


「なんでだよ」


「もう、立てますから」


 リリアは、広場を見渡す。


「私がいなくても」


 年配の女が言う。


「でも……」


「立てる町に、私はいりません」


 優しくも、冷たくもない声。


 ただ、事実。


 沈黙が落ちる。


 若い給仕の男が、唇を噛む。


「……今度は、自分でやる」


 小さく、だがはっきりと言った。


 リリアは、頷く。


 それで十分だった。


 町の外れまで歩く。


 エルナが、隣にいる。


「逃げてるの?」


 低い問い。


「いえ」


「じゃあ何」


「信じているんです」


 エルナは、足を止める。


「何を」


「人が、立てることを」


 エルナは、しばらく黙っていた。


 そして、小さく笑う。


「……あんた、ほんと厄介」


「よく言われます」


 リリアは歩き出す。


 エルナは、数歩遅れてついてくる。


「で?」


「はい?」


「私も来るわよ」


 リリアは振り向く。


「どうしてですか」


「面白いから」


 即答。


 だが、その目は少しだけ真剣だ。


「壊す役だけじゃ、飽きたの」


 リリアは、静かに頷いた。


「歓迎はしませんよ」


「いらないわ」


 二人は、並んで歩き出す。


 町は、背後で小さくなる。


 誰も追ってこない。

 誰も泣かない。


 英雄のいない別れ。


 ただ、歩く。


 留まらない聖女と、

 壊す魔女は、


 次の揺らぎへ向かって進み始めた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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