第21話 それでも、村は守られている
翌日、村は変わらず朝を迎えた。
火は起こされ、パンは焼かれ、畑には人が向かう。
昨日、命が失われたことが、嘘だったかのように。
リリアはその光景を見て、胸の奥が静かに痛んだ。
(……何も、失っていない)
村は、守られている。
作物も、人も、家も。
だからこそ――誰も、この場所を責めない。
昼前、村長の家に人が集まっていた。
今後のことを話すためだ。
「外の被害は、ここだけの問題じゃない」
「王都も、動き出しているらしい」
「でも……この村は、無事だ」
言葉の最後に、必ず同じ結論がつく。
――ここは、安全だ。
リリアは、その輪の外に立っていた。
誰も、彼女を呼ばない。
責めもしない。
それが、いちばん苦しかった。
(……誰も、私を止めない)
午後、カイルが村の外れで荷をまとめていた。
小さな袋ひとつ。必要最低限の装備。
「……行くのか」
声をかけると、彼は頷いた。
「ああ。ここは……いい場所だ。でも、俺は……」
言葉を探し、首を振る。
「ここで、強くなれない」
その一言が、リリアの胸に深く落ちた。
「……外は、危険です」
「知ってる」
カイルは、苦く笑った。
「でも、危険があるってことを、忘れずにいたい」
彼は、背負った袋を確かめる。
「ここにいれば、生き延びられる。でも……生きている実感が、薄れる」
それは、責めではない。
選択の言葉だ。
「ありがとう」
唐突に、カイルはそう言った。
「助けてくれた。……それでも、俺を縛らなかった」
リリアは、何も言えなかった。
夕方、ミーナがリリアのもとへ駆け寄ってきた。
「ねえ、今日もここにいる?」
いつもの問い。
リリアは、少しだけ間を置いて答えた。
「……今日は、いるよ」
ミーナは笑った。
その笑顔が、胸を締めつける。
夜。
村の灯りは、穏やかだった。
リリアは、荷袋を取り出し、そっと開いた。
中身は、ほとんど変わっていない。
(……私は)
ここにいれば、守られる。
そして――守ってしまう。
境界は、まだこの村を包んでいる。
だが、それはもはや“祝福”ではない。
誰も、この村を責めない。
誰も、リリアを責めない。
だからこそ、結論は一つしかない。
――自分が、決める。
リリアは、静かに荷袋を閉じた。
まだ、出ない。
けれど――もう、迷ってはいなかった。
追放された聖女は、確かに理解していた。
**守られている場所に留まり続けることが、
いつか必ず、誰かを守れなくするのだと。**
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