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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第18話 静けさが、外へ流れ出す

 その朝、村の外は騒がしかった。


 正確に言えば――村の「少し外」だ。

 内側は、相変わらず静かで、整っている。


 リリアは違和感に気づき、荷袋も持たずに村の外れへ向かった。

 レオンの姿も見える。剣に手をかけ、険しい表情だ。


「……何が起きているんですか」


「小競り合いだ」


 短く、低い声。


「村に入れてほしい連中と、止めようとする別の連中。外で溜まっていた不満が、一気に噴き出している」


 リリアは、胸の奥が冷えるのを感じた。


(……内側が静かすぎる)


 感情が、村の中で発散されない分。

 外へ、外へと押し出されている。


 村の境界線――見えない線の向こうで、人々が言い争っていた。


「ここは安全だって聞いた!」

「俺たちはもう、戻る場所がないんだ!」

「順番だと言われても、待っていられない!」


 怒号が飛ぶ。

 誰も、剣を抜いてはいない。

 だが、空気は荒れている。


 リリアは、一歩前に出かけて、止まった。


(……今、私が動けば)


 境界はまた、厚くなる。

 怒りは鎮まり、何事もなかったように終わる。


 だが――。


(それは、押し込めるだけ)


 レオンが、低く言った。


「中に入れるな。ここで、決める」


 彼は剣を抜かない。

 ただ、立っている。


 村長も、外へ出てきていた。

 年老いた背中が、少しだけ震えている。


「我々は、ここを“最後の砦”にはしない」


 はっきりとした声だった。


「助けたい気持ちはある。だが、無限ではない。ここに入るなら、皆で責任を分ける。それができないなら――」


 言葉は、最後まで言わなかった。


 怒号が、少しだけ収まる。

 完全には消えない。


 それでいい。

 今は。


 リリアは、胸に手を当て、深く息を吸った。


(……私は、何もしない)


 祈らない。

 抑えない。

 ただ、ここに「在らない」。


 境界は、これ以上厚くならない。

 だが、薄くもならない。


 中と外は、緊張を保ったまま、均衡する。


 やがて、話し合いは終わった。

 何人かは引き返し、何人かは別の道を選ぶ。


 誰も、満足していない。

 誰も、完全に救われていない。


 それでも――。


 夜、村に戻ると、空気はいつもより重かった。

 静かだが、張りつめている。


「……今日は、眠れないな」


 カイルが、ぽつりと呟く。


「でも……それでいい気がする」


 その言葉に、リリアは頷いた。


(……痛みが、戻ってきている)


 それは、悪い兆候ではない。

 生きている証だ。


 部屋に戻り、灯りを落とす。

 窓の外、村の灯りは減っていた。


 必要以上に、明るくない。


 リリアは、静かに目を閉じる。


 今日、誰も救っていない。

 誰も癒していない。


 それでも、世界は壊れなかった。


 追放された聖女は、確信していた。


 **守らない勇気が、世界を呼吸させることもあるのだと。**


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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