元コールセンター職員の俺が世界転生して「セーブポイントの管理人」になった。勇者が死ぬたびに愚痴を聞かされるんだが、これだと前世となにも変わってませんが。
「……というわけだ。お主、前世ではよく働いた。救済措置として異世界に転生させてやろう。希望はあるか?」
白い空間で、神様っぽいじいさんがそう言った。
「……静かな場所がいいです。もう、電話も鳴らず、上司の怒号も聞こえない。誰にも邪魔されずに、たまに誰かと世間話をするくらいの、穏やかな場所で……」
「ほう、隠居生活か。わかったぞい。おあつらえ向きの場所がある。そこなら滅多に人は来んし、環境も最高。お主に『管理権限』を与えて送り出してやろう。達者でな」
視界が光に包まれる。
次に目を開けた時、俺は真っ暗な空間に浮く、巨大な青いクリスタルの前に立っていた。
「……静かだ。……いや、静かすぎるな」
周囲を見渡す。豪華な石造りの廊下だが、窓の外は禍々しい紫色の空。遠くでドラゴンの咆哮が聞こえる。
脳内にインストールされた【管理人マニュアル】を開く。
現在地:魔王城・最終回廊前、第一セーブポイント。
「……神様のバカヤロウ」
ここ、世界で一番物騒な場所じゃねえか。
確かに「人類未到達」だから人は来ないだろうけど、静かの定義が「死の静寂」なんだよ。
そう諦めて、クリスタルの横に用意されたパイプ椅子に座った、その時だった。
パァァァァァン!
目の前の空間が弾け、一人の男が転がり込んできた。
金髪を振り乱し、剣を杖代わりにして立ち上がる青年とその仲間たち。
「……クソが! あんなのチートだろ! 物理反射とか聞いてねえよ!!」
彼は俺に気づくなり、詰め寄ってきた。
「おい。お前からも魔王に言っとけよ! 『開幕メテオはやめろ』って! あんなのチートだろ! 運ゲーじゃねえか!」
目の前でキレ散らかしている金髪の男。
……えっ、誰この人。
「……あの、失礼ですが、どちら様で?」
「あ? こちとら勇者だぞ! この世界の希望だ! なめるなよ!」
「あはは、勇者様でしたか。それはそれは失礼いたしました」
俺は適当に頭を下げた。
前世のコールセンターで培った「話を聞き流すスキル」が火を噴く。
相手は世界の希望らしいが、俺にとっては「静かな隠居生活」を邪魔するただのクレーマーだ。
「見てろよクソやろうが! 俺の伝説の始まりだ!」
「はいはい、いってらっしゃいませー」
パタン、と扉が閉まる。
……ふぅ。これでようやく静かになるな。
神様も人使いが荒い。世間話っていうか、ただの八つ当たりじゃないか。
俺はキャンプ用のガスコンロでお湯を沸かし、お気に入りの茶葉で緑茶を淹れた。
湯気がふわっと立ち上がり、香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「やっぱり、日本人は緑茶だよな……」
ズズッ……と一口、お茶を口にした。
その、瞬間。
パァァァァァン!
「ぶっっ」
口に含んだお茶を吹き出した。
「……ゆ、勇者様、おかえりなさい。随分と早かったですね」
「……ぜぇ、ぜぇ……っ。 あの魔王、魔法使いのくせに杖で直接殴ってきやがったぞ! しかもクリティカルだ! 杖で殴る奴があるかよ、普通!」
「いや、普通は魔法の詠唱とかありますけど……まあ、隙があったんじゃないですか?」
「隙だらけだよ! 詠唱中に突っ込んだら、あいつ、杖の先で俺の鳩尾を突きやがったんだぞ!? 物理攻撃力の方が高いってどういうことだよ!」
怒鳴り散らす勇者の背後では、パーティーメンバーらしき面々も白目を剥いて倒れている。
「てか、お前は誰なんだ?」
「はい!私はここの管理人です」
「そうか、管理人か。じゃあ、このまま頼むぞ」
「はい……それで、次はどうされるんですか?」
「決まってるだろ! 忘れないうちに、すぐリベンジだ! 瀕死の今こそ、俺の火事場の手抜き……いや、底力を見せてやる!」
「ええ……瀕死って、あなた一分しか経ってないじゃないですか。絶対に向こう、HPもMPも全回復してますよ。むしろおやつ食べて休憩してる頃じゃないですかね?」
「うるせえ! 勢いが大事なんだよ! 行くぞお前ら、死ぬ気で(もう死んでるけど)ついてこい!!」
再び、爆音と共に魔王の間の扉が開く。
俺は溜息をつき、空になった湯飲みを見つめた。
いつになったら、静かな平和が訪れるのやらーー
下の【☆☆☆☆☆】から応援いただけると、執筆の励みになります!




