死因チートで異世界生存! 〜圧死スキルで骨の怪物だらけの世界を突破する〜
「情けないね。うぷぷ」
街の近くまで、俺は全力で逃げ切った。
スタミナなんてほとんど残ってなかったはずなのに、死の恐怖ってやつは本当に人間を化け物みたいに走らせるらしい。
「死んだら元も子もないだろう……」
膝に手をつき、肩で息をしながら、ようやく尻もちをついて休憩する。
圧死スキルは理解できた。
けど“使いこなす”となれば、練度が必要だ。
あの骨の獣――ケモノとやらの正体も謎だらけだ。大きい物をぶつけないと倒せないだろうし、相手を止める術も必要になる。
「うぷぷ。『いっけえええ!』とか吠えておいて倒せないとか、お前ほんとゴミムシだ。あの時の顔なんて主人公気取りで大爆笑だったよ」
ミラは口元を緩め、完全にニヤニヤしている。
言い返す気力はなく、俺は梅干しみたいな顔でうつむくだけだった。
「……もういいよ。それより、ケモノについて教えてくれ」
冒険者として生きるなら避けて通れない存在だ。
多分ゴブリンやスライム枠なんだろう。
「よっ、待ってました! やっと聞いてくれたねぇ。私様はその話をずっとしたくてムラムラしてたんだよ。うぷぷ!」
どこからともなく紙芝居を取り出し、ミラはパタパタと捲りながら説明を始める。
「ケモノ――骨で出来たあの生物は、ある日突然現れた。大きさはさっきのサイズから五メートル、十メートル級まで様々。肉食獣みたいに狂暴な個体もいれば、草食獣みたいに無害なやつもいる。まあ、新種の生物だな」
ミラは紙芝居を一枚捲る。
「でもケモノは、人間を滅ぼしかけている。街周辺の動物や魔物は全部やつらに殺された。骨だけで構成され、何も食わないくせに殺戮衝動だけはある。うぷぷ、最高に歪んでて面白いねぇ」
笑いながら説明するミラとは反対に、内容は最悪だ。
「当然、ケモノを倒しても食料にはならない。骨だけだからね。海の底に宝物を落としたみたいな絶望だよ。しかも街の近くは危険地帯。強いし、食料は減るし、人間は寿命を削って生活してるし――皆、イライラだよねぇ。ざまぁ」
うぷぷ、と腹を抱えるミラ。
――笑えない。
本当に、人間は追い詰められているみたいだ。
ケモノの骨は素材になるから討伐依頼があるんだろうが、それ以上に街の平和維持が目的だろう。
「でも私はスーパー天使だからね。お前みたいなバカを呼んだのさ。そう、君は英雄になるんだよ? うぷぷっ」
俺を覗き込みながら、ミラはフグみたいに膨れた顔をしてニヤつく。
「……まあ、この世界で生きていくしかないんだよな。どうせ」
戻る方法があるなら探すが、今のところミラは何も言わない。
むしろあくびしながら空を見ている。
「敗走したお前、このあとどうするの? 私様が助けてあげようか? それとも私のおっぱいに埋もれて泣きたい? ナデナデして欲しい? このスケベ」
「何も言ってないからな?」
ミラがまともな人格だったら飛び込みたい気持ちはあるが……うん、やめておこう。
「ギルドに戻るよ。装備も整えたいし……あ、俺って寿命使っても死なないんだよな? ほんと紛らわしい。通貨って表現」
「勝手にしろぉ! 私様はお前のストーカーみたいについていってやるぜ☆」
嬉しいだろ、と目をキラッキラさせながらピースするミラ。
正直、扱いに困る。
「いや普通にきついけど……」
「ひどっ。私、尽くしてきたのに……しくしく……うっそだよぉ! そんなわけないじゃん。私様は今“呼び出されてない”から暇なの! だからつきまとうね。うぷぷ、ノイローゼにしてやる!」
「誰に呼び出されてんだよ……」
もう分からない。
俺はため息をつき、ギルドへ向かうことにした。
街へ戻りながらミラにあーだこーだ言われたが、無視。
今は風呂にでも浸かりたい。
ギルドの扉をゆっくり押し開ける。
中から聞こえてきたのは、酒場の笑い声……じゃない。
怒号だ。
拒絶の声だ。
聞き覚えのある、嫌な種類の叫び。
重い扉が開ききり、ようやく中が見えた。
男たちが十人ほど、何かを囲んで怒鳴り散らしている。
物まで投げ始めている。
「あ、あなたは転生者の方ですよね!」
その声だけが、沈んだ空気の中でやけに鮮明に響いた――。




