罪を背負う者――ゴーストの真名
目の前で、レイが――あの時見た“ゴースト”の姿へと変貌していく。
「――ッ!」
動揺と困惑で頭が真っ白になる。
あの姿を見た瞬間、心が勝手に凍りつき、声が出なかった。
そんな中、俺とエリィの間を、雷の光が駆け抜けた。
ジークだ。
レーシングカーのような速度で走り抜け、次の瞬間にはゴーストの目の前にいた。
「うおおおおおッ!」
体勢を低くして拳を振り抜く――。
しかしゴーストは、その超高速の一撃をただの腕で受け止めた。
だが勢いに押され、数メートル先へ吹き飛んでいく。
「出力二十――雷撃!」
地面に着地する前に、ジークが雷撃を放つ。
轟音が夜に響き渡り、白い光がゴーストを貫いた。
ジークの背中を見て、ようやく俺たちの思考が動き始める。
「ジーク、お前……」
「何ぼさっとしてんだよッ! あいつが、俺たちを殺した張本人だぞ!」
ジークの怒声には、八年分の怒りが詰まっていた。
「嘘だろ……。でも、確かに……」
「待って、待って。私、理解追いつかないよ……!」
エリィが震える声で言う。
「私は“ゴースト”という通り名を持つ者。別世界を行き来し、罪なき君たちを殺した。その能力によって、君たちはこの世界に転生した。ジークの言う通りだよ」
さっきまでの絶望した表情は嘘のようだった。
けれどその声の端々に滲む悲しみは、隠しようがない。
「ノアス、エリィ。察しているだろう。迷うな。この世界では躊躇いは死だ。さあ――戦おう。私の罪を滅ぼすために」
静かに、それでいて強く宣告する。
「ノアス、エリィ。構えろ。ここで――殺す」
ジークが地を蹴った。殺意をむき出しにし、雷光を纏ってゴーストへと迫る。
俺もナイフを構え、その背中を追う。エリィも震えながら走ってくる。
「さあ――罪の決算をしようじゃないか」
ゴーストが無理に笑う。
「出力十――雷撃!」
ジークがゴーストの足元へ雷を叩き込む。
砂煙が巻き起こり、視界が一気に悪くなる。
俺はジークと目を合わせ、頷くと同時に煙の中へ飛び込んだ。
――触れた。
次の瞬間、蹴り飛ばされたが、リンクに成功したことで能力が使えるようになった。
「さあ、戦おうじゃないか」
ゴーストは手を広げる。余裕を装っているが、どこか言葉に力がない。
俺は左手のナイフを投げ、そのまま突っ込む。
「その程度では私を倒せないさ」
ナイフを弾いた――その隙。
右手で握っていた砂を、全力でゴーストの顔へ投げつけた。
直後、俺は吹き飛ばされたが、たった一瞬で十分だ。
「エリィ!」
呼吸ができないまま叫ぶ。
ゴーストの視界が塞がり、彼が動きを止める。
――今だ。
エリィが背後から飛び乗り、ゴーストにしがみついた。
足を絡ませ、離れまいと必死に掴みつく。
溺死の能力が発動し、ゴーストの呼吸が奪われる。
その間に俺は突っ走り――渾身の力でゴーストの顔面を殴り抜いた。
ゴーストが尻もちをつき、エリィは距離を取る。
「……本当に、あんたがゴーストなんだな」
立ち上がるゴーストに、戦意はどこにもなかった。
違和感の正体が分かった。
――攻撃してこない。
――殺せるタイミングがあっても、殺さなかった。
全部、受けているだけだ。
「見ての通り、私がゴーストだ。嘘でもない。事実だ」
「意味がわかんねぇよ!」
ジークが怒号を上げる。
「……この世界で君たちと出会ったのは偶然だった。いや、運命が導いた必然かもしれない。私はただ、探究者の君たちにリンのことを託したかっただけだ」
ゴーストの声は震えていた。
「でも、君たちが“転生者”だと分かった瞬間……無理やり押し殺していた罪悪感が、一気に溢れ出した。同じ空気を吸うだけで苦しかった。見ているだけで胸が刺されるように痛んだ。泣きたくなるほどに」
ゴーストの肩が震える。
「けど、私は間違いを犯した。転生の原因となった私は……罪人だ」
「じゃあ何でだよ。なんで俺たちをこの世界に転生させたんだ!」
「……呪いだ」
その言葉に、全員が息を呑んだ。
「私はサンタクロースに呪いをかけられた。私も、村の皆も。その呪いに耐えられなかった。だから……私は取引をした」
夜風が止まり、沈黙が落ちる。
「――私が村の全ての呪いを背負う代わりに、村を“解放”してほしいと」




