表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/46

本当の名前──呪いを抱えた男

背もたれに寄りかかって伸びをした瞬間、手が何かにぶつかった。

 嫌な予感がして後ろを振り返ると、そこには腕枕の姿勢でカウンターに突っ伏している男がいた。


 顔は見えない。だが、誰かはすぐ分かった。


 ――レイ。

 バルセロに向かう前、依頼所で出会ったあの男だ。


「……あんた達か。久しいな」


 起きたのか、もしくは最初から寝てなかったのか。

 声はガラガラで、目は完全に死んでいた。鼻が曲がるほどの酒臭さも全開だ。


「ど、どうしたんだよ……?」


 思わず肩を揺さぶると、レイは深くため息をついた。


「いや、もう限界だなって」


 生気ゼロ。まるで操り人形のようで、見てるこっちが不安になってくる。


「ノアス君、あの話してあげたら?」


 空気を察したエリィが小声で促してきた。

 たしかに、少しでも希望を見せられたら――。


「ああ、そうだ。バルセロでリンに会ったんだ。あんたが気にかけてたあの子。元気だったぞ!」


 俺は肩を叩きながら明るく言う。


「リン……。そうか、元気だったか。他の村人たちは?」


「元気だったよ」


「クソみたいな環境だったけどな」


「ちょ、ジークさん!」


 余計な一言を吐いたジークの足を、エリィが全力で踏み抜いた。


 が、その横でレイの表情が変わる。

 涙をこらえるような、熱を取り戻したような、そんな眼。


「そういえば、お前レイって名乗ってたよな。でもリンはそんな名前知らないって言ってた。どういうことだ?」


 ジークの疑問に、レイは唾を飲み込んだ。


「……そうだ。俺はレイじゃない。俺の本当の名前は――名乗れない」


「名乗れない? どういう意味だよ」


 レイの喉が詰まったようになり、苦しげに首を押さえる。


「……そういう呪いなんだ」


「呪い……。やっぱり、あんたバルセロの人間なんだな。リンの言ってた“行方不明の幼馴染”って……」


「俺は、手を汚しすぎた。もう、生きていてはいけないんだ。……少し場所を変えよう。話すべきことがある」


 そう言って、レイは席を立った。

 俺たちも無言のままその背中を追う。



 店を出て十分ほど歩くと、廃墟だらけの静かなエリアに出た。

 風の音しか聞こえない。まるで時が止まった世界だ。


「ここでいい」


 レイは立ち止まり、夜空を見上げた。

 涙を落としながら振り返る。


「えっと……ここで何を?」


 エリィが不安そうに尋ねる。


 次の瞬間、レイは告げた。


「ジーク。拘束された状態で雷に打たれて震死」


「……は?」


「エリィ。両手足を縛られ、重りをつけられたまま海に落とされ溺死」


「なっ……」


「ノアス。工事現場で機材の落下による圧死」


「ちょっと待て、それ……俺たちの――!」


 聞いた覚えのある言葉。

 いや、覚えているどころじゃない。


 それは――俺たちの“前世の死因”。


 誰にも話していないはずの、それをレイは淡々と読み上げた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。全て、私がやったこと。私はもう、生きていてはいけない。だから……償わせてください」


 レイは手を合わせ、祈るように呟く。


「呪いよ、発動したまえ」


 光がレイを包んだ。

 白い衣。深いフード。身体の輪郭が変わっていく。


「え……?」

「嘘だろ……」


 そのシルエットを、俺は知っている。


 この世界に転生させられた原因。

 俺たちを殺した“元凶”。


 ――ゴースト。


 瞬きする間に、レイはあの忌まわしい姿へと変貌していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ