再会?
久しぶりの家に帰ってきたせいか、俺はその夜、爆睡していた。
深い眠りに沈んだ意識の中で、夢は生前の景色を映し出す。
――母親と過ごした夕食。
――退屈なアルバイト帰りの道。
――心の底から笑い合えた友との時間。
目の前にシャボン玉みたいに浮かび上がっては、触れようとすると消えていく。
胸が締めつけられて、涙がこぼれそうになった瞬間――。
「おーい。起きろ、馬鹿者!」
頬をはたかれたような衝撃が走った。景色がざわざわと乱れ、夢が崩れていく。
ゆっくりと瞼が開いた。
「……うぅ」
「あ、おはよう、ノアス君」
目をこすりながら身を起こすと、エリィが覗き込んで笑っていた。
その隣には――なぜかジークまでいる。
「おはよう、エリィ……いや、なんでジークも居るんだ?」
「邪魔者みたいな言い方だな。てかお前、女子高生と同棲とかいい身分だな。エリィ、何もされてないか? 気を付けろよ」
「何て言い草だよ! 何もしてねえよ! で、なんでここにいるんだ?」
俺の質問に、エリィは困ったように頬を掻き、ジークは大きくため息をついた。
そしてジークが天を仰ぎながら言う。
「おい。役者は揃ってるんだ。いい加減、説明しろよ」
視線の先を見れば――。
「ミラ!」
そこにいたのは、サンタクロースの仲間だと発覚して姿を消していたはずのミラだった。
「五分かかりました。先生は静かに待っていたというのに、生徒の諸君、察しが悪いぞ。うぷぷ!」
宙をふわふわ飛ぶミラは、いつも通り無邪気な笑みを浮かべる。
「お前……なんでここに……?」
「何を当然のことを聞く? 仲間じゃないか! 大切な事なので二回言いました!」
あまりの自然さに俺たちは呆けるしかない。
だが逃すわけにはいかない。俺は声を絞り出す。
「ミラ。お前、本当にサンタクロースの仲間なのか?」
「そうだって言っただろ! あの村の娘も説明してたはずだ」
「聞いてたのか……」
悪びれもせず欠伸するミラ。エリィが恐る恐る尋ねる。
「じゃあ、どうして私たちと一緒に行動するの?」
「楽しそうだからさ! 半分は私の意思、もう半分はサンタクロース様の意思。うぷぷ」
ジークが鋭い目を向ける。
「サンタクロースについて話せ。俺たちはあいつを探してる。……お前の目的は何だ?」
「あー悲しい、寂しい……うそ☆ 私様は自由なのさ。お前たちの味方でも敵でもなく、楽しそうな方につく。それだけ!」
ジークの苛立ちは頂点に近い。
だがミラはお構いなしだった。
「……結局、サンタクロースに何を報告してる?」
「薄々気づいてると思うけどさ。サンタクロース様はお前たちの転生に関わってる。ていうか張本人。私はその観察係、みたいな?」
「……ゴーストもか?」
「うぷぷ。報われない男だよ、あれは」
「操られてるってことか……?」
エリィが青ざめた声で呟き、俺も言葉を継ぐ。
「サンタクロースは呪いの力を扱う。なら、ゴーストが仲間でないのなら……呪いで動かされてるってことか」
そしてジークもひらめいたように言う。
「バルセロで全ての呪いを背負って姿を消した奴がいた……リンの幼馴染だ」
三人同時に叫ぶ。
「「「リンの幼馴染が――ゴースト!」」」
ミラは腹を抱えて笑った。
「大正解! やっと気づいたか、うぷぷ!」
ジークがナイフを抜く。
「ノアス、こいつを捕縛する!」
「待てッ!」
叫んだけれど遅かった――
だがナイフはミラに届かない。透明な壁に阻まれたように止まった。
「私様はお前たちとは次元が違うのさ。下僕め」
ミラは飽きたように手を振る。
「じゃ、私は退散。またどこかで俯瞰しておくよ。バイビー」
「待て!」
俺の声は虚しく空気に溶け、ミラは花火のように消えた。
重い沈黙を破ったのはジークだった。
「……気づかなかったのかよ」
「わりぃ……気づけなかった。引っかかる言動はあったけど……あいつ、どこまで本気か分からなくて」
「ノアス君、仕方ないよ。ミラはいつもああだったし」
ジークは苛立ちつつも溜息で気持ちを落ち着かせた。
「……もういい。リーリスの所へ行くぞ。寿命を得てから今後を考える」
リーリスから寿命を得た俺たちは、街の酒屋で今後の方針を話し合う。
「この先、どうする?」
「ケモノの討伐、かな……」
「ケモノねぇ。あれ、ずっと引っかかってるんだが……恐竜に似てないか?」
「「恐竜?」」
ジークは真剣な表情で続ける。
「骨なのに『生きて』いる。呼吸してる。弱肉強食の階層がある。……化石がそのまま動いてるように見える」
言われてみれば、分かる気もする。
「何か理由……あるのかな」
「嫌がらせなんじゃない?」
「直接聞くしか分からないな。何か手掛かりがあれば――」
その時。
俺たちの視界に“あんた”の姿が映った。




