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転生者たちの価値観衝突。――奴隷事件と仲直りの一幕

リーリスは、教科書に載っているかのように綺麗な一本背負いを決めた。

ノアスとジョイはバタンッと背中から地面に叩きつけられ、ようやく激痛という名の正気が戻ってくる。


「何があったの、二人とも!」


声を張ると、ようやく耳に届いたらしい。

ノアスとジョイは胡坐をかいたまま、周囲の冷めた視線に戸惑うように目を泳がせている。


やがて騒動を見ていた人たちが離れていき、場には私たち四人だけが残った。


「こいつをどうにかしてくれ」


いつもは冷静なジークが、珍しく刺々しい声音でノアスを指さす。

その表情は、完全に不機嫌を隠す気がない。


「どうしたの、ノアス君?」


優しいトーンで尋ねると、ノアスは眉を寄せた。

なんというか……まるで二人の子どもを相手にしている保育士の気分だ。


「俺は……やっぱり納得できなかったんだ。奴隷が酷い扱いされてて、目を瞑るのも大事かもしれないけど……目の前で“人”が殺されそうになったら、助けるだろ」


「俺が補足するがな。奴隷が生意気を言ったから、持ち主が殺そうとした。それをノアスが止めて揉めた。その間に奴隷は逃げた。で、持ち主は大激怒。俺たちまで殺されかけて……寿命を差し出してなんとか助かったってわけだ」


ジークは呆れたようにため息をつき、自分の腕を見せた。

ノアスも腕を見せる。二人とも寿命が一か月未満――かなり減らしたのが分かった。


「なあ、俺が悪いのか?」


「えっと……どうだろう。でも、目の前で人が死ぬのを見たくない気持ちは分かるよ」


ノアスの気持ちは分かる。

死の恐怖を誰より知っているのは、私たち転生者だと思うから。


「ノアス、あんたが間違ってるわ」


「えっ」「は?」


リーリスは一刀両断した。

あまりに迷いのない言い方で、私もノアスも声が重なる。


「奴隷は商品よ。人によっては娯楽でもあり、ペットでもあり、遊び相手でもある。つまり“買い手に従うもの”なの。死だって含めてね。

 あんたはそれを破った。人の敷地に勝手に入った、不法侵入と同じよ。この件はジークが正しいわ」


リーリスの言葉は、この世界では正論なのだろう。

元いた世界とは基準がまるで違う。それは痛いほど知っている。


「ノアス、何度も言ったよな。この世界に過剰に干渉するなって。

 俺たちはもうやり直せない。目標は“死なずに生きること”だ。

 お前が一人なら好きにすればいい。でも今は違う。エリィや俺――仲間がいる。悲しませたくないだろ」


ジークは深呼吸してから続けた。


「失いたくないんだよ。分かってくれ」


「分かってるよ。失う痛みも、失った後悔も。

 だけど、目の前で人が殺されそうなのは……見過ごせない。

 その人の家族や友達が悲しむんだ。

 俺たちだって一度死んで、この世界に来た。きっと親や友達は今頃悲しんでる。抱きしめてあげたいけど……もう叶わない。

 その痛みを知ってるから、助けたいんだ」


二人の主張は対立しているようで、どちらも正しい。

だからこそ、答えが出せずに困ってしまう。


「うぷぷぷ。どっちも正しいでええじゃないか。

 やりたいようにやって、責任を問われりゃ自分で負えばいい。

 後は自業自得じゃ」


ミラは小馬鹿にしたように笑うけれど、言っていることは案外まともだ。


私は立ち上がり、パンっと手を叩いた。


「とりあえず、仲直りしよう。

 二人とも正しいと思うし、主張がかみ合ってないだけだよ。

 何かあったら私も力になるから――ね、仲間でしょ?

 ほら、手出して。握手!」


最年少の私なりに、全力で仲裁してみた。


「だっさ、だっさ! 高校生の小娘に気を遣われてるって、だっさ!」


まさかのミラも加勢。

いつも人を馬鹿にする彼女からの援護は予想外だった。


けれど、その“だっさ”が効いたのか、二人は少し気まずそうに立ち上がり、握手を交わす。


「はい、仲直り」


「別に喧嘩はしてねえ。言い合いになっただけだ」


「はいはい。そういうやり取りも青春ってやつね。

 じゃあ――この村で何を得たのか、聞かせてもらうわよ」


リーリスはパンっと手を叩き、場を締めた。

さすが有名探究者、私よりずっと慣れてる。

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