バルセロの呪影(じゅえい)──サンタクロースの街で
「バルセロか。初めて来たわ」
「そうなんだ。あまり遠くないのに来た事ないんだ」
「ええ。ケモノが現れてから街の外へ向かう人も激減したし、そもそもバルセロには“サンタクロースが干渉している”って噂もあったから、近寄る人なんて変人ぐらいよ」
「そういえば、探究者はサンタクロースを倒すのが目的だけど、実害ってあったの?」
「当たり前じゃない。サンタクロースは人間に酷い呪いをかける存在よ。ひとつの街がまるごと崩壊した事だってあるの。……そして“なぜバルセロが呪われているのか”。分かる?」
リーリスが片目を瞑り、まるで先生のように問いかけてくる。
「サンタクロースが呪いをまき散らしている可能性が高いってこと!」
「そういう事よ。どんな呪いかは不明だけど、外まで噂が漏れてる時点で、かなり信憑性が高いわ」
そんな会話を交わしながら街へ入った瞬間、私は息を飲んだ。
――そこは“壊れた世界”だった。
犬のように首輪で繋がれた人間。鎖を引き、怒鳴り、蹴りつける飼い主。
年齢も性別も関係なく、ただ奴隷たちは石のように黙って耐えている。
「ねえ、これ……やばくない?」
「なにが?」
リーリスは平然としている。それが逆に怖い。
「やばいでしょ!? これ警察とかいないの!? 何で普通にしてるの?」
「ああ、奴隷のこと? エリィ、いい? この世界では奴隷なんて当たり前なの。
捕まれば人権なんてない。寿命で売られて、道具になる。
もちろん、この街みたいに暴力が多い場所もあるけど、
“奴隷の方が幸せ”なんて場所だってあるのよ。だから私は驚かない。分かった?」
「……わかったよ。変な真似しないってば」
「そうして。あなた、絶対首を突っ込みそうだから」
私は手を振って誤魔化したけれど、胸の中のざらつきは消えなかった。
「それより、ノアス君とジークさん、どこにいるんだろ。先に来てるはずなのに」
「揉め事でも起こしていれば見つけやすいけど……まあジークがいれば大丈夫でしょ。
それよりノアスってどんな感じなの?」
リーリスの問いに、私は少し照れながら答えた。
「ノアス君はね……面白いよ。感情豊かで、優しくて、他人を優先してばかりで。
寝てる時はよくうなされてるけど……助けられたから、私も力になりたいって思うんだ」
「……ふうん。なら信用できるのね」
リーリスは、どこか安心したように微笑んだ。
その時だった。
「お前はなんでいつも首を突っ込むんだよ!!」
「だっておかしいじゃないか! 可哀想だろうが!!」
街の広場に、怒鳴り声が響いた。
――聞き覚えのある声だ。
「え……ノアス君? ジークさん?」
人だかりをかき分けると、ノアスとジークが胸ぐらを掴み合っていた。
完全に獣同士の喧嘩である。
「ちょっと何やっているのよ!!」
「二人とも落ち着いて!!」
私とリーリスが割って入っても止まらない。
むしろ押し返されて、私は「ゴリラか!?」と本気で思った。
だが――
「いい加減にしなさいっ!!」
リーリスの怒号が街を震わせた。
その瞬間、二人の動きがピタリと止まる。
そして――バルセロでの最悪の再会が、ようやく幕を下ろした。




