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黒フードの制裁者と、死んだはずの親友

「お前たち、やめろ」


 強い声音が、路地に響いた。

 振り返ると、黒いフードで顔を隠した男が立っていた。義賊に似た格好だが、装いの色も雰囲気もまるで違う。


「誰だ、お前」


「誰でもいい。この場を去れ」


「私たちは富裕層の人間だぞ。それにここは富裕層の区域だ。偉そうな口を――」


「俺は探究者だ」


 その一言で空気が変わる。


「お前らが探究者を拉致したり、犯したりしてるって話は聞いてる。

 つまり――俺はお前らに制裁する権利がある。どうする?」


 男が一歩踏み出す。手を伸ばした瞬間、バチン、と空気が弾けたような音が響いた。

 威圧の気配に、富裕層の男たちはたじろぎ、互いに顔を見合わせる。


「……覚えていろよ」


 捨て台詞を吐くと、富裕層たちは渋々その場を離れていった。


「ありがとうございます……!」


 思わず頭を下げた。しかし男は何も言わず、壁に背を預けたまま動かない。


「エミ! エミ、エミ!」


 少年が泣き叫びながら少女に駆け寄る。

 黄色いレインコートの少女――エミは、倒れたまま返事をしない。


「頼む……起きてくれ……! 頼むから……!」


 必死に腕を掴み、寿命の譲渡を試みる。しかし――。


 エミの腕のゲージは、冷たい『ゼロ』のまま動かない。


「……っ」


 胸が焼けるように痛んだ。

 これが、この世界の“死”なのだと理解してしまう。


 助けられない。

 もう二度と戻らない。


 俺がいた世界でも……母さんは、俺の死体を前に同じように泣いたのかもしれない。


「うぷぷぷ。因果応報、因果応報。これは必然だ。偶然ではなく必然。

 それにしても、いい結末だ。よく行動した、ノアス!」


「……不謹慎だぞ、お前」


 ミラは楽しそうに笑う。その無神経さに怒りを覚えたが、怒鳴る力すら湧かなかった。


「お前たち、行くぞ」


 黒フードの男が背を向けたまま言う。


「俺たちにできることは、もうない」


 その声音には、諦めでも、優しさでもない……どこか俺と似た感情が混じっていた。


「……行こう」


 エリィが袖を引き、優しく促す。


 助けられなかった後悔が胸に刺さる。

 もっと早く来ていたら、もっと早く気づけていたら――そんな“もしも”ばかりが頭に渦巻いた。


 拳を握りしめる。

 悔しさを握り潰すように。


 それでも後悔は消えなかった。



 富裕層を抜け、貧困層に入る頃には、ようやく自分の心が落ち着き始めていた。


「助けてくれてありがとう。あなたが牽制してくれなければ……もっと酷いことになっていた」


 黒フードの男は肩をすくめる。


「はぁ……ったくよ。相変わらずヒーロー気取りだな、お前は」


「え?」


「変わんねーな、本当に」


 男がフードを外した。


 黒髪。俺と同じくらいの背丈。

 そして――懐かしさで胸が締めつけられる顔。


 氷の膜がゆっくり溶けていくように、記憶が蘇る。


 そして一瞬で弾けた。


「……ジーク!」


 やっと出てきた声は、震えていた。


 幼い頃から一緒で、笑って、喧嘩をして、肩を並べて歩いた親友。

 半年前――ゴーストの最初の犠牲者として殺された男。


 もう二度と会えないと思っていた親友が、目の前に立っている。


「まさかお前までこの世界に来てるとはな、ノアス」


「う、お、おおい……!」


 感情が爆発し、俺はジークに抱きついた。

 ジークは困ったように笑いながら、俺の背中をポンポン叩く。


「えっと……状況、説明してくれる?」


 戸惑うエリィに必死で説明したが、うまく伝わらず、ジークの補足でようやく理解してくれた。


「すごい! 友達がいるっていいなぁ!」


「うぷぷぷ。ますます面白くなってきたじゃないか」


「誰だお前」


「私は天才最恐最凶最強天使ベストエンジェル・ミラ様さ。うぷぷ」


「……まぁ、後で説明するよ。こいつについては」


「おう。分かった。とりあえず、どこかで話そうぜ。積もる話もある」


 俺たちはジークに案内され、近くの酒屋へ向かった。

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