Ep.3
「アナ、今日はいよいよロークさまに会う日ね!」
「……。そうですね……」
父上から衝撃的な言葉を聞いてから、1ヶ月が経った。
ついに、ローク・レヒリフ公爵令息に会う日がやってきた。
あの冷酷無慈悲と有名なロークさまに嫁ぐというのに……というか嫁ぐから? 、グレイ姉さまはとてもこの日を楽しみにしていた。……冷酷な言葉などが楽しみなのだろう。
「あっ、アナ! あれ、ロークさま……よね?」
「ん? あ……そう、ですね」
突然、ふっとロークさまがこちらを振り向いた。
そして、雪のように煌めく銀髪をはらりとなびかせ、こちらに向かって歩いてくる。
「——お前がグレイティア・ダロゥジュか」
ちらりとおれを一瞥した後、すぐにグレイ姉さまに視線を移した。
「ええ、そうですわ。ローク・レヒリフさま、ですか」
「ああ。そこの者は?」
「グレイティア・ダロゥジュの弟、アナスタシア・ダロゥジュと申します。ふつつかな姉ではありますが、どうか姉をよろしくお願いいたします」
ロークさまに対し、丁寧に頭を下げる。
グレイ姉さまは、なぜか不満げな顔でおれを見ていた。
「……グレイティア、アナスタシア。お前たち——」
「? はい。なんでしょう」
「! もしかしてっ、もう冷たいお言葉ですか……っ?」
「……グレイ姉さま」
「読み応えなんか知ったこっちゃないわっ、私は冷たいお言葉と場合によっては拳が飛んでくるならば、何がなんでも生きるわ……っ♡」
……怖いて。
「……頭大丈夫ですかいや大丈夫じゃないですね。ちょっと病院行きましょうかグエム姉さま」
「グエム? 誰それ」
「……グレイとドМを足しただけです。以前ドレイ姉さまと言って姉さまが異常に怖すぎたので」
「……っ♡ ドレイ……奴隷! なんて素敵な響き……ロークさま、ロークさまも“奴隷”ってとっても素敵な響きだと思われますよね!」
「はぁ……?」
「っちょっ、グレイ姉さま失礼ですって! すみませんほんとにこのアホ姉が……」
「アホ! アホ、アホ、アホ……♡」
「……頭バグってるドМ姉さまが……」
絶対に引いたであろう、微妙に引きつった顔をロークさまがグレイ姉さまに向ける。
その冷たい美しいかんばせに、グレイ姉さまはうっとりと……というか冷たいブリザードのような視線にうっとりと見とれたような視線を送り返した。
それにもう完全に引ききった、信じられないものを見るような目でロークさまはグレイ姉さまに視線を向ける。
「……ロークさま。グレイ姉さまのことは、何か違う生き物なのだと思っておけば楽ですよ」
「なるほど。そうしておく」
ロークさまがとても必死そうな顔だったので、おれは苦い笑みを彼に向けた。




