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ブロクストン通りの事件

 ブロクストンと呼ばれる地区に刑事が三人で乗り込むというのは、あまり穏やかではない状況だった。住みついている人間の中には、自分を逮捕しに来たのではと訝る者もいるし、警察関係者にしてみれば、日頃の恨みを晴らしに暴漢が大挙する不安がある。

 だが重犯罪課のジャックと二人の刑事が来た時には、すでに多数の銃武装した制服警官が殺人の現場を取り仕切っており、とりあえず多少暴動が起こっても何とかなるだろう、とジャックは考えた。

「重体だった被害者は応急処置を施しましたが、残念ですがたった今死亡しました」

 制服警官の報告を受けたジャックは、まだ自身の制服時代の仕草が抜けず、直立して敬礼してしまう。

「了解しました。検死は?」

「移送馬車がまもなく到着しますが、まあその…」

 警官は言葉を濁した。目の前で凸凹の道路に投げ出されている三つの死体は、取り押さえられて街灯の柱に括り付けられている、ブラウンのベストを着た黒い短髪の男に、ナイフで刺されて死亡したのだ。検死などただの形式的な手続きにすぎない。道路には血が飛び散って、阿鼻叫喚の様相ではあるが、重犯罪課の人間にとってそんな光景は「職場の風景」であり、制服時代の仕草が抜けないジャックもそこはすでに適応していた。

「四肢が胴体につながってるぶん、先月の現場よりずっとマシでした」

 とは現場で言ったセリフではなく、約一時間後オフィスに戻って言い放ち、先輩刑事たちの顔を引きつらせたセリフである。


 犯行に及んだ男の名はカラバジョといい、二六歳で移民の二世だった。いちおう形ばかりの権利を読み上げたあと、ジャックは路上で犯行について問い質そうとしたが、話を聞く前にすぐわかった事がひとつあった。

「お前、麻薬をやっているな?」

 目の下が異様に青く、視線はつねに定まっていない。口からは泡を吹いており、全体的に憔悴しきっている。どう見ても病気や精神疾患などではない、薬物の影響である事は刑事のジャックにはすぐわかった。

 だが当然というか、男はそれだけ不安定な精神状態でありながら、麻薬をやっている事はしっかりと否定した。

「やって、やってない」

「お前なあ、もう言い逃れも何も、この状況でできると思うか?」

 さすがに殺人の現行犯を相手にすると、ジャックの口調も『重犯罪課仕様』になる。ジャックは、後ろで手持ち無沙汰になっている同行してきた刑事ふたりを振り返った。

「君たちは、周辺で聞き込みをしてきてください。犯行時の状況を詳しく知っている人がいないかどうか」

「了解しました」

 ジャックよりさらに若い刑事ふたりだが、すでに多くの事件で慣れきっている彼らは、迷いなくその場を散った。ジャックは改めて犯人に問いかける。

「白状したらどうなんだ。話によれば、どうやら被害者三人に切りかかる前に、誰かと口論していたんだろう?」

「しし、知るり合いと、ざっ、雑談を、してた」

 もはや呂律が回っておらず、これは薬物中毒患者の典型的な症状だとジャックは判断した。手近な署で取り調べをするか、それとも病院に送るべきか。ひとまずは、この場で訊けることは訊くことにした。

「ほう。じゃあその知り合いの名前を言え」

 ジャックは手帳を取り出し、ペンをカラバジョに突きつけた。

「ほら、話せ」

「うっ、ううう」

「名前を出せない相手と話してたってことか?」

 ジャックの口調は決して威圧的ではなく、ほとんど事務的に聞こえる。それが逆に容疑者、犯人には堪えたらしく、ロープの拘束を解こうとして暴れ出した。

「うごぁーっ!」

「おっと、これはまずい」

 ジャックが頭をかいた所へ、ようやくカッターが小走りに駆け付けて声をかけた。

「苦労してるみたいだな」

「あっ、ご苦労さまです」

 いつものクセで直立しかけたジャックを、カッターは手で制した。

「なんて言ってる」

「何も言いません。というかこいつ、クスリをやってますね」

「厄介だな」

 こういうケースが一番困る、とカッターは心の中でぼやいた。殺人である以上は重犯罪課の管轄だが、麻薬が絡むと捜査三課、へたをすると警察と折り合いが悪い、国家保安局ともかち合う事になる。しかも今は、マクレナン大佐の狙撃事件で混乱している最中だ。

「仕方ない、ここにいると物騒な奴らの目もある。手近な署で取り調べだな」



 ブロクストン署の取調べ室を借りてカッターとジャックが聞き出したところによると、ナイフ斬りつけの現行犯カラバジョは、やはり麻薬のブローカーと接触していたらしかった。ブローカーの名前は不明で、顔も隠しているし、連絡方法もわからない、という。

 だがそこでもうひとつ、気になる情報があった。

「値上げ?」

 カッターは訊き返した。カラバジョは震える唇で、麻薬の価格が高騰しており、以前の値段で売ってくれと頼んだが断られた、と答えた。

「それで買えなくて暴れたっていうのか」

 静かな怒りをたたえた目で、カッターはカラバジョの襟首を掴んだ。

「お前だって色々苦労してきたんだろう。それは顔を見ればわかる。だが、お前に殺された何の関係もない三人にだって、人生があったんだ。お前はもう、償う事もできないんだぞ。ひとを殺すってのは、そういうことだ」

 その言葉が、麻薬の切れてきた不安定な精神状態でも堪えたのか、カラバジョは脂汗を流して叫び、ふたたび暴れ出した。机を蹴り、頭を振り回す。その様子を目の当たりにしても、カッターとジャックは冷静だった。控えていた署員を指で招き寄せると、カッターは一言だけ伝えた。

「警察病院に連れていけ」

 どうせ最後は監獄行きのあと死刑だろうがな、と付け加えると、カッターとジャックはブロクストン署をあとにした。


「胸くそ悪いですね」

「おっ、言葉遣いが粗雑になってきたな。いい傾向だ」

 屋台の紙コップのコーヒーを片手に、カッターはもの悲しそうに笑った。

「楽しい商売ではないよな、ジャック」

「それはそうです。仕方がありません」

「仕方がない、か。お前も案外タフな奴だな」

 少し前まで新人だと思っていたジャックが、だんだん強くなってきた事にカッターは軽い驚きも覚えていた。だが、すぐに頭は今の事件に切り替わった。

「関係あると思うか」

「何がでありますか?」

「今回の殺しだ」

 遠回しではあったが、ジャックは言わんとするところを理解した。

「マクレナン大佐の死と関係があるか、ということですか」

「そうだ」

「さすがにそれは、考えにくいのではないですか」

 ジャックは正直なところを言った。カッター自身も、現時点では同意見ではあった。街のチンピラが麻薬を買いそこねて暴れた事件と、海軍大佐の件を結びつけようとするのは、あまりにも強引すぎる。

 だが、カッターはそこでひとつ、考えもしなかった要素が重なる可能性に思い至った。

「麻薬が高騰し始めたのって、いつ頃からなんだ」

「いやあ、それはわかりません。捜査三課に訊けばわかるかも」

「あいつらはそんな情報、よそに洩らさない。二課の奴らとは大違いだ」

 飲み干した紙コップを握り潰して、テレーズ川に投げ入れようとしたカッターの腕をジャックは掴んだ。

「ゴミはゴミ箱へ!前にもやりましたよね!」

「ああもう、わかったよ!」

 公共マナーの事になると人が変わるジャックに怯えつつ、カッターは脳裏に浮かんだ、ひとつの可能性について考えた。そして突然振り返り、歩いていた道を逆に歩き始めた。

「巡査部長?」

「警察病院に行くぞ」

 駆け出したカッターを、ジャックは慌てて追いかけた。カッターが道に放り投げた紙コップをきっちり回収する。

「ゴミはゴミ箱へ!」

 


 魔法犯罪特別捜査課のナタリー・イエローライト巡査は、警視庁から七百メートルばかり離れたテレーズ川沿いの、警視庁よりは少し古いデザインの合同庁舎を訪れていた。三階に上ると、ナタリーの古巣であるメイズラント国家情報局がある。

 情報局は名前のとおり、国内外の情報を収集することが任務である。基本的に情報のみを専門とし、対テロリスト目的で実力行使の権限を与えられた保安局とは異なる。ナタリーはこの機関に、若くしてその能力を買われ、三年前まで所属していた。

 閉じているドアを五拍子のリズムでノックすると、ほどなくしてドアが開いた。出て来たのはやや膨らんだ天然パーマの男性だった。眼鏡をかけ、スラックスに木綿のシャツを無造作に突っ込んだその姿は、およそ国家の機関の人間とは思えない。

「いらっしゃいませ」

「焼き上がってるブランデーケーキはあるかしら」

 ナタリーが訊ねると、眼鏡の男性はわざとらしく思案したのち、歯をむき出して笑った。

「ちょうど焼き上がったところだ」

 そう言ってナタリーを招き入れると、廊下の様子をうかがってドアを閉めた。


 情報局のオフィスに入ると、ナタリーは拍手と歓声で迎えられた。

「よう、ナタリー」

「魔法捜査課をクビになったのか?」

「あなたのデスクならいつでも空いてるわよ、今はちょっとばかり物置きに使わせてもらってるけど」

 バインダーや段ボールで埋まったデスクを、黒いミディアムヘアの女性が指し示すと、オフィスに笑いが起こった。

「忙しいんじゃないの?ジェフリー」

 ナタリーが眼鏡の男性に訊ねると、ジェフリーは手をヒラヒラ振ってみせた。

「上からのくだらない調査要請で、うんざりしてるところだ。戦争を起こしたがってる、としか思えないね」

 うんざりした様子で、ジェフリーはデスクについた。ナタリーは、ミディアムヘアの女性のとなりのデスクに腰掛けて訊ねた。かつて自分が使用していたデスクである。

「例の事件は知ってるわよね、マーガレット」

「ええ」

「難航してるみたい。重犯罪課は」

 ナタリーのひとことで、情報局オフィスに沈黙が走った。

「ひょっとして、洩らしたらまずい話が裏にある?」

「まだ確証はないけどね」

「どれくらいまずい?」

「ジェフリーの首が一〇個くらいは飛ぶかも」

 マーガレットが悪魔的な笑みを浮かべると、ジェフリーは「俺は化け物じゃない」と抗議した。

「繰り返すけど、まだ裏は取ってない。ただ、断片的な情報から推測しているだけ。何しろ、上からの調査命令がないから、私達も動きようがないの」

「あれだけの事件なのに、裏で何かがあった可能性を、国は調査させないの?」

「そう」

「つまり、国が知られたくない何かが、あの事件の背後にあったということ?」

 ナタリーの指摘に、ジェフリーは口に人差し指を立てた。

「それ以上は言わない方がいい。ここは防音室になってはいるがな」

 そのジェフリーの態度で、逆にナタリーは確信した。どうやら、あの海軍大佐が殺された背景には、国家レベルの何かまずい事実が横たわっているらしい。カッター刑事が、とつぜん海軍本部が非協力的になった、と言っていた事とも符合する。ナタリーは、それ以上は訊かないことにした。

「わかった」

「お役に立てなくて済まないがね」

 ジェフリーは、申し訳なさそうに肩をすくめた。だが、いくら勝手知ったる古巣とはいえ、そうそう簡単に情報を洩らせないのは、当のナタリーが一番よく知っていた。ジェフリーは、少し首を傾げて訊ねた。

「しかし、あの事件は君たちの管轄ではないだろう」

「おとぎ話が私達の管轄だけど、たまに絵本から出て来て現実にちょっかいを出したくなるの」

「数千モンドの窃盗被害が出るおとぎ話か」

 ジェフリーは手元の『リンドン新聞』の、魔法犯罪特別捜査課による連続窃盗犯逮捕の記事を見た。他紙とは異なり、犯行に使用された魔法について、比較的詳細に書かれている。

「おとぎ話の魔法は、空を飛んだりヘチマが馬車になったり、華やかで楽しいのが定番だけどな」

「うちの課の人間いわく、青銅器が発明されたら人殺しに用いて、鉄器が発明されたら人殺しに用いて、銃が発明されたら人殺しに用いてきた人間が、魔法を手にして盗みや殺しをはたらいても驚くにはあたらない、だそうよ」

 ナタリーは皮肉たっぷりに、魔法捜査課きっての厭世家の言葉を引用した。となりでマーガレットが笑う。

「変わってないわね」

「ええ」

 ナタリーは、場が和んできたところで切り出した。

「今の事件に関係あるかわからないけど、ふたつ気になる事がある」

「いいわよ。訊くだけなら」

「ありがとう。まずひとつ。ついさっき重犯罪課に、ブロクストン地区で殺人事件が起きたと連絡が入った」

 殺人、と聞いてさすがに情報局員たちも表情が強張る。ナタリーは続けた。

「詳細はもちろんわからないけど、どうやら麻薬が切れて暴れ出した手合いみたい。そこで、麻薬の高騰っていう噂をマーガレット、あなたから聞いたのを思い出した」

 次に何を訊かれるか、マーガレットもジェフリーも何となく予期しているような表情で、黙って聞いていた。

「その、麻薬が高騰し始めた時期って、いつ頃?」

 その質問はどうやら、何かの核心を突いていたものらしかった。ジェフリーのそれまでのフランクな態度は影を潜め、腕組みして答えるべきかどうか、思案しているようだった。これは、ナタリーに対して冷たく当たっているのではない。

「ナタリー。答える事はできるが、そこから先に踏み込む事はあまりお勧めできない。それでも聞きたいか?」

「あなた達に迷惑がかかるなら、答えなくていいわ」

「僕たちは、君や君の課の人達の、身が心配なだけだ」

 その回答で、ナタリーは全てを察した。情報局はすでに、事件の背後にある重大な情報を掴んでいる。だが、それを公にはできないのだ。それを公にすることで、誰かに危険が及ぶ可能性がある。そこで、ナタリーはひとつ引っ掛けることにした。

「誰かが情報を獲得するということは、情報源があるということ。そうよね」

 ジェフリーとマーガレットは、そう来たかという表情で顔を見合わせた。

「誰かが教えてくれないとしても、別な場所で知ってしまう事はあるかも知れない。知ってしまったなら、それは不可抗力だわ」

 ジェフリーは参ったよという表情で、降参のポーズを取った。すると、ジェフリーのブックスタンドの裏で何かくしゃくしゃと音がしたかと思うと、ナタリーの方に丸めた紙を投げてきた。

「なによ!」

「悪い、捨てておいてくれ」

 ナタリーはぶつくさ言いながら、床に落ちた紙を拾い上げた。

「これが元上司の答えというわけね。優しくて涙が出るわ」

「そう言うな。ところで、もうひとつの質問があったんじゃないか」

「こっちもひょっとしたら、やばい案件かも知れないけど」

 ナタリーは、ポケットから一枚の折りたたんだ紙を取り出した。

「さっき、ある人物がうちの課に顔を出して、見せてくれた人相描きの写し。このカイゼル髭の人物が、海軍本部に出入りしているらしいわ。高級な馬車に乗っていたそうよ。誰かわかる?」

 写しを受け取ったマーガレットは、一瞬ハッとして表情を変えた。すぐに、向かいのデスクの女性に手渡すと、十数名いる情報局の人間が素早く回し見て、ほどなくナタリーの手元に戻ってきた。ジェフリーは、いっそう難しい顔をして黙り込んだが、意を決して口を開いた。

「ナタリー。これはもう、君たちの案件じゃないかも知れない。ひょっとしたら、重犯罪課にも捜査をストップする指示が下る可能性がある」

「なんですって?」

 ナタリーは、人相描きを示して改めて訊ねた。

「この、どこにでもいそうな男性。誰かわかるのね」

「誰とは言えないな」

「ジェフリー」

「いいから聞け。誰とは言えない。ただ何だか、どこかの部屋の左側の奥の棚で、似たような人を見たような…いや、気のせいだろう。こんな風貌の人、どこにでもいる」

 すると、ジェフリーの左手前の若い局員が立ち上がってジェフリーを見た。

「それ以上は」

「なんだ?僕は、誰だとは言ってない。ただ、見たことがある気がする、と言っただけだ」

 すると、若い局員はナタリーを振り向いて、「まずいですよ」とでも言いたげな顔をした。ジェフリーは、おもむろに立ち上がった。

「僕はちょっと出て来る。マーガレット、いない間のことは任せたよ」

 それだけ言うと、ジェフリーは本当に出て行ってしまった。残されたナタリーは、マーガレットに向き直るとニヤリと笑う。

「マーガレット、お願い」

「知らないわよ」

 ひとつの鍵束を取り出すと、マーガレットは渋い表情でナタリーを連れて、オフィスの奥にある二重扉の先に向かった。オフィスの局員たちはナタリーの知己ではあるが、一様に不安の色を浮かべていた。


 マーガレットの案内でナタリーが通された部屋は、いくつもの書架が並び、膨大な資料、書物が収められた資料室だった。久しぶりに入った室内の紙の匂いを、ナタリーは懐かしく思った。

「資料は手でめくるのが好きなんだけど」

 ナタリーはポケットから、銀色に塗装された短い杖を取り出した。マーガレットが怪訝そうな顔で、その行動を観察している。ナタリーは杖を資料室の空間に向けて水平に構えると、だいぶ長めの呪文の詠唱を開始した。左手には、先刻見せたカイゼル髭の人物のスケッチが握られている。

 ふいに、杖の先端からエメラルド色の閃光が四方八方に走り、室内の書架を走査していった。マーガレットは、いったい何が起きているのか理解できず、ただその不思議な光景を見ている事しかできなかった。光は何度も書架に並んだ書類、本を走査していくが、やがて資料室の入って左奥の書架の一角に光が集中し始めた。

 ナタリーは、無数の書類の中で光るいくつかの本やバインダーのうち、ひときわ強く光るバインダーの背を杖でコンと叩いた。するとバインダーは勢いよく書架から飛び出し、ナタリーの眼前で空中に停止した。マーガレットは驚いてのけ反ってしまう。

バインダ―が自動的に開かれると、そこにあるのは何やら写真のついた経歴書だった。その写真と人物の名を見て、ナタリーは「なるほど」と頷く。

「もし、海軍本部に出入りしているのが本当にこの人物で、事件に何らかの関りがあるというなら、確かに扱いは面倒な事になるわね」

「いったい何をやったの、今のは?」

 マーガレットは、ナタリーが探り当てたバインダーの内容よりも、いまナタリーが実行してみせた魔法らしき現象に驚いていた。ナタリーが杖を振るうと、書架を走っていた光のラインは一瞬で消え去った。

「これは、私の得意な『検索魔法』というものよ。何らかのキーワードや写真があれば、それに合致する情報が記された書類だとかを、自動で探し当ててくれるの。局のみんなも、覚えておくと便利よ」

「できるわけないでしょ!」

 マーガレットは目の前で起こった出来事に理解が追い付かず、突っ込みを返すのが精いっぱいだった。資料を探り当てるために複数人で書架と格闘するというのに、3年前にこの局から警察の部署に異動を命じられたナタリーは、杖のひと振るいで目当ての情報を抜き出したのだ。いったい魔法とは何なのか、国内外の情報を収集する情報局であっても、その謎にはいまだ辿り着いてはいなかった。

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